️窟(いわや)と鎖と石楠花の道 ~ 大峰山脈・大普賢岳
2003/6/7

会社でアウトドア派の先輩と、「週末の天気はどうでしょうかね?」「日曜日は崩れるけど、土曜日は持ちそう」なんて話をしていた。

大普賢岳

前回の山登りから1か月、おそるおそるカミサンに車の利用申請を出す。私を除く家族にはそれぞれ予定があるが、幸いにして電車で対応可とのありがたい回答。勇躍、4:30起床、マイカーを駆って大峰山系に分け入る。

前夜にきちんと天気予報を確認すればよかったのだが、朝の空模様を眺めて、まあ何とか登っている間は持ちそうなんて、気楽なもの。結局、えらい目にあう羽目に…

和佐又ヒュッテ

目指したのは大普賢岳、奈良から熊野に至る国道169号を南下、紀ノ川と熊野川の分水嶺を貫く伯母峰トンネルの手前で、大台ヶ原へのドライブウエイを分ける。そして、トンネルを抜けて国道を離れ、ローギア大活躍の急坂を約20分、そこが登山口の和佐又ヒュッテ。いちおうスキー場ということだが、リフトなんぞはない。自分の足で登って滑り降りるという昔のスタイルのよう。1300mほどの標高とはいえ紀伊半島、滑走可能期間は短いだろう。和佐又ヒュッテの入口付近は花で飾られ、内部もきれいに掃除されていて、とてもいい感じ、ヒュッテ上部にはオートキャンプも可能な芝生のサイトもある。家族と来てもいいかな。

冬はスキー場となる斜面を登ることしばし、すぐに樹林の中を辿る登山道に。朝の冷んやりした空気に溢れているのも道理、まだ8時過ぎ。

笙(しょう)の窟

東側からの大普賢岳への登りの途中、窟(いわや)が連続して現れる。写真はその中でも最大級の「笙(しょう)の窟」。大峰山系は古くからの修験道の地なので「窟」と言うが、もう少し馴染みのある登山用語なら「岩小屋」、さらには「オーバーハング」。みどり豊かなので、遠目には気がつかないが、大普賢岳の東側はスパッと落ち込んだ絶壁が続く。その中腹を縫う登山道に沿って窟が点在している。「鷲の窟」なんて名前のものもあり、見上げれば上空に数メートルはせり出したオーバーハング、確かに猛禽類を思わせる姿。

緩やかな登りで森林浴のあとは、鉄の梯子あり、階段あり、鎖あり。どんどん高度を稼いで、2時間あまりで大普賢岳(1780m)の山頂。蒸し暑くもなく、爽快。曇りがちながら、西から北には、稲村ヶ岳と山上ヶ岳、東に大台ヶ原、南には弥山。眺めはぼちぼち。

大普賢岳の姿は南に辿る稜線からの眺めがいい。水太覗(みずぶとののぞき)から振り返ったのが冒頭の写真、秋の紅葉が素晴らしいとのこと(緑もいいが)。さらに離れて、七曜岳(しちようだけ)の手前からは、大普賢岳を盟主にした鋭鋒の連なりが見事。

石楠花

大普賢岳から七曜岳の間の稜線は、吉野から熊野本宮に至る大峰奥駆(おくがけ)の一部を歩くことになる。奥駆とは早い話が、大峰山脈の長大な縦走路のこと。この日私が歩いた部分は2時間足らずのもの。しかし、すこぶる変化に富んでいて楽しい。スリリングな岩稜あり、明るい笹原があるかと思えば、二重稜線の間の湿地もある。苔むした道もあれば、石楠花の乾いた尾根もある。

この石楠花、きれいな花だが、私の抱くイメージは「獰猛」という言葉。大学生のころ、藪こぎと称して、しばしば登山道のない山に行った。こういう山の稜線には大概、石楠花。道がないから当然に石楠花をかき分けてとなる。これは相当に手強い。枝が密生していて地上50cmぐらいのところを、足は地面から宙に浮いた状態で進んでいく。歩くというよりも石楠花と格闘している感じ。あれは大変、もう、今やれと言われてもご勘弁だ。

あっさり目的のピークに登ったのはいいが、下山には時間がかかった。下りは山の中腹を捲く道をとり、周遊コースにしたからでもあるが、道も荒れ気味だし、距離がある上に、沢筋ではアップダウンもある。

本日初めて、沢に降りたところが「無双洞」。冷たい清水が勢いよく流れている。山稜に向かっては急傾斜、ちょうど湧水のポイントになるのだろう。喉を潤し、水に浸したタオルで汗を拭く。この感覚はもう夏山。振り返って見たら、沢筋の巨岩に人一人が入れるほどの穴、あそうか、それで「無双洞」か。しばらく行くと、沢沿いの斜面に「底無井戸」との立て札。何のことかと足許を見ると…。ひえー、確かに直径1mぐらいの深い穴が岩に。人工物のようでもないし、自然の造形だとすれば、とても珍しいもの。

大普賢岳の連続するピーク

奥駆みちを歩いている頃から、大台ヶ原方面でゴロゴロ鳴り始めた。あちらは毎日雨が降るところだしと、気にもとめていなかったが、遅ればせながら、東から西にやってきた。沢筋で冷たい水で顔を洗ったばかりなのに、全身シャワーの大サービス。あっという間にずぶ濡れ。雨具を着て傘をさしても、大した効果はない。雷が少しおさまるまで、鎖が固定された登山道を離れ、非常食のお菓子を食べ、煙草を吸って時間つぶし。

傘を打つ雨の音、雨具の隙間から、お尻の下からしみ込んでくる水の冷たさ、いやはや、五感で自然を感じるとは、このこと。どうもマゾヒスティックな気もするが、何しろ名うての雨男、この程度では驚かないし、かえって自然との一体感を感じると負け惜しみ。
 ヒュッテに戻る頃には雨も上がり、濡れたものを着替えて、いざ帰途に。この日帰り登山は、コースも(天候も)変化に富み盛りだくさん、充実の一日。

おっと、まだあった。国道169号に入り、伯母峰トンネルを走っていると、暗くて長いトンネルの真ん中あたり、対向車両のライトがまぶしい。うわあーっ、こっちの車線だ、ええーっ、逆行?!ブ、ブレーキ!!

トラックがこちら向きに、私の行く手を阻む形で停止していた。そして、ハイビームのライト。ドライバーなのか、必死で手を振って対向車線に車を誘導している。そのトラックの後ろには、あっち向きに、自損事故を起こした小型車両が。

トンネルを抜けたところにあったラーメン屋で、オヤジさんに頼んで警察に通報、「真ん中のとこ、鉄板で出来とるからな。暗いし下が濡れとるから、追い越ししよったときに滑るんや。ときどきあるんや」

そこから先は、以前とは見違えるように、カーブも緩く幅も広くなった走りやすい道、あのトンネルとの落差が大きい。現場に急行するミニパト2台とすれ違った。いやあ、波瀾万丈。

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