須磨アルプスを歩く
2011/12/30

29日から休みにしたのはいいが、家にいると買い物に始まり、洗濯、窓ガラス拭き、車洗いと重労働だ。これじゃ職場のほうが楽かも。でも、一日よく働いたおかげで30日には山登りのお許しが出た。車を使えないので電車で行けるところ、それで六甲山。西の端を歩いてみることにした。

六甲山系は塩屋から宝塚まで繋がっていて、登山コースは総延長56kmに及ぶ。中心部の山上には車道が走っていて山歩きの風情はあまりないが、両端の尾根筋だと車は走らない。いちおう山登りの領域だ。どんなものか知らないが、このコースには須磨アルプスという大層な愛称もあって楽しみだ。
 午前9時、JRを乗り継いで塩屋駅に降り立つ。確かに六甲山系が海に落ちるところ、海抜0mからの登りで、線路の南は海、北は山だ。JRと山陽電鉄が狭い平地を並走している。

駅の北側に出たらいきなり路地だ。ロータリーどころか、車の通行すら不可能、こりゃすごい。駅の付近は昔からの町だろう、少し行くと新しい住宅も立ち並んでいる。駅前の案内板をチェックして山への取り付きを確認したつもりが、やはり間違ってしまった。住宅地を抜けて山に入るときが、ルートファインディングの一番難しいところ。目印のはずの古い石標が、年内最後のゴミ収集日でビニール袋の山に隠れてしまっていた。町歩きには予期せぬことがある。

ちょっと迷ってしまったが、何とか六甲縦走路の入口に辿り着く。登り口の山王神社で早くも一休み。やれやれ、街中の右往左往は終わり、ここからは普通に登ればいいんだ。最初のピーク旗振山(252m)まではすぐだ。山頂近く、突然、遊園地の中に。これは須磨浦山上公園、塩屋の一つ手前、須磨浦公園駅からロープウェイ、リフトが登ってくる。もちろん歩きの道もある。本家は塩