すっ、すごい! ~ ここは淀屋橋
2003/7/2

二年半前まで勤務していたのは、大阪市北区中之島。ま、一応このあたりは大阪の中心地。財政破綻した大阪市役所と、お金は印刷すれば済む日本銀行が御堂筋をはさんで向き合っているのも、何だかブラックジョーク風だ。

それはともかく、会社の最寄り駅は淀屋橋駅。当時は難波から混んだ地下鉄御堂筋線を利用して、心斎橋、本町、淀屋橋と三つ目。地上に出る階段の脇にある売店で、いつもペットボトルのお茶を買っていた。この売店のおばちゃん、しばらくすると、私がスタンドに近づくだけで、冷蔵ケースからアサヒ十六茶が出てくるようになっちゃった。200円を渡すと、「はい、ごじゅうまんえん」と穴あき硬貨のおつりをくれる。それどころか、「おにいちゃん、いい声やねえ。惚れ惚れするわあ」なんて。

んまあ、いかに客商売とは言え、乗降客が引きも切らない中でのこの余裕!おそるべし、大阪のおばちゃん。こちらも人が悪いものだから、たまに「今日はニチレイのアセロラドリンク!」なんてフェイント攻撃。はっはっは。

今度の大阪勤務はオフィスはOBPに変わったけど、仕事の関係で淀屋橋駅にはよく降り立つ。いたいた、あのおばちゃん。さあて、今度はどうやって、おちょくってやろうか。おばちゃん、どんな切り返しでくるかな。なんて思っているうちに、その売店は工事で閉鎖。ありゃあ。

地下鉄の特別回数券

仕方なく駅構内の別の売店へ。地下鉄の改札口に向かいながら、ふと思いついて売店にUターン、懐の財布を取り出して、売店に近づくと、えっ、売店のおっちゃん、ニコリともせず、「はい、これ」とカードを指にはさんで振っているではないか!

「すっ、すごい」、完全に読まれている。何という観察力!「おぬし、ただ者ではないな」

それは、地下鉄1区特別回数カード、2000円で12回分(大阪の地下鉄は初乗り200円と高い)。今度は、このおっちゃんに、どんなフェイントをかましてやろうかなあ。

大阪市営交通で思い出すのは、市電(路面電車)。こどもの頃、ずっと市電の切符は停留所にいるおばちゃんから買うものだと思っていた。そうじゃないと知ったのは、だいぶ大きくなってから。これは大阪の「三方一両得」のシステム。

おばちゃんが売っていたのは回数券、それをバラ売りするのだ。ほとんどのお客はおばちゃんから切符を買っていたように思う。市電の中で車掌から買えばいいのだが、混んでいたりすると面倒だし…

大阪市交通局にしてみれば、民間活力の利用であり、むやみに市職員を増やさなくてもいい。おばちゃんにしてみれば、実入りは多いとは言えないけど、ちょっとした小遣い稼ぎになる。お客にすれば、値段は同じで、いわば自販機の方から売りに来てくれるのだから楽でいい。

そんなシステムは、市電が地下鉄に替わっても、しばらく続いていたように思う。おばちゃんの姿が消えたのは1970年の万国博覧会の前だろう。このころが悪しき画一性、建前文化が、大阪を侵食しだした分水嶺のような気がする。

しかし、淀屋橋の売店を見る限り、どっこい、大阪らしさは生き残っている。

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