日帰り弾丸山行 ~ 恵那山
2011/8/7

お盆の休みに北アルプスを縦走しようという友だちの誘いに心は動いた。でも、一週間ほど前から腰に違和感があり湿布しているぐらいだし、長い下りになると膝の痛みが心配だ。結局は見送ったが、さりとてどこにも行かないというのも勿体ない。体の具合との相談で高速代が安い日曜日の日帰りを目論む。一日で行けるそれなりの高さの山、まだ行ったことのない恵那山に決めた。

高速1000円はなくなっても土日は半額、名阪国道の亀山まではもともと無料なので、そこから中央道園原ICまで2600円、まあ安いほうだろう。伊勢湾岸道、東海環状道を経由すると渋滞はゼロ、さすがに北アルプスは無理にしても中央アルプス南端だと奈良からでも日帰りは可能だ。恵那山広河原登山口、これほど高速インターから近い登山口も珍しい。と言うか、恵那山トンネルを抜けたところなので元々山の中のインターである。

ここから本谷川沿いに林道に入る。この道は神坂峠を経て岐阜県側の中津川に繋がっているのだが、長野県側は通行止、戸沢から少し奥にゲートがあり一般車はここまで。ゲート脇に登山者のための駐車場が設けられている。20台ほどは駐められるだろうか、私が奥にスペースを見つけて車を入れるとほぼ埋まった。京都、品川、富士山、松本、名古屋、そして奈良、ナンバープレートの地名も多彩だ。時刻は午前8時を回ったところ。途中休憩を含め奈良から4時間。

熊出没だとか、崩落注意だとか、山奥の林道ではお馴染みの看板。身支度を調えて歩き出す。30分ほどの舗装道歩き、久しぶりの山の空気が心地よい。短いトンネルを抜けるとすぐに登山道への分岐点、ここで本谷川を渡り尾根に取り付く。過去に遭難死亡事故があった場所らしいが、丈夫な木橋が架かっているのは、架け直したものなのか。これが水の下になるぐらいの増水なら徒渉は自殺行為だろう。とんでもない登山者は昨今珍しくなくなっているが、理解に苦しむ遭難だ。

樹林帯の急登、直射日光は避けられても日焼け止めなどすぐに流れてしまう大汗だ。頂上までの標高差は1000m、展望は期待できないので腕時計の高度計の数字が増えていくのを励みに登るしかない。少し斜度が緩くなり独立標高点を過ぎたあたりから伊那側の展望が開ける。私の地図は中央高速も載っていない1/50000地図だ。ここに表示された尾根上の窪地、独立標高点の数字は1698m、それが最近の1/25000地図だと1716m、20mほどの差がある。航空写真から作った古い集成図は細かなところではいい加減なことを知っているので驚くことでもない。

伊那谷、飯田市街の向こうは南アルプスの山並みだ。ちょうど稜線あたりに雲があり、山座同定は困難。塩見、荒川、赤石、聖といった3000m級であることは間違いない。向かう恵那山のほうには入道雲が発達中だ。登りの間はもつにしても、下りは降りそうだ。雨男の面目躍如というところだろう。木曽側からは遠雷も聞こえてくる。

だいたいの予想どおり、登り始めて4時間、恵那山頂2190mに到達。展望台なのか三角点の横に櫓があるが、視界もないので上に登っても仕方ない。山頂一帯には社がいくつもある。神坂峠から辿ると一宮から順番になっている。三角点のところが本宮なのだが、ここが最高地点ではないのがややこしい。2191mというピークが北西に少し行ったところにある。ほとんど平坦な稜線を行くと、途中に避難小屋、立派な無人小屋で10人は泊まれるだろう。バイオトイレが別棟になっている。雷が近づいているので山頂に人影はない。私がこの日最後の登山者だろう。登り始めも遅いのだし当然のことだ。

木曽側で鳴っていた雷は伊那側に回ってきた。下り始めてわずか、雨も落ちてきた。笹の中を抜けるとあっという間にパンツはびしょびしょに。不思議なもので一度ぬれてしまうと後は平気、冷たくて気持ちよくなってくる。いちおう雨具の上だけを付ける。1000m下るのは膝にはきつい。やはり途中からペースダウンする。まあ、山麓の樹林帯に入ってしまえば、雷が鳴ったところで気にはならない。

まだ午後3時を過ぎたばかりなのに、森の中の薄暗い下りだ。沢に近づくにつれ足許はゴーロ状になってくるので滑りやすい。要注意、途中で抜いた家族連れも難渋の様子だ。まあ日が暮れる訳ではないから、スロー&ステディに限る。まだ本格的な降りでもないので、沢の増水もない。あと一時間後ぐらいだろう。そんな予想が当たるのも困る。最後の林道歩きになってきっちり大雨だ。

林道で突然目の前に大きな動物が飛び出した。すわ、熊か、と思ったら、色は黒くなく茶色、こちらに向かって来るのでなく、尻を向けて向こうに走り去る姿はカモシカだ。まあ、あちらのほうが驚いたんだろう。カメラは雨具の下、取り出す頃には姿は消えた。この林道、いつ落石があっても不思議じゃない。雨はますます激しく傘の出番、久しぶりの雨具総動員となる。夕立なので続く雨ではないが、みるみる林道は川のようになってくる。満杯だった駐車場に残っている車は3台だけ。
 荷物を放り込み車内に逃げ込む。靴を履き替えて、とにかく危険地帯から脱出だ。ローギア、ハイビームでそろりそろりと車を進ませる。戸沢の集落まで戻ればもう大丈夫だ。

おあつらえ向きに、ここには一軒家の月川温泉がある。少し雨脚も落ち着いてきた。びしょびしょ、どろんこのまま入口へ。さすが、登山者は宿泊客用玄関の横に入口と靴置き場があり、そこから入るようになっている。どろどろのパンツは折り返して7分丈にしてはいるが、これだとこちらも気が楽だ。ミラノスカラ座のガレリア席(天井桟敷)の別入口を連想する。

立派な宿が建ち並ぶ昼神温泉もここから近い。月川温泉の入浴はわずか600円、大きくはない室内浴槽と露天風呂のシンプルなものだが、雨にやられくたびれた体にこれ以上のものはない。菅笠を頭に乗せて雨の露天風呂というのも一興、生き返る気分だ。
 上から下まで着替えてさっぱり。湯上がりにビールという訳にはいかないので、地元の林檎ジュースを飲みながらロビーでくつろぐ。あとは、安全運転、往路と違って時速80kmの巡航速度をキープ。明日も休み、夜道に日は暮れない。伊勢湾岸道からは長島温泉の花火がよく見える。サービスエリアは満車。なるほど、最高のスポットなんだろう。高速道路の真横でドカンという大迫力だ。

長くて盛り沢山な一日、普通なら二日分ぐらいを一日に詰め込んだという気もするが、これは私の奈良から日帰りの最長記録だろう。まあ、還暦を過ぎていつまでもこんなことは出来ないとは思うが、次はどこにしようかなどと懲りない親爺だ。

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