️「ダ・ヴィンチ・コード」 ~ 軽薄なるかな、アメリカンカルチュア
2004/10/12

カミサンが買ってきて読みふけっていた本、私に回ってきた。新しいミステリーの上下巻、10月の連休中に読み終えた。ダン・ブラウン「ダ・ヴィンチ・コード」(角川書店)。

ミステリー自体は嫌いじゃないし、これまでけっこう読んでいるほうだが、まあミステリーの90%は腰砕けかなあ。一気呵成に寝不足覚悟で読み進んでも、3/4あたりに来るともうネタバレのものがほとんど、この本もその例にもれない。

謎解きの舞台がウェストミンスター寺院に移ることは充分に想像がついたし、いくつもの暗号の最後の解"APPLE"を、どうして彼らがすぐに思いつかないのかまだるっこしい。さらに大団円に近づくと、二つの正三角形が表すダビデの星、その現実世界の構築物としてのルーブル美術館の上下の硝子のピラミッドなどが提示されるが、これらは見え透いた伏線の結果で驚きもない。そして、秘密はその下に…という結末。

結局、ルーブルで始まりルーブルで終わる、その間のドラマは正味一日、このあたりは作劇の基本に忠実だ。読んでいて確かに面白いんだけど、最後の1/4は、謎は先に解けちゃうし、あーあやっぱりという感じ。

文学というつもりで読んでいる訳ではないにしても、あまりに登場人物が薄っぺらだ。ハーヴァード大学教授にして宗教象徴学の権威、主人公のロバート・ラングドンなんて、ハリソン・フォード演じるインディ・ジョーンズを借りてきたとしか思えない。彼は少なくとも48時間は眠らず、パリ・ロンドン・エジンバラと謎解き逃避行、何とも強靱な体力です。正直言って、「なあーんか、あほくさ」

驚異の750万部だそうだ。この著者はきっと一財産築いたことだろう。アメリカンドリーム、ベストセラーで一発当てる。これから映画化ともなれば、もうウハウハの世界だ。

アメリカの書店では、平積みの本の量は半端じゃない。ワッと置いて一気に売る。エンターテインメント系の本は特にそう。日本でも最近はそんな感じになりつつあるが、それでも書店の入口付近には多種類の本が並んでる。あちらでは、こんなもんじゃない。もうむちゃくちゃ、スーパーの目玉商品のロールペーパーよろしく、ドカンと山のように。さすがに「お一人様5冊限り」なんて書いてはいないけど。

これもカルチュアの違いなんだろう。あちらでは読書家という層はごく限られている一方で、映画を観る人の数は多い。ハリウッドがあれだけの産業になっているのだから。映画を観るマスの人たちに買ってもらえる本がアメリカにおけるベストセラーの称号を勝ち取ることになる。つまり、面白くて刺激的で、後に何も残らなくても、ひとときの楽しみを得られるもの…

貶してばかりいるが、この本はキリスト教の暗部に迫るという意味では、画期的な書物という見方もできるのだと思う。もちろん、著者独自の成果とは言えないが、近時の新しいアプローチの研究成果のエッセンスを巧みに取り込み、興味津々のミステリーに仕立て上げた才能は大したものだ。

思うに、アメリカという国は一見するところとは異なり、宗教(キリスト教)の呪縛が強い国だ。何かにつけて神が登場する。多くの日本人が葬式のとき以外に宗教と関わりを持たないのとは大違い。近代文明の行き着く先としての姿と、中世さながらのキリスト教との併存、摩訶不思議な世界だ。だから、この本が売れた?

自分自身、宗教とは縁がなく、その排他性・独善性には嫌悪の念しか抱かないだけに、こうしたアメリカ人のメンタリティはなかなか理解し難いものがある。やたらと「神」を口にするブッシュ、神ならぬ悪魔の示現のようなラムズフェルドが「正義」を唱える。あの9.11以来、ブラックジョークとしか思えない映像を目の辺りにしてきて、宗教は本来邪悪なものではないか…との感をますます強くしている。

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