電車でGO! 第2弾 ~ 120円花見ツアー
2010/4/3

桜の季節にと考えていたプランを敢行、前に作ったメモは3月のJRダイヤ改正で再作成を余儀なくされたが、そんな作業も楽しみのひとつだ。今回のポイントとなるのは桜井線と和歌山線、本数の少ないローカル線でどの列車に乗るかを先ず決める。そして、出来上がったのが次のタイムスケジュール。合計距離222.4km、運賃は普通に計算すると4310円、ただし特例で鶴橋・天王寺間120円で済む。

鶴橋7:53発 ~ 大阪環状線 ~ 京橋8:01着
 京橋8:12発 ~ 片町線(快速) ~ 木津9:16着
 木津9:23発 ~ 関西本線(大和路快速) ~ 奈良9:30着
 奈良9:40発 ~ 桜井線・和歌山線 ~ 和歌山12:34着
 和歌山12:54発 ~ 阪和線(紀州路快速) ~ 天王寺13:58着

7時過ぎには家を出る。出勤日と変わらない。いつもの乗換駅、鶴橋がスタートだ。普段なら乗継定期券で近鉄からJRの連絡改札を通るのだが、今日は近鉄の改札を出て、切符を買って、JRの改札から再入場と、面倒なことをする。とにかく発駅からの切符がないと、このツアーは始まらない。

環状線の車窓から既に花は満開、沿線の小さな公園や大阪城公園駅のそば、いったい何本の桜を目にすることだろう。京橋駅で、片町線、またの名を学研都市線に乗り換えて奈良方面に向かう。昔は快速なんてなく、京橋・長尾間で40分以上かかった記憶があるが、今は20分あまり。速い。東西線を経由した福知山線乗り入れの高速運転ダイヤがあの大事故の遠因だったが、今は京橋や尼崎といった乗換駅の時間に余裕をみているようだ。

空いているのに先頭車両の運転室の後ろにへばりつく。これぞ電車でGO!だ。先頃開通した第二京阪が跨いでいる。目新しい眺めだ。片町線は生駒山地の北側を大きく回り込んで奈良県に入るのでトンネルはない。これは利便性が劣ることと同義で、松井山手から先は未だに単線のままだ。京田辺から先は並走する近鉄京都線を利用する人が圧倒的で、私にしても京田辺と祝園(ほうその)の間が未乗区間だった。それも今回でクリア。

木津駅で乗り換えの間にトイレを済ませ、ペットボトルのお茶を買う。これから先が長い。加茂から来る大阪行の快速に乗り継ぎ奈良へ。奈良駅の手前、佐保川の鉄橋を渡るところは一瞬あたりがピンク色に染まる。去年、土手を歩いてお花見したところ、地元では知られた場所だ。

前の大回り乗車のときは工事中だった奈良駅も、遷都1300年祭の観光シーズンに間に合わせてリニューアルが終わっている。しかし、ピンクやグリーンの柱はなんとも奇妙である。そこに2両編成の和歌山行が入線してくる。あれっ、電車だ。ローカル線のこと、まだディーゼル車だと思っていたが、いつの間にか電化されていたんだ。それに、桜井線は最近「万葉まほろば線」という愛称が付けられたらしい。これもイベントに合わせてということなんだろう。確かに、山辺の道に沿って走るのだから、悪いネーミングではない。

始発の奈良からは満員で、ハイキングの出で立ちの老人グループの賑やかなこと。元気な爺さん婆さん、小学生の遠足と大差ないのが微笑ましい。この人たちは柳本で下りた。ここからは山辺の道の中間点でもある長岳寺が近い。三輪駅近くでは大神(おおみわ)神社の大社殿と桜が見事で、見とれているうちにシャッターを押し損ねてしまった。走る電車からの撮影は一瞬の勝負だ。

近鉄大阪線との接続駅、桜井からは車内に若者の姿が増える。彼らが下車するのは金橋駅、最近リニューアルオープンしたイオンモール橿原アルルに行くのだろう。うちの坊主も友だちと買い物に出かけたりしている。車内の人たちもさることながら、何といっても車窓である。藤原宮跡の桜の後ろは天香具山、右手には畝傍山、その遠景には大きく金剛山、こちらの眺めも万葉まほろば線の名に恥じない。

高田からは和歌山線となる。ここからは車内も閑散、ローカル線ムードが横溢。葛城・金剛の山裾を大和川・吉野川(紀ノ川)の分水嶺へ登って行く。吉野口、北宇智というテッちゃん興奮の駅が連続する。前者は近鉄吉野線との乗換駅で、隣のホームにはあべの橋発吉野行の急行が停車している。ところが駅名看板はJRの仕様だ。近鉄のほうがよほど本数も多いし利用客も圧倒的なのに、この駅はJRが管理しているからだ。そして、後者の北宇智、スイッチバックの旧ホームが残っている。大阪近郊では珍しい峠のスイッチバック駅、テツの名所だったが今は線路も直線化されて折り返しはない。電化前ならともかく、実際に乗車してみると、そんなに大した勾配じゃない。

