ご近所の美術館へ ~ 大和文華館の狩野派
2007/11/11

職場で回ってきた「特別展 大倉集古館所蔵 江戸の狩野派-武家の典雅-」なる招待券。家の近所だし行くかもと、貰ったはいいが、気がつくと最終日。「こりゃ、いかん。もったいない」と、午後からお出かけ。30分ぐらいで見終わって、その後はスーパー銭湯の露天風呂のつもりが、2時間以上も大和文華館にいた。

ぼちぼち紅葉も始まった広い敷地内の木々を眺めながら、だらだらの坂を登り大和文華館の展示室に。入口を入ると左手の講堂では何か講演会らしきものが。開始10分前、ちょっと覗いてみようかと入場。京都国立博物館主任研究員の山下善也氏による講演会「江戸狩野派の魅力」という催し。

今回の展示は狩野派の源流である室町時代の巨匠ではなくて、狩野探幽以降の江戸狩野派ということ。重要文化財・探幽筆「鵜飼図屏風」をはじめ、江戸幕府の御用絵師をつとめた狩野派の絵画作品の展示。なので、件の講演のテーマ、ということは、お話を聴いて判ったこと。

美術関係の講演会を聴くのは初めて、退屈したら途中で抜ければいいやと思っていたが、なかなか面白い。しばらく前に観たことのある二条城の障壁画から話が始まったことも興味をそそられた。多数の係累や門弟からなる狩野派の絵師の同定を城内の部屋の配置や格式の高低から推理するのだとか。

話の後半は専ら狩野派絵師36人が筆をふるった一対の「牛馬図」について。これは山下氏が前に勤務した静岡県立美術館所蔵の作品らしい。筆頭の狩野探幽から末端の弟子まで、年齢にして70代から10代まで、個々の絵師の個性、巧拙など、部分部分を拡大しながらの解説を聞くと、とても面白い。二条城と同様、ここでも係累と門弟など、狩野派の仲での格付が反映されている由。また、落款の内容を各種の古文書と照合して作品の成立時期を絞り込んだそうだ。

さて、お話が終わったところで、「もし、質問があれば…」ということになり、果たしてする人がいるのかなと思ったが、これがいるもんだ。

「この狩野派絵師総出演とも思える牛馬図は、何らかの祝い事のために書かれたとのお話でしたが、36人もの絵師を並べ、御用絵師としての売り込みを狙ったカタログというような意味はなかったのでしょうか」
 「なるほどね。私はそういう発想はなかったですが、あり得ないことではないですねえ。新しい視点かと思います」

「ご説明のあった牛馬図はどこに行ったら見られるんでしょう」
 「静岡にありますが、ご承知のように、文化財の展示というのは保存の問題もあって常時ということはないんです。いつ出るかは何とも言えませんが、美術館に問い合わせていただいたら判ると思います。そうですね、5人ぐらいから問い合わせがあれば、プレッシャーがかかって、出そうかなということになったりしますので」と美術館の内幕を。へえっ、そんなものなのか。

便乗して、私も手を挙げてアホな質問。

「牛馬図のご説明は大変興味深く拝聴しました。お話の中にはなかったですが、牛図と馬図を対比すると、馬図では各絵師の配置のバランスが取れているのに対し、牛図ではレイアウトの拙さが目立つように思えます。これは、先に書いた牛図でのバランスの失敗を馬図で矯正したということでしょうか」
 「うーん、そうかも知れません。寄せ書きではよくありますね、下っ端から遠慮がちに書き出して、上司のスペースを空けておいたら、詰まったり変なところに空白が残ったりすることが。あれと同じことが牛図には起こったんでしょうね。前の絵に後から書いた絵が重なっている部分もあるんですよ」

一方通行の講演かと思ったら、最後にはいろいろと講師とのやりとり。なかなか楽しい時間を過ごした。江戸狩野派を観た後では、京都国立博物館でやっている狩野永徳展に益々行きたくなるが、開催期間末の次の週末には予定がありそれは叶わず、残念。そして、結局、この日は露天風呂にも行けず。ま、いいか。

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