木次線てっちゃんツアー ~ ポストシーズン四苦八苦
2011/11/27

広島に泊まって島根まで足を伸ばす。中国自動車道はこのあたりだとガラガラだ。週末の宝塚あたりの渋滞からは想像もつかない。冬も間近、観光シーズンは前の週で終わりなのだろう。こんなに天気のいい週末がもったいない。

奥出雲おろち号の運行は23日まで、念願の木次(きすき)線に乗るにはどうすればよいか、これには頭を悩ませた。このトロッコ列車、観光用の季節列車が走らないとローカル線のダイヤは山間部では一日に4本ほどになってしまう。レンタカーと組み合わせるにしても、どの区間を選ぶか、もちろん元の駅に戻る必要がある。ようやく辿り着いた結論は、出雲坂根から備後落合を往復するというものだ。てっちゃん憧れの三段スイッチバック、国道おろちループ、JR西日本最高地点、三線が離合集散する山間の駅、そんなスポット満載で瀬戸内・日本海の分水嶺を二度越える。

庄原インターを目指して車を走らせる。すぐに高速道路の周囲の紅葉がお出迎えだ。庄原から国道432号を北に、そのまま島根県まで行ってもいいが、県道110号でショートカットする。俵原越という峠を経由する道。冬期は通行止のようだがまだ雪の季節ではない。道は狭いが意外に緩やかな登りだ。島根県側に入ると眺めが一変する。山に囲まれた鍋の底のような土地に向かって降りていく風情、どこかと似ている。そうだ、高千穂と通ずるものがある。時あたかもここでは神在月、天孫降臨の地の雰囲気と似ているのも宜なるかな。

ここまで来れば時間が計算できる。予定の列車を捕まえるまでの時間を途中の鬼の舌震で過ごす。峡谷に巨石、きっと紅葉の名所のはずだが、もはやシーズンオフの様相、駐車場の車の数が少ない。紅葉はまだ見事だというのに。

予定の列車は出雲坂根駅を13:30に出る。目的地に向かう途上で駅舎見学だ。驚きは出雲横田駅、巨大な注連縄が入口に架かっている。何とも立派、まるで神社だ。駅前も実にすっきりした街並み、もっと鄙びた集落を想像していたがとんでもない。出雲平野の端、ここから山に入る入口という位置に街が開けたということだろう。おっと、黄色いディーゼルカーが到着した。備後落合行きだ。そんな、おかしいぞ。これに乗る予定ではないか。ここから二つ先の出雲坂根から乗車するのに、列車がもうここに来ているなんて、間に合わないのではないかと動揺が走る。

いや、待てよ、停車時間を見よう。12:49着で13:07発。20分近くの停車。宍道行きと列車行き違いなのだ。もちろん単線、傾斜がきつくカーブの多いローカル線、都市圏を走る幹線の電車とは訳が違う。頭ではわかっていても現場で感覚のずれを修正するのに時間がかかる。列車は車のスピードの半分以下だから悠々と先回りできるのだ。わかってしまえば何でもないこと、慌てた自分がみっともない。

隣は八川(やかわ)駅、小屋がポツンとあるだけ。この駅が映画「砂の器」で亀嵩(かめだけ)駅として使われたらしい。その映画は昔に観たことがある。何もないホームはともかく、撮影当時はもっとボロボロの駅舎だったんだろう。刑事がズーズー弁とカメダという地名を手がかりに羽後亀田に赴き徒労に終わった後、奥出雲地方に東北地方との言語的共通点があること、カメダは亀嵩ではないかと気づいて辿り着くのがこの地という筋書きだったはず。砂の器記念館なるものも出来ているらしい。そっちはパスして出雲坂根駅にスタンバイだ。

無人駅なのに最近出来たばかりの立派な駅舎だ。駐車スペースも充分に確保されている。駅員がいないのに、野菜やおでん、出雲そばの弁当まで売っているのにはびっくりだ。列車に乗らなくても三段スイッチバックを観に来る撮りテツ御用達の駅ということか。もちろん、私のようにここに車を置いて適当に往復する乗りテツもいる。それにこの駅には延命水という名水が湧く、これを汲みに来る人たちも多いのだろう。もちろん私も、空いたペットボトルで持ち帰ったのは言うまでもない。