峠を越えたら和歌山までは紀ノ川沿いにゆっくりと下っていく。走行3時間の各駅停車、ずっと座っているのではなく、立ち上がったり、左に右にと移動したり。前の車輌のかぶり付きにはテッちゃんが仁王立ち、私の乗った後ろの車輌にもテツとおぼしき人が数人。横にいたおっちゃんは鞄から大判の時刻表を出して、索引地図を眺めている。「そんな歪んだ地図を見ても仕方ないですよ、これがいいですよ」と、最近出版された昭文社の「レールウェイマップル」を薦めてあげたい気もするが、それぞれの流儀があるから、余計なお世話はしない。

五条を過ぎて橋本、ここは南海電車との乗換駅で10分停車。おっ、ここにはホームの端っこに喫煙所があるぞ。お昼近く、ちょっとお腹も空いてきた。構内に柿の葉寿司の売店があったので、さっそく。お寿司を頬張っていたら、突然に車内検札、ワンマンカーだが橋本駅で乗り込んできたのだろう。思わずご飯が喉に詰まりそうになる。別に不正乗車している訳じゃないし、行程のメモも手許にあるが、説明の鬱陶しさを思うと嫌になる。JR職員といっても、知識の点ではテッちゃん+旅行業務取扱主任の私にかなわない場合もあるし…。
 ところが、もう定年を過ぎているのではと思うようなこの人、切符を示すと、「はい、ありがとうございます」と、何ら訝ることもなく全くの自然体で検札終了。さすがベテラン、この人の頭には運送約款が入っている。ご立派。そうこうしているうちに、鈍行も紀ノ川を渡って和歌山に近づく。

和歌山駅で失敗してしまった。隣のホームの特急くろしおに気を取られていて、「本日、山中渓(やまなかだに)駅周辺で桜祭りが開催されているため、紀州路快速は臨時停車いたします」というアナウンスを聞き流してしまった。すぐ前に出る普通列車に乗るべきだった。和歌山を発車したあと、快速は六十谷(むそた)、紀伊と和歌山県内は各駅停車、山越えして大阪府に入った最初の駅が山中渓、つまり、普通で行っても山中渓で後続の快速に乗り継げたということだ。ホームでの花見が、車窓の花見になってしまった。しかし、それにしても見事な桜。

天王寺駅に到着、JRだけでも6時間に及ぶ旅だった。そんなことには関係なく、自動改札は120円の切符を吸い込む。環状線で鶴橋から直行したなら5分ほどのものである。雪見ツアーに続く花見ツアー、もうひとつ福知山線・加古川線をメインにした回遊プランはあるが、こちらは紅葉ツアーにしようか。

今回、着駅を天王寺としたのには理由があった。あべの橋近鉄百貨店で開催されている藪内佐斗司展を覗こうというものだ。「せんとくん」の生みの親、現代の仏師の作品展が1週間ほどあって、週末にはイベントもあるらしい。

ちと高いかなと思いつつ500円の入場料を払って中に入ると、ちょうど藪内佐斗司氏が舞台に立ってインタビューに答えているところ、ややあって平成伎楽団なる藪内キャラクターのパフォーマンスとなる。せんとくん着ぐるみショーぐらいに考えていたら、これがバレエとまではいかないが、しっかりした振り付けのパーカッションだけのパントマイムで、なかなかコミカルで楽しめる。

会場にはお馴染みの童子像が並ぶほか、平成伎楽団のキャラクターの立像が何体も取り巻く。会場入口のギャラリーには販売用のブロンズ作品が展示されている。けっこう種類も多く、予約の赤丸マークが貼られているものも多い。小さな文鎮でも5万円、そこそこの大きさになると50万円ぐらいの値が付いている。デパートとはいえ、ずいぶん高くなったものだ。ひとつ買っておこうかと思ったのは数年前、今じゃ手が出ない。これも「せんとくん」で人気が高まったからか。

ショーが終わって会場出口に藪内氏の姿を見つけ、ショップで急いで買った700円の新書「ほとけの履歴書」を手に、「藪内先生、楽しいパフォーマンスでした。あれは、先生の振り付けでしょうか」なんて話しかけ、サインをいただく。

平城遷都1300年祭、桜も咲いてだんだん気分は盛り上がってきたようだ。

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