行くぞ!1000円高速 ~ 能郷白山
2009/5/3

花粉症一過の日帰り登山、どこまで走っても1000円の高速道路、未踏の"酷道"走破、三題噺みたいだが、それを満たす山があった。大学時代に登って以来だから三十数年ぶり。能郷白山(1617m)が、それ。

連休2日目、前夜は早寝で4時過ぎには起き出し、5時には車上の人となる。帰省のラッシュ日ではないにせよ、都市部の混雑回避には早立ちが必須、京滋バイパスから名神高速に入り大垣インターで降りたときはまだ7時台。家人はまだ爆睡中のはず。都市部は別料金だが、早朝割引適用で締めて1350円。

そして、いよいよ国道157号に。揖斐川支流の根尾川沿いに北上する。むかし夏の合宿で能郷白山から越美国境の薮漕ぎをしたときに乗ったのは国鉄樽見線、当時は途中の美濃神海(みのこうみ)が終点だった。名のとおり樽見まで開通したのはいいが、そのときには第三セクター線、廃止にならないのが不思議なぐらい。当時はなかった樽見駅には全線開通記念碑が立っている。車体に派手な広告が描かれた一輌きりの気動車が停車している。近くに高名な淡墨桜があり、シーズンには賑わうらしい。しばらく谷沿いに進むと、右手に「うすずみ桜の里・ねお」という道の駅があり、ちょっと立ち寄る。それは目的があってのこと。近在らしいおじいさんに尋ねる。

「ちょっと、お聞きしますが、この国道157号、温見峠(ぬくみとうげ)まで行けますかね?」
「通行止め!淡墨桜のところから、大須のほうを回ったら行ける。山二つ越えたら、国道に出るわ。」
「このまま国道を行くんじゃなくて、4キロほど戻ったところで東に入るんですね。樽見の駅のところですか。NEOキャンピングパークのほうに行く道ですね」
「そうそう、駅の前を通って、キャンプ場もあるな。先はダムに続くけど、その手前の、今は閉まってる『白山』という店のところで橋を渡るんや。公衆便所もあったなあ。また国道に出るまで、そう、ここから50分。昨日、ワシは福井県まで行って来たけど、あんたの車やったら1時間もあれば峠に着くやろ」

軽トラックの前に座り込み、地面に指で地図を書きながら懇切丁寧な説明。どうも山菜採りのおじいさんのよう。いずれにせよ、これは第一級の情報。なぜなら、ずっと手前の道の駅「織部の里もとす」で、開店準備中の地元のおじさんに聞いたとき、あっさり、「行けるよ、通れるようになった」だもの。157号沿いには通行止の表示があったし、半信半疑の私としては、念には念を。"酷道"走りのイロハだ。

迂回路は県道根尾谷汲大野線、折越林道、猫峠林道を乗り継いで、東から大回りするルート。国道は根尾能郷・根尾黒津間がずいぶん長く通行止めになっているようだ。代替ルートがあるから復旧が進まないのか、地形的に抜本的な付け替えの必要があるのか、地図を読む限り、理由はたぶん双方だろう。

二つの山越えで結ぶ迂回ルートは、奈良県の国道425号や大峰山中の林道を走り慣れている自分としては、ごく普通のもの。きっと不通区間が"酷道"の核心地帯だろうと思われる。とは言っても、林道にはよくある洗い越し(橋を架けるべきところを横着、増水時は通れない)が出現するのも"酷道"の名に恥じないところ。猫峠付近から望む能郷白山の東面にはまだ残雪がある。

温見峠は懐かしい場所だ。ここから見る山並みには覚えがある。当時も国道だったのか、岐阜県側まで全通していたのか定かでないが、少なくとも福井県側からはダートの車道があった。しかし、峠でテントを張っていてもエンジンの音など一切聞こえなかった。登山コースが描かれた看板によれば、昭和63年9月に国道157号より登山道を開設とあるので、それが県境を車が越せるようになった時期かも知れない。私の古い25000分の1地図には能郷白山からの下山ルートの書き込みがあるが、その赤い線は温見峠に向かって直接下るのではなく、県境を離れて真っ直ぐ北に向かう稜線上に印されている。私のマップリーディングと看板の記述が符合する。

途中はかなりの急斜面だ。ただ、登山道はしっかり付いている。踏跡程度しかなかった昔とは隔世の感がある。途中の回り道もあって、登り始めは10時を過ぎた。峠に駐車しているのは私のカナブンを含め3台とは、連休にしては少ない気もする。
 久しぶりのこともあり、登りはかなりきつい。薄曇り、暑いほどではないし、岐阜県側から風が抜けるので気持ちがいい。雪の多いところだけに、ちょっと遅いカタクリが道端に満開。

1492mの独立標高点を過ぎたあたりから、雪の上を歩くことが多くなる。土と雪との交錯で靴もズボンの裾もドロドロに。残雪の山はいつもこう。最近はスニーカー程度だが今日は革靴、ストックも2本。結構これが役に立つ。ちょっと急だが、1か月前なら充分スキーで下れそうな雪渓。山頂部には雪田も。ゴテゴテした山名プレートがないのがいい。朽ちかけた柱には昭和49年建立という剥げた文字が読み取れる。私が前にここに登った頃だ。

温見峠に車を置いて往復した登山者二組とはすれ違ったので、山頂にいた登山者は南側の能郷谷からの登山道を辿ってきた人たち。私が温見峠からと言うと、福井側から入ったんですかと訊かれる。どうも、国道沿いの看板で岐阜県側からは通行止と思い込んでいたようだ。それで、峠の車が少ない訳だ。倍ほど時間のかかる道だから、彼らも車で入れるのが判っていたら。温見峠は盛況だったはず。

「どちらから?」と、私より年上とおぼしき岐阜からの中年登山者。
「奈良からです」
「えっ!」
「何といっても、いまだと高速1000円ですからね。ここは日帰り限界ぐらいかな」
「なるほど。いや、私も明日、日帰りで唐松に足を伸ばそうと思っているんです」
「この時期だと頂上直下から滑り降りることが出来ますね。気持ちいいでしょう」
「いやあ、相棒がスキーやらないんで、今回は歩きですわ」
「そりゃあ、もったいない。あっという間に兎平なのに」

前置きなしで、能郷白山から後立山連峰の春スキーの話になる。かなりのベテラン登山者らしいことは一見して判る。こういうシチュエーションだと、途中省略しても会話はなぜか繋がる。

帰路は福井に抜ける。温見峠越え157号走破ということもあるが、ルートとしては長くなっても北陸自動車道のほうが渋滞しないだろうとの読み。距離は関係なし、いくら走っても1000円だもの。

福井側の道は「く」の字型に大きく折れ曲り、谷筋が長くなるため、傾斜は比較的緩やかだ。上下線に拡幅されている部分も多い。ただ、県境に近いところではダートの部分もあるし、ブラインドのカーブの先に落石が転がっていたりする。越美、どっちもどっち、それでこそ"酷道"。
 ともかく、これで、日本三大酷道を走行。157号の不通部分の凄さを知らないし、四国の439号も京柱峠越えなど普通だったし、強烈だったのは、やはり425号かな。
 この日の走行距離は523キロ、ほとんど東京までのドライブ。加えて、標高差600mの山登り。帰りの高速は安全巡航速度80~90キロで走行車線をキープしたのでヘロヘロにはならなかったけど、連休の真ん中にしか出来ないアウトドアである。

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