銀行御用達? ~ 「風の旅人」
2004/11/27

銀行のソファで、マガジンラックにあった雑誌を何気なく手にとった。
「あ、これ、S君が前に言っていた雑誌だなあ」

外に出る仕事なので、取引先訪問のついでに銀行に寄ったのはいいが、昼休み時間と重なり、長いこと待たされるのなんのって。まあ、亡くなった父親の預金相続という面倒な処理だったし、貸金庫の解約も同時だったから仕方ないところもある。おかげで(?)、2冊(7号・8号)に目を通す時間がたっぷり。

第7号表紙

この雑誌は、待合室を想定したものかも知れない。
 まず、装丁の立派さと紙質の良さで目をひく。パラパラとめくって写真を眺めるもよし、短いエッセイを読むもよしというところ。どこから見ても(読んでも)いいし、どこで止めてもいい。まさに、銀行・医院向きかなあ。これが美容院だと、ちょっと1冊では時間が持たない。やはり、あちらはゴシップ満載の女性週刊誌が人気だろう。
 隔月刊行で一冊1200円、自分で買うにはちょっと高い。そんなに何度も見るとは思えないし…
 ユーラシア旅行社という耳慣れない会社が出版元で、ホームぺージにある、編集長の紹介をかねたメッセージは次のようなもの。

第8号表紙

『風の旅人』は、これまでの日本にはない、地球規模の大自然や人間のドラマを取り上げる“心の旅の雑誌”です。毎号、桁違いの映像美と言葉の共演によって、世界との新しい関わり方を提示していきます。情報が溢れ複雑怪奇に見える時代に、ヒトが生きることの原点にたち返りたいというのが、創刊の動機であり、編集の核です。目の前を流れていく光景をただ何となく見てやり過ごすという、テレビ風の受け身の情報文化に慣らされた時代に、思いを籠めて対象を見つめ、しっかりと向きあっていく、能動的な媒体にしようと考えています。単に時代の気分を匂わせるものではなく、何かの役に立つかどうかでもなく、未来につながっていく何かを、一人称できっちりと伝えていきたいのです…

確かに、A4サイズの雑誌の見開きいっぱい、はっと息をのむようなグラビアの美しさだ。星野道夫のグリズリーの写真なんて、この人がカムチャッカでヒグマに喰われて亡くなったのも不思議じゃないと納得するほどの迫力。中野正貴という写真家による大阪の写真も、この町の猥雑さとエネルギーを感じさせる。パチンコ屋の極彩色の幟の列、粗大ゴミの山、ヤクザのあんちゃん…

S君曰く、「或る動物学者の書いた文章が気に入りました。それは、人間の生きる意味について述べたもの。私が日ごろ感じていたことを上手くまとめてくれたような気がして、思わず膝を叩いて納得するところでした。銀行の中だったので、それはしませんでしたが…」

私の読んだ号にもそんな文章があったような気がする。いや、あれは別の雑誌だったかな…最近、もの覚えが悪くなって。
 バブルの時代、いかにもお金をかけた企業の広報誌がたくさんあった。社内向ではなく社外一般向、内容も本業とは関わりのないもので、グラビアやエッセイなど。企業のイメージアップ、ファンづくりを狙ったものだった。
 「風の旅人」、企業スポンサーのお抱えだったこの種の雑誌編集が独立したという感がある。したがって、たとえ写真といえど、中庸を良しとするものでなく、メッセージ性が強いし、ましてやエッセイにおいては。
 だけど、採算ベースに乗るのかなあ。まあ、金融機関の店頭を制圧すれば、万単位での部数は確保できそうだけど…

(2015/10/1追記)

いま、この雑誌("雑"という文字は似合わない)がどうなっているのか探してみたら、中断を挟んで50号(復刊6号)が近々出るという。ところが、次の51号をもって休刊となるらしい。悪貨は良貨を駆逐するとまでは言わないが、大衆社会とはそういうものなのかも。

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