️「びわ湖ホール」を救う ~ 三方一両得のソリューション !?
2008/6/3

滋賀県の予算削減で、びわ湖ホールのオペラ上演が危機に瀕しているとの報道が波紋を呼び、ファンの署名運動などが展開されたのは記憶に新しいことだが、今後の動向は不透明なまま。さしあたって、平成20年度は1億円の予算が削減されるとのこと。26000人もの署名を集めたのなら、単純計算で一人4000円のカンパをすれば軽く1億円を超えるじゃないかと思うけど、行政に陳情するために署名することと、自分の財布から金を出すことには大きな距離があるのは自明の理。

県議会ではびわ湖ホールの予算を削って福祉医療費に充てるべしとの声も強いようだ。こういうトレードオフの議論になると、どちらが多くの選挙民にアピールするかという話になってしまい、そもそも行政が金食い虫のオペラに関わるのはおかしいということに行き着いてしまう。文化芸術の希求は人間として本質的なものであるなどと言っても形勢がよくない。

今回、びわ湖ホールが削減の槍玉にあがったのは、県民の税金で制作されるプロデュース・オペラを享受しているのは県外のオペラファンが多数ではないかという点にもあったようだ。そこで、びわ湖ホールの開館以来10年、毎年のプロデュース・オペラ皆勤賞である奈良県民として何かお役に立てることはないかと、ない知恵を絞ってみた。これまで、過去20年分ほどのOpera Newsをびわ湖ホールに寄贈してきたが、そんなことでは、今後に向けての助けにはならないし。

それで、作ってみたのが以下のスキーム、果たして実現できるかどうか。

①滋賀県外の住民が、ふるさと納税制度を利用して滋賀県に寄付を申し出る。滋賀県のホームページには寄付申込書のフォームが用意されているので、これを利用してもいい。その場合、使途をびわ湖ホールに特定することが肝要。びわ湖ホールへの寄付専用の申込書を用意してもいいだろう。

さて、問題は寄付金額。びわ湖ホールでオペラを観るぐらいだから経済的余裕のある人と考えると、年間の地方税が7桁に達する人も少なくないだろう。平均的に地方税の所得割額を50万円と仮定すると、その10%が還付される限度だから、年間の寄付金額上限は5万円となる。もちろん、もっと少額でも寄付は可能だし、還付を受けられない部分が増えてもいいなら更に多額の寄付も可能。

②寄付の申込みを受けた滋賀県は、寄付の手続き、事後の還付申請の方法等を案内し、寄付者から寄付金を収受する。一定金額以上の寄付者には、寄付の見返りにびわ湖ホールのチケット購入時に利用できるバウチャー(5000円分)を発行する。もちろん、寄付者はバウチャーを辞退してもよい(その場合は、この5000円も寄付になる)。

③滋賀県は、びわ湖ホールの資金として寄せられた寄付金を、びわ湖ホールの事業費(プロデュース・オペラ制作費など)として投入する。今年度の予算削減額1億円を埋め合わせるには、先の一人あたり5万円の寄付金を前提とすれば、2000人から寄付があればよいことになる。

この2000人という数字が可能かどうか、ベースとなるのは滋賀県外からびわ湖ホールに足を運ぶ人の数がどれだけかだろう。現在の「友の会」の滋賀県外の会員数が参考になる。当然ホール側は把握しているが、一般にはその数は公開されていない。会員数を基礎とし、チケット購入実績のある非会員の数を加え、寄付に応じる人の予想割合を乗じたら年間寄付総額が見込めるはず。「友の会」会員へのDMや、非会員へのチケット郵送に際して、寄付申込書を同封し勧奨するなど、当然行うべき取組だろう。もちろん、それ以外の篤志家も現れるだろうし。

④寄付をした人は送られてきたバウチャーを、チケット購入時に利用することができる。バウチャーの有効期間は単年のみ。利用しなかった場合は、結果的にこの5000円も寄付金になる。なお、「友の会」のプレミアム会員として位置づけ、優先予約等の便宜をはかることとにすれば、寄付へのインセンティブが格段に増すと考えられる。

⑤寄付した人は、地方税の還付申請を行う。いったん5万円を滋賀県に寄付した形にはなっているが、これは居住する自治体に納付する地方税の一部を、自身が指定する別の自治体の特定事業に振り向ける選択をしたということ。したがって、滋賀県に回した5万円は、地元から払いすぎた税金ということで返還されることになる。

⑥還付申請に基づき、税金が還付される。そのとき、5000円については控除されるので、5万円を寄付した場合、実際の戻りは45000円。ところが、滋賀県からびわ湖ホール用のバウチャーを贈られているから、これを利用したのであれば、寄付者の実質的な持ち出しは、何と、ゼロである。

さらに言えば、地方税所得割の10%以内ならいくらでも、負担増なしにびわ湖ホールへの資金援助ができるということになる。年収1000万を超えるサラリーマンなら100万円程度が地方税だから、10万円寄付しても大丈夫ということになる。

これは、まるで「三方一両得」というスキームではないだろうか。寄付する人にすれば、一円の負担もなく愛するびわ湖ホールに資金サポートができ、結果として良質な公演を継続して享受できる。滋賀県は受益者負担の考えに沿ったこの寄付制度を運用することで、びわ湖ホールの事業予算への負担が軽減される。びわ湖ホールにとっては、年間事業費が確保されるだけでなく、バウチャーの存在によりある程度集客の向上も見込める。

それでは、割を食うのは寄付者の居住する自治体ということになるが、それはふるさと納税制度に元々存在する問題。他所に流出する税金がある反面、流入する税金もある。プラスとなるかマイナスとなるかは、個々の自治体の経営努力にかかる。さらに、セーフティネットと言うか、逸脱の歯止めとして10%という上限枠が設定されている訳だし。

大都会で暮らす人たちが、生まれ育った土地に対し、これまでに受けた教育等の行政サービスの見合いという意味合いで、地方税の一部を回すことを制度的に担保したのが今回のふるさと納税制度。しかし、使い方次第では制定時に想定していないようなインパクトがあるかも知れない。つまり、基本的には投票行動にによって行政への意思を示すしかなかった我々が、納税(寄付金)という別の強力な手段で意思表示が可能になったということではないだろうか。

(追記 2008/6/12)

本稿は、しばらく非公開としていた。公開前に当事者に直接提言してからと考えたからだった。5日の夕方に投函し、9日には責任者から返事を受け取った。その日付は7日。e-mailでもないのに、驚くべきクイックレスポンス、びわ湖ホールの問題意識の高さを感じた次第。

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