️リクエストで税金回収 ~ マキャモン「魔女は夜ささやく」
2004/5/31

仕事で一緒になった先輩の方、訪問先への電車の中で雑談していて、その人が主宰する「読書部」の話になった。
「何か面白い本があったら紹介してください」
「そうですか、そう言えば、このあいだ私のホームページにひとつ感想文をアップしています。今度お見せしますわ」

それが、先の「反音楽史」の感想。余談ながら、これを自分のホームページに掲載すると同時に、常連になっているクラシック音楽系の掲示板にスレッドを立てたところ、ツリーがどんどん伸びて熱い議論に発展した。それはともかく、「読書部」の月刊誌に転載いただいたと思ったら、すぐさま美人編集長が年会費1000円の集金に!「うわっ、はめられたあ!」

ま、いいか、どうせ会費を払ったのだから、書かにゃ損ソン。ということで、今月も執筆。音楽書の続きは別項に譲って、私には珍しく海外小説。ロバート・R・マキャモン「魔女は夜ささやく」二宮馨訳(文藝春秋)という本について。

その作家が気に入ったら集中して読む傾向が私にはあり、マキャモンもその一人。これまでに翻訳された次の作品を読んだ。

「スワン・ソング」加藤洋子訳(福武書店)
 「ミステリー・ウォーク」山田和子訳(福武書店)
 「マイン」二宮馨訳(文藝春秋)
 「少年時代」二宮馨訳(文藝春秋)
 「遙か南へ」二宮馨訳(文藝春秋)

近時、アメリカ南部出身の作家は多士済々だが、マキャモンもその一人。この人は一作ごとにかなり作風の変化がある作家のようだ。

核戦争後の荒廃した世界を描いた「スワン・ソング」、超自然・超能力ものの範疇になる「ミステリー・ウォーク」、ノンストップアクションという見方もできる「マイン」、その延長線上にあるロードノベル「遙か南へ」という具合。一言で、モダン・ホラーと片づけられることもあるが、ちょっとそれでは一面的か。
 そして、今回の「魔女は夜ささやく」という作品は、「少年時代」の続編という感じかな。

「少年時代」には作者の少年期が投影されていると思うが、貧しい家庭に育った多感な少年が、周囲との大人や子供との交流を通じ、色々な事件を経て成長して行く過程が鮮やかに描かれている。映画「スタンド・バイ・ミー」の世界と共通するものがある。少年時代に誰しも経験があるほろ苦い心情が蘇る傑作だ。

「魔女は夜ささやく」は舞台も主人公も一転、アメリカ独立のころ、東海岸の入植地での魔女裁判が主題になっている。この魔女裁判を担当するために派遣された判事とその助手。助手は孤児院で判事に見いだされて、養育された身の上だ。血は繋がっていないが、あるときは反発しつつも、実の父子以上の絆で結ばれている。

入植地で起きた何件もの怪死の張本人として、魔女に仕立てられたのは南欧系の女性。手続きを早く済ませて処刑してしまいたい入植地のボスと住民たち、言わば無法地帯で法の裁きを貫徹しようとする判事と助手、調査の過程で明らかになる入植地建設時の秘密、ミステリーと言えば確かにそのとおり。冒険あり、謎解きありで、そちらに興味が行きがちだが、ただ、この本の主題は、主人公たる判事助手の人間的成長の過程にある。裁判のさなかに病を得て倒れる父親とも言える判事との別れ、ひとり残されて真実を求め立ち向かう彼は、もはやこの事件の前の彼ではない。立派に成長した青年がそこにいる。

それが、「少年時代」の正統な続編と見る理由だ。10年もの休筆期間をおいて上梓された作品だけのことはある。読み応え充分。
 マキャモンが好きな理由のひとつは、彼の書くものには「詩情」があることだ。加えるにヒューマニズムだろうか。おどろおどろしい題材を扱っていても、彼の作品の読後感は爽快なのが不思議だ。

上下巻の長編、あわせて5334円(消費税込み)なので、いつものように図書館のごやっかいに。
 このひさかたぶりのマキャモンの新作は図書館にもなく、購入をリクエスト。お役所だから稟議したり何やらあるのだろう。忘れたころに電話連絡があった。
 いいですよ、それぐらい待ちます。なんてったって、源泉徴収ガラス張りのサラリーマン、合法的に税金を取り戻す手段は、他にあまりないものね。

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