イルカを喰う中年
2002/10/25

疲れたとき元気になるには、ここに来るのが一番。何しろ、自宅最寄りの幡ヶ谷駅改札口から0分のところだもの。さあ、今日はどんな珍しいものが出るかしら。

鶏の前菜から始まるのはいつものとおり。と、次にマスターが準備しているものは、あまりお目にかからない材料のよう。いつものカウンター席から、連れとのぞき込んで、
「マスター、それ、何?」
「イルカ」と、あっさり。
「ええーっ、そ、それは、禁制品では?」
「いやいや、静岡あたりじゃ、よく食べるよ。私の生まれの千葉でも…」

アメリカ人なら目を剥くような気がする。何しろ、マスターは満漢全席を食べに中国に行くとき、熊猫は食べられないかと、現地に照会したような人だから。まあ、それは冗談半分だろうけど。
 さて、イルカ、とても柔らかいフィレのような食感で、噛んでいるうちに口の中のなかに溢れてくるのは鯨に似た味、いやあ、長生きはするもの、初めて食べるものが、まだまだ、ある。

次に出てきたユリの花も、この店で食べたのが最初。これは貝柱との炒め物。コリッとした歯触りでお芋のような感じ。そして、元気が出ることでは極めつけの、スッポン、ネギ、椎茸のうま煮。最後は野菜たっぷりの温麺で締める。ああ、しあわせ。

「マスター、テレビで嘘言ってたでしょう。面白いお題でやりがいがある、とか何とか。うちの店では食材は本物だけ、もどきは出さないと言ってたのに…」
「ははは、いやあ、相手に喜んでもらわないとねえ」

それは、先週土曜日に放映されたNHK「新・男の食彩」のこと。漫画家のやくみつるが食べる人で、お題は「もどき中華」。店に来る前に、デパ地下でモッツァレラチーズを買ってきて、マスターに「これをアワビにしてよ」と、注文しようと本気で考えていた(新宿で8時を過ぎたので今回は見送り)。あと、あの番組ではピータンをナマコに仕立てあげたりしていたなあ。

NHKの取材の日に食べに来ないかと言われていましたが、その日は都合がつかず、せっかくの全国放送に登場する機会を逸したのは残念。今回が二度目の同番組出演だから、三度目があるかも知れないし、その時こそ。

テレビに出ても、この店は門前市をなすということはない。マスターのファンの常連が、いつも半分以上かな。メニューもなく、「おまかせ」のみ。表には怪しげな干物やソーセージがぶら下がっているから、初めて入るのには勇気がいる。でも、マスター石橋幸さんは、気さくで腰の低い人。

幡ヶ谷駅ビル地下、龍口酒家、通称チャイナハウス。

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