️初めての文楽、そして…
2003/11/7

一夜明けた土曜の朝刊一面には、文楽がユネスコ「世界無形遺産」に認定されたとの記事、何と、私が初めて観た日に、それが決まったということか!

「世界無形遺産」、正式には「人類の口承および無形遺産の傑作の宣言」ということらしい。「能楽」は既に認定されていて、「文楽」の次は「歌舞伎」だと言われているそうな。

文楽は、約400年前に上方に生まれ、今は私の地元大阪の日本橋(にっぽんばし、国立文楽劇場を本拠地に上演されているが、これまで出かけたことはついぞなかった。ウチの家族はホームステイしていたアメリカ人高校生を連れて観に行ったことがあるのだけど。

初めて足を踏み入れる国立文楽劇場、私がミナミをウロウロしていた高校生のころにはなかったはず。ラブホテル、風俗店、飲食街…。周りの土地柄はあまり変わっていないなあ。

しかし、昼の部11:00、夜の部16:00開演というのは、休日はともかく「勤め人お断り」というに等しいものがある。ただ、江戸時代の町人は15:00ぐらいには仕事を終えていたらしいので、その伝で行けば、現代の17:00終業、18:30オペラ開演(欧米だと20:00が多い)というのと違いがないのかも。そもそも、道楽するなら仕事なんか休めばいいじゃないかという発想かも知れない。

電話すると18:45からの幕見が可能だとのことで、1500円払って途中から。「大経師昔暦(だいきょうじむかしごよみ)」中の巻・下の巻を鑑賞。いわゆる「おさん茂兵衛」のお話。11月は生誕350年を記念して近松名作集がかかっている。遠路、大阪まで観に来られた方のお誘いがなければ、観ることもなかった文楽だったが、初めてにしては充分に楽しめた。

文楽とオペラ、舞台芸術として洋の東西の違いはあっても、基本的には共通するものがある。ずいぶん色々なオペラを観てきたから、文楽の様式美の受容など造作もないこと。上手の床で、太夫と三味線弾きが義太夫節を語るのは、通奏低音とレチタティーヴォを二人でやっているようなものだ。舞台上で、主(おも)遣い、左遣い、足遣いの三人の人形遣いが人形を遣うのは、生身の人間が歌い演ずるオペラと異なるが、それはそれで、下手なオペラ歌手よりも雄弁に、所作で心情・ドラマを語る。もっとも、幕見席からでは、急遽出動でオペラグラスなしの私には、人形の表情までは判らない。

京都の岡崎村の段で延々繰り広げられる親子の情愛の機微、「椿姫」の第2幕第1場を思わせる。これが全編のクライマックス。もっとも、後者の場合は、父親の優しさよりも非情さが前面に出るところが対照的。その後に、終幕の破局が短い時間に一気に演じられるのも、作劇の基本で共通している。

文楽を観ていると、物語に出てくる地名がどこのことか、どういう場所か、さらには地点間の距離感も判るだけに、関西人には鑑賞にあたってのアドバンテージがあるだろう。そう言えば、傑作「冥土の飛脚」の新口村(にのくちむら)の段なんて、山登りに行くとき、いつも車で通る場所だもの。

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