さっき出雲横田駅に停まっていた列車が西から到着する。出発するときは東ではなく西に折り返す。しばらく登って行き止まりで今度は東に折り返してさらに登っていく。駅構内も含めてこれが三段スイッチバックだ。20人ほどのJTBのツアーらしい中高年の団体といっしょに乗車、彼らのように座ったりはしない。もちろん運転席の横のベスト・ポジションを確保。片道40分ほど、時速は20kmそこそこ、こんなに楽しい車窓はないのに、座るなんて信じられない。

出雲坂根駅と次の三井野原駅は直線距離にして1300mほど。ところが、JRの路線距離は6400mなので5倍の距離を走ることになる。三段スイッチバックだけじゃない、多数のトンネルを大きなカーブで迂回していく。
 石勝線が十勝平野に下る新得の手前の大カーブ、久大線の湯布院大迂回、土讃線が吉野川を大回りして渡るようなものか。しかし、どうしてこんな地名がスラスラ出てくる。復活てっちゃんが重症化しているぞ。しかし、この場所、マニアが上位にランクするテツの名所であることは間違いない。一般人のツアーもあるぐらいだもの。

中国山地、高い山はないのに陰陽連絡の山越えは結構険しいのだ。特に出雲側で分水嶺から山麓の集落までの距離が短い。それで苦心惨憺の鉄路になるのだろう。道路も同じだ。並行する国道314号線にはおろちループがある。30パーミル近い勾配をゆっくり走る木次線から見下ろせる。沿線の景色はゆっくり流れる。一瞬で過ぎる新幹線とは異次元のスピード感が心地よい。

三井野原駅の手前で分水嶺を越える。ここはスキー場がすぐ近くにある。西日本では大山山麓ぐらいしかスキーのイメージはないが、広島・島根県境にも雪は降る。前の冬には山陰地方の海岸部で豪雪被害が出たことを思い出す。この駅は標高726m、JR西日本での最高所の駅ということらしい。北アルプス山麓までJR西日本の管轄だけど、あっちのほうは海岸線だし、そういうことか。

備後落合は芸備線と木次線の乗換駅、周りにはほとんど何もない、たんに鉄道の合流点だけという閑散さである。木次線が到着した反対側の二面ホームには新見行きと三次行きが並ぶ。この時間、三方からここに集まり、また三方に散っていく。こういうのはてっちゃんにとってたまらない。何もないからこれが余計に面白い。ちょっとヘンである。そういうヘンな人たちは私の他にも何人もいて、折り返し列車の発車までホームをウロウロしているのだ。

往路は線路に注目で、復路は紅葉を愛でる。広島側から島根側に向かう車窓のほうが紅葉は鮮やかだ。というか、戻りのほうが視野が広くなっただけとも言える。ツアーの人たちは片道乗車だ。店も何もない備後落合駅前の広くもないスペースに観光バスが駐まっていた。何とも場違いな雰囲気。出雲坂根でお客を降ろして、バスは先回り、ここで拾うというコースなんだろう。
 こちらは木次線の核心部を往復だ。いつ廃止になるかも知れない赤字路線、動いている間に乗っておかなくちゃということ。昔に乗った可部線も三段峡まで延伸したと思ったらすぐに廃止、浜田に辿り着くこともなく浜田自動車道に道を譲った。松江と尾道から伸びている高速道路が繋がったら木次線の命運も尽きるかも知れないから。

特急やくもが何本も走る伯備線を除けば、陰陽連絡の鉄道の先行きは明るくなさそう。三江線、福塩線、早く乗っておいたほうが良さそうな路線は他にもあるなあなんて思いながら、高速道路で広島に引き返す。今回の行程、車とのコンビネーションで初めて可能になるものだ。広島から芸備線を使ったなら一日ではきつい。それに、広島でお好み焼きを食べて大阪に戻るなんて芸当はもとより無理な相談になってしまうのだ。実際のところ、てっちゃんオンリーで解決する場面は多くない。

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