️伊勢のピラミッドふたつ ~ 局ヶ岳と高見山
2003/5/4

 前日、泉佐野のりんくうタウンのアウトレットモールに家族で買い物に行ったとき、おかあちゃんに「明日、車を使っていい?」と切り出して、許可をもらった三連休の真ん中の日曜日、奈良に戻って初めての山登りとなる。息子たちを誘ったら興味を示さず、オヤジひとり、5時過ぎには自宅発。

高校生のころ、曽爾火山群と呼ばれる三重との県境の山々にはよく出かけた。交通手段は大阪から電車とバスでずいぶんと時間がかかった。そんなことで、三重県側まで足を踏み入れることはついぞなかった。今なら車で2時間走ると飯南郡飯高町、国道166号線(伊勢街道)の山越えは立派なトンネルになっていてびっくり。県境から松坂までの距離の半分ぐらい行くと、目指す局ヶ岳の姿が見えてきた。

近畿の中央部、紀ノ川から櫛田川に繋がる構造線に沿って東西に伸びる山塊、その東端の秀峰が局ヶ岳(1029m)。地図でその存在はずっと前から知っていたが、訪れる機会はなかった。

あまり知られていない山なので、頂上で夫婦ひと組に顔をあわせただけ。人よりも、登山道でひなたぼっこをしているトカゲやヘビの多いこと。足音が近づくと、カサカサと枯葉の音がするので目をやると、いるいる。あとで動物には詳しい長男に写真を見せたら、「こりゃ、マムシだろうね」、やっぱりそうか。

珍しく山頂の記念写真があるのは、出逢ったご夫婦に撮していただいたから。登山口に駐車していた車が群馬ナンバーだったのは、高崎から三重に連休で帰省中とのことで合点がいった。
「群馬なら、いっぱい、近くにいい山がありますのに…」
「ええ、あちらでも沢山登りましたよ。信州方面が多いですけど」
「高崎なら、どちらに向かうにしても近いですしね。私も3月まで東京だったので、よく出かけました」
「そうなんですか、言葉がこちらの人じゃないと思いました」

見ず知らずの人と話すときは標準語、いちおう、関西弁とのバイリンガルのつもりの私。しかし、伊勢の知られざる山の頂上にいるのが、群馬に住む人と、このあいだまで東京に住んでいた人間というのも不思議な感じだ。

山頂の眺めはいいにはいいが、中部電力の巨大な反射板があるのが無粋。見えるはずの伊勢湾もかすんでいて視界に入らず。まあ、こんなもの。頂上には、「飯南町史」から引用した文章が掲示されていた。

飯南町大字上仁柿と飯高町の境にそびえる局ヶ岳は、伊勢三山(白猪、堀坂、局ヶ岳)の中の雄峰である。昭和20年2月海軍輸送機が激突して、中曾根良介ら12人の軍人が全員死亡する悲しい歴史を残しているが、局ヶ岳の古い伝承の中にも哀れな物語が残されている(『南勢雑記』)
 局ヶ岳には市岐嶋姫命(いちきしまひめのみこと)が祀られていて、麓の宮の平(栗又)に一の宮があった。宮の平は城の口を経て北畠國司(きたばたけこくし)の多気館(たけのやかた)に近かった。あるとき一人の局(女官)が祈願のためか、一の宮から険しい山路を分け入り、奥の宮に参籠してふたたび姿を見せなかったという。だが、その局の執念は山中にとどまった。その後、山小屋に入って働く樵夫達は、しとしとと雨の降る夜、山上に美しい局の姿を見るようになったという。その物語は、局ヶ岳の名にふさわしいものでもあった。

これ以外にも、山頂には地元の有志の人たちによる立て札が、何本かあり、コースガイドや局ヶ岳を詠んだ俳句が書かれたりしている。その立て札の柱には、「つぼね倶楽部」という名が…。私は一瞬、ベテランOLの親睦会かなと思ってしまった。

早朝の出発、車で奥まで入って山頂を往復なので、下山したときはまだ11時すぎ、行きがけの駄賃にもう一つのピラミッドに登ることにした。むかし何度か登ったことのある高見山(1248m)。往きにトンネルで抜けた高見峠を旧国道で辿れば、県境の大峠(高見峠)からは1時間足らずで山頂に立てる。

新緑の中を登ると、さすがに急登で、陽も高く、汗が噴き出す。このあたりでは目立つ鋭峰で、風が強く積雪期の霧氷で有名な山だけど、5月の風は心地よい。山頂の立派な社、昔はなかったなあ。

かすんでいるとは言え、近くの薊岳、国見山、特異な山容の曽爾火山群の山々、遠くは大峰山系の大普賢岳あたりまで見通せる。私にとっては30年ほど前に登った山々が多く、とても懐かしい。
 帰路、振り返ると、高見山が綺麗に見えた。バスが入る登山口の杉谷から西に向かって木津トンネルに入る手前、ここには歌碑がある。「我妹子を いざみの山を 高みかも 大和の見えぬ 国遠みかも」という、万葉集からの歌。持統天皇の伊勢行幸の折の石上朝臣麻呂の作との解説。

交通の便がよくないところだが、車を使うとあっという間に二山を駆けめぐることができる。道路が格段によくなったし、林道の奥まで入るとアプローチも短くなる。
 早起きしたおかげ、帰りに先日の又兵衛桜の近く、大宇陀の「阿騎野の湯」に浸かって帰っても、まだ明るい時間。マイカー登山は、便利で安上がり。とは言っても、最後はガソリン満タン50リットル、洗車付き、レンタカーみたいだ。

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