銚子電鉄テッちゃん紀行
2010/6/6

土曜日に東京で会議、その日に奈良に戻るのももったいない。そこで、かねて心に引っ掛かっていた銚子電鉄ツアーを敢行、昨今の鉄道ブームで、私の中に眠っていたテツの血が騒ぎ出したという次第。千葉の安いホテルに泊まり、翌日に備える。レンタカー利用はテツの風上にも置けないが、効率を考えるとどうしてもそうなる。

千葉の高速道路はつまらない。丘陵地帯を抜けて単調な道が続き、山も海も見えるわけではなく、景色がちっとも変わらない。どのあたりを走っているのか、標識がないと識別も困難なぐらいだ。とまあ、悪口を言いつつ、千葉東金道路を飛ばす。スピードと便利さは代え難い。

九十九里ビーチラインに入ってようやく海が見える。高速道路は銚子まで達していない。銚子の手前、飯岡漁港の高台にある燈台、そこが展望台にもなっている。車で銚子まで行く人の足を止めて、という地元の算段だろう。眺めは大変によい。「あれえ、ここが犬吠埼じゃないのか。あっちのほう、まだ先かあ」とかライダーたちが話している。カーナビを装備しているバイクは稀だから、そんな勘違いも仕方ないか。

この先、銚子市に入ると海岸線は崖になる。道路は少し海から離れて走る。屏風ヶ浦というところだ。国道126号から外れて外川漁港に向かうと、海岸から屏風ヶ浦全景を眺めることが出来る。ドーバーの断崖に準えているようだが、私はそちらをこの目で見たことがないので比較は出来ない。長い崖が続いている。それまでの九十九里の浜辺がここで一変するということだ。

そして、いよいよ銚子電鉄の終着、外川駅だ。海岸の道から入ると狭い漁師町の坂道を登り、ぽっかりと駅前に到達。おお、ローカル私鉄の終点を絵に描いたようなところだ。いるいる、駅前に車を駐めて、何人かのテツが駅舎や待避線の車輌にカメラを向けている。曲がりなりにも首都圏、これほどの老朽車輌が現役で走っているのだから、それを逆手にとって観光資源になるのも頷ける。いちおう30分に一本は運行されているので、ローカル線と言っては失礼かも知れない。

次の列車まで少し間があったので、駅の近くの外川ミニ郷土資料館に立ち寄る。資料館とは言っても、ここはふつうの土産物店の様子。店内に昔の漁具が置かれたり、銚子電鉄および外川の今昔を語る写真があったりするが、どちらかと言えば地元の名産品などの販売が主だろう。店に入り声をかけたら奥からおじさんが出てきて、店内の灯りをつけて説明してくれる。妙なものがあるなと思ったら、1m四方ぐらいにカットされた漁網。インテリアに使ってもいいし、マフラーのように身につけたりベストにも出来るとか。100円、何に使うあてはないが一つ購入。

と、店内の隅にある冷蔵ガラスケースに目が行く。飲料とともに殻付きの牡蠣が並んでいる。磯牡蠣だ。「今がシーズンですから食べてみてください。犬吠あたりでは一つ500円ぐらいしますが、うちでは4つ1000円で出してます」とはおじさんの弁。これは食べない手はない。さっそく注文すると、牡蠣を持って今度はおばさんが裏口に誘う。なあんだ、ここは土産物屋もやっているが、漁師なんだ。裏には広いスペースがあって水揚げした魚を処理できるようになっている。そこで漁師のおにいちゃんが殻を割ってくれ、こちらは脇に置かれたベンチに腰掛け、その場でいただくという具合。何もつけない、そのままの磯の味、新鮮なことこの上ない。海のミルク、つるつるとあっという間。

「駅に行くのは裏からのほうが近いよ」と言われ、調理場を抜けたら、そこが駅前。これはこれは、駅前土産物店兼展示館、さらに海産物即売という何ともマルチな業態である。

いよいよ銚子電鉄に乗る。到着した下り列車、一般乗客よりもテツのほうが多いぐらいだ。ホームで撮影したり、駅員さんに乗車券をもらっていいかと尋ねたり。こちら、当然のことながら、先頭車両、運転席の横がテツの立ち位置。もちろん座ったりはしない。横に並んだ子連れのおっちゃんは発車前に撮影機材を鞄から取り出し準備に余念がない。子どもなんてほったらかしだ。私は景色を眺めて、ちょっと写真を撮るだけだが、あちらは「電車でGO」、ビデオを回しっぱなしである。

わずか一駅、隣の犬吠駅に着く。ここでは銚子電鉄を廃止の危機から救ったという大ヒット商品、濡れ煎餅の購入だ。駅構内のほとんどのスペースを占める売店では煎餅が飛ぶように売れている。味もいろいろなバリエーションがあるようだが、オーソドックスなタイプをお土産に大量購入。

大きな紙袋を手に下り列車で外川駅まで引き返す。わずか一駅の折り返しである。真性乗りテツなら全線乗車なんだろうが、そこまでマニアックじゃない。外川駅では勝手がわかった件の店に裏から進入。「あれっ、さっきのお客さん、また来たの!」とおじさんが驚く。ふふふ、車を走らせる前に、磯牡蠣第2弾だ。

犬吠埼、海辺に車を置き、燈台に登り岬を散策する。東映映画の冒頭、岩に砕ける波頭のシーンはここでの撮影のようだが、それらしい岩はあってもこの日の波は穏やかである。梅雨の前なのに日差しは既に真夏のよう。

さて、テツが終わったわけではない。今度は車でテツ、銚子電鉄駅めぐりだ。まずは、観音駅、ここは駅が鯛焼き屋という変なところ。そこで鯛焼きを買うのではなく、上り銚子行きの記念切符を購入。これは高校三年生の次男への土産だ。もっともフンと笑われるのがオチだが。

そして仲ノ町駅、こちらは車庫併設であり、その見学がお目当て。勝手に入って写真を撮れる。鷹揚と言えば鷹揚、そういうところが人気の所以か。あれこれと工夫を凝らして経営努力してるようだが、線路の状態などを見るに、なかなか厳しそうだ。年中テッちゃんで溢れている訳ではないから、通常の乗客がどの程度あるかということだろう。

利根川河口、銚子大橋を渡って茨城県に。国道124号、水郷道路を通って潮来に寄り道。水郷潮来あやめ祭りが開催されている。午後も遅く人も減り始めるころで、駐車場も観光船も待ちがない。この時期は手漕ぎの船、船頭はおねえさんだ。ここは東関東自動車道の終点、戻り千葉までは一直線だ。ふつうの観光ならこちらがメインだが、そこはテツのこと、潮来に向かう途中、鹿島の臨海工業地帯に真四角なコースで敷かれた貨物線の軌道のほうに興奮するのは、ちょっと常人とは言い難いかも。まあ、テツ一辺倒ではなく、ふつうの旅とのほどよいバランスだと思うが、そう考えるのは自分だけ。

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