「オモニの海峡」 ~ ディープ鶴橋の「韓味一」
2003/5/23

環境庁(今は環境省)が選定した「かおり風景100選」、そこで堂々の大阪代表となったのが、「鶴橋駅(JR・近鉄)界隈の焼肉のかおり」。何しろ、電車で居眠りをしていても、鶴橋駅に到着してドアが開いたらにおいで判る。ちなみに、お隣の京都では「祇園界隈のおしろいとびん付け油のかおり」とか「宇治平等院表参道茶のかおり」なのに、「鶴橋の焼肉のかおり」とは、いかにも大阪らしい。

大阪勤務に戻る少し前、昔の職場宛に来た葉書が転送されてきた。そこには、懐かしい「韓味一」の名が。10年ほど前から通っているこの店の女将さんの出版記念パーティーの案内状だった。本のタイトルは、「オモニの海峡」。残念ながら、パーティーには出席できなかったが、本は申し込んだ。女将さん朴三淳さんの韓国・日本にまたがる半生記、一読三嘆とはこのこと。店のファンのマスコミ人による聞き書きに基づいた本で、私がこれまで断片的に女将さんから聞いていたこと、客観事象から自分で想像していたことが、全て繋がった感じだ。明るくエネルギッシュに、前途の障害を克服してと、なにやらNHK朝ドラのヒロイン風だが、ちょっとそれでは形容が不足するかも。凄まじい人生だ。

本の内容はともかくとして、オッサン6人で出かけた今夜の料理(メニューなし、「おまかせ」のみ)。

前菜がいつものようにテーブルにいっぱい。韓国海苔、フグの唐揚げ、生レバー、韓国風鯛の煮付け、生の高麗人参スライス(蜂蜜をつけて食べる、土の味がする)、蒸したホタテ貝、ナムル盛り合わせ、春雨と野菜の和え物、カルビ・大根・人参の煮付け、カボチャのチジミ、キムチ…(他にもあったような)。

これが片づいたら、いよいよ焼肉。ドカンと大皿に骨付きカルビとロースが。とても大きなサイズ、女将さんがコンロの上で、料理バサミでジョキジョキ切りながら焼いてくれる。カルビがあらかたなくなったところで、残った骨を火にかける。そうすると骨の周りに付いた肉が反り返ってくるところを、手づかみでしゃぶりつく。これが一番美味しいところ。そしてジューシーなロースをいただくと、普通の人ならもう満腹。

でも、女将さんの参鶏湯は別腹。ナツメ、高麗人参などで、素晴らしいスープが出る。煮たって来たらスプーンで鶏をバラバラにすると、詰め物の餅米が現れ滋養満点の雑炊となる。お代わり続出で、あっという間に鍋底状態。精鋭部隊のせいか、さらにご飯、キムチを追加で頂戴するという、この店では空前絶後の食べっぷりとなる。これまで、何人もの人をこの店に連れてきたけど、絶賛の嵐。鶴橋駅から歩くと10分ではきかない距離、駅前には焼肉屋が軒を連ねているのに、不便でも私はここまで足を運ぶ。

素晴らしいレストランには、共通点がある。まず、料理人が固有名詞で特定できること。韓国料理の朴三淳さん、中国料理の石橋幸さん、イタリア料理の落合務さんというように。そして、その人が直接、素材の吟味から調理に至るまで関わっていること。したがって店の規模は40人ぐらいが限度だし、多店舗展開などとんでもない。5桁のお金を出せば、それなりのものは食べられるけど、4桁半ばの予算で、スーパーな料理を食べることができる店は稀少だ。

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