トーキョー・アンダーグラウンド ~ 「帝都東京・隠された地下網の秘密」
2005/3/3

時間待ちの書店での立ち読み、平積みされていた「帝都東京・地下の謎86」(秋庭俊)という本を手に取った。最近出たばかりの本で、パラパラと読むとなかなか興味深い。東京の地下の名所、なーんか変なところが、86か所ピックアップされている。地下鉄が走る前から、東京には秘密の地下網が作られており、その手がかりがここにあるという筆致。国民を欺く行為と、著者はどこか怒っているようだが、なんでそういう話になるのかピンと来ない。でも、それぞれの場所には、東京暮らしの間に見知った場所も含まれているので、よけいに興味を引かれる。

時間潰しの立ち読みでは通読もできず、巻末に紹介のあった前著を図書館で借りた。当然にノンフィクションのコーナーにあるかと思えば、さにあらず、建築・土木のコーナーだった。
 「正」と「続」、あっという間に読み終えた。巻置く能わず、推理小説以上の面白さ。しかも、これが、読み進むにつれて、虚構ではないと思えてくるのが怖いところ。

地図によって記入された地下鉄の路線が明らかに違っている。場所は国会議事堂周辺、一方は交差し、一方は並行する。事実はひとつのはず。また、ある地図では明らかに地名の表示が誤っていたり、重要性があるとも思えない地名が他を押しのけて表記されている。そんな疑問に端を発し、各種の地図は言うに及ばず、古文書、戦前の議会の記録、公団の資料、設計図…。膨大な資料を漁り、口の重い関係者の証言を積み重ねていく。そして、自身は地下鉄に乗りつづけ、壁の向こうの見えない世界を推理する。新しく開通した路線なのに、壁はどう見ても長い年月を経たように見える…。

著者は元テレビ朝日のジャーナリスト、門外漢である建築分野の難解さに呻吟しながら、地道に取材と推論を積み重ねていく過程は、知的興奮を味あわせてくれる。スリリングでいて、地下の闇の向こうには空恐ろしいものが見えてくる。著者が(身の安全上)明確には書いていないものの、ストレートな表現で要約すると次のとおり。

東京の地下には隠された地下網が存在する。それは江戸時代に作られた抜け穴が最初のもので、関東大震災後の復興計画で、地下網が構想され、地下鉄の敷設も始まった。第一次世界大戦で空爆の脅威に備えるため、防空壕の役割も果たす地下道、地下鉄が網の目のように張り巡らされた。それは、最初の地下鉄、銀座線が供用されるずっと前のことである。戦前の都内の公共工事で膨大な予算を費やしながら目に見える成果がほとんどなく、今なら議会で大スキャンダルになるところだが、大きな騒ぎには至らなかった。そして、戦後、地下鉄の路線はどんどんと増えたが、多くの場合"既にあった"地下鉄を"一般に"供用したに過ぎない。

関東大震災から75年、コンクリートの耐用年数が切れる現在、そのことを知らずに、トンネルの上に人は住んでいる。地下の工事は地下鉄建設だけでなく、崩落を回避するための工事かも知れない。
 さらに地下の重要性、防衛上の機密については、これを否定するものではないが、本当に機密とすべき事柄はわずかである。しかるに、機密を隠れ蓑に、2回目(または3回目)の地下鉄工事のため投じられた国民の金は、本当に正しく使われたのだろうか。まさに東京の、日本の暗部にメスを入れる迫力。ひょっとしたら、妄想に取り憑かれたジャーナリストによる"天下の奇書"かも知れない。

本当に巨大な地下網が存在し、都民の知らない地下鉄が走っていた(いる)としたら、設計・工事・運行・保守などに関わる人の数は膨大なはずだ。なのに、こういう話が公然と語られることのないのは何故か。そのことを思うと、背筋の寒くなる思いも…

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