新国立劇場を東京都に
2008/7/19

たまたま新国立劇場のホームページを覗いたとき、奇妙な最新ニュースが掲載されていた。

「芸術監督選定プロセスの詳細開示を求める声明」に対する回答について
 2008年7月14日付で、演劇人有志と日本劇作家協会、日本演出家協会、国際演劇評論家協会日本センターから、新国立劇場運営財団にだされました「芸術監督選定プロセスの詳細開示を求める声明」につきまして、「次期演劇芸術監督の選考とその考え方」として、7月17日に返答いたしましたのでお知らせいたします。

さらに

一部の理事から、審議内容が公開されたことについて
 そもそも、新国立劇場運営財団の理事会で芸術監督選任に関する審議内容は非公開で行われています。それは席上多くの個人名やその資質、評価などが話し合われており、自由闊達なご意見をいただくためです。したがって、討議に参加される方々にも守秘義務があります。このような会議の内容を公開することは問題であり、また、一時間にわたる会議の一部をとりあげることは恣意的な引用の恐れがあり不適切であると考えます。財団の運営に携わる理事として、遺憾なことと考えております。

今回、オペラ、舞踊、演劇の三部門の芸術監督の2010/11シーズンからの交代が発表された後、演劇部門の芸術監督の更迭に対し、演劇関係者がそのプロセスの不透明さに強く反発し、ドタバタ騒ぎに発展しているようだ。

上記の最新ニュース、前段はともかく、後段の記事は全くもって遺憾。内輪の恥を晒すような2ちゃんねるもどきの書き込みとしか見えない。これを公式サイトに掲載するとはどういう神経だろう。批判されている件の理事よりも責任者たる理事長の資質を問いたいと思うし、そんな理事長そのものの選定プロセスの詳細開示を求めたい気持ちだ。
 もしも、特定の理事の資質に問題があるなら、財団法人新国立劇場運営財団の寄附行為(会社の定款にあたる)に定める手続きにより、速やかに解任すれば良いわけだ。

(役員の解任)
第21条 役員が次の各号の一に該当するときは、理事現在数及び評議員現在数の各々の3分の2以上の議決により、理事長がこれを解任することができる。この場合、理事会及び評議員会において議決する前に、その役員に弁明の機会を与えなければならない。
(1) 心身の故障のため、職務の執行に堪えないと認められるとき。
(2) 職務上の義務違反その他役員たるにふさわしくない行為があると認められるとき。

新国立劇場側の考えでは、今回のケースはこの第2号に該当するということになるのだろうが、勘ぐるに、この条項を適用できない理由もありそうだ。つまり、理事会および評議員会において議決する前に、その役員に弁明の機会を与えるということになれば、それだけでマスコミも飛びつく大騒ぎになるし、そうなれば、どちらに理があるか密室の中で片付ける訳にはいかなくなる。

また、さらに問題なのは、理事現在数及び評議員現在数の各々の3分の2以上の議決などということが果てして可能かということ。出席数の3分の2ではなく、現在数の3分の2だから、これは至難ではないだろうか。

議案が役員の罷免ということになると、気軽に白紙委任状を提出して欠席という訳にはいかない。理事会や評議員会の開催頻度や出席状況等の詳細は公表されていないので断言はできないが、委任状を集めて現在数の3分の2という定足数をなんとか満たしているのが現状ではないかと想像する。

寄附行為によれば、業務執行にあたる役員会である理事会の構成メンバーの理事の定員は25名以上35名以内となっており、現在は30名。会社で言えば社外取締役だけの会議体とも言える評議員会の定員は30名以上40名以内であり、現状では理事会より大人数の38名という規模だ。どうも、闊達な議論による意思決定を行う機関としては適正と言い難い気がする。現在の理事の名簿を見ると、オペラ、舞踊、演劇分野から各3名、中央官庁OBが3名、事務局3名、残る15名が財界関係者という構成。つまり半数が企業トップ経験者のお歴々。評議員についても似たような構成だ。この人たちが一堂に会する会議というものは、せいぜい年一回が限度、しかも一年以上前に予定を入れないと難しいだろう。だから、今回のような件で、臨時の理事会・評議員会を開き解任議案を評決するということは事実上不可能とも言える。

今回の騒ぎで端なくも露呈したように、この理事会・評議員会に何かを期待するほうが無理という気もしてくる。仮に、この財団が12月施行の公益法人改革三法の下で公益法人に認定されることになると、そもそも"実際に"過半数の出席が必要とされる理事会・評議員会など成立するのかという疑念が生じる。新法による公益法人においては、委任状出席はおろか、持ち回り決議さえ一切認められないのだから。

今回は演劇部門が争点になっているようだが、オペラ部門も同様かと。任期最初の一年が経過し芸術監督の仕事が見えて来た段階で、次はこの人(しかも適任かどうかも疑問)では、長期的展望に立った取組など望むべくもないと思う。その上、後任に名指しされた人自身が事前に打診もなく突然のことで驚くような人事というのは如何なものか。

たぶん、新国立劇場運営財団は12月以降に公益法人への移行認定申請を出すのだろう。この際には現状の寄附行為を新法に則した定款に変更する必要があり、理事会・評議員会等の組織も大きく変えざるを得ない。これを機に理事長以下、理事・評議員の顔ぶれ一新が急務だと思う。

さらに、公益法人認定に関して言えば、主務官庁が現在の文部科学省ではなく内閣府に一本化される。文部科学省の裁量行政から離れ、(法改正の趣旨どおりなら)より透明性を持った公益法人の監督が行われるはず。

ここで、一つの提案として、国(内閣府)の所管財団法人ではなく、東京都所管の財団法人に移行するという選択肢をとってはどうだろうか。財団が事業を複数の都道府県で行う場合の所管は内閣府、単一の都道府県の場合の所管は各都道府県と、新法には明記されている。ごくたまに地方公演もしているとかの理屈は色々と付けられるにしても、新国立劇場が専ら東京都において事業展開しているのは明白な事実だ。

なぜか評議員には石原都知事も名を連ねているが、この際、新国立劇場(名前も変えたらいい)を東京都に引き取って、懇意の小澤征爾氏を芸術監督に迎えて再出発させたらどうだろう。あの人もウィーンでの仕事も終わり日本に落ち着く潮時だし、指揮はしなくても培った人脈をフル活用して芸術監督の仕事をしてもらったらいいと勝手に想像しているのだが…

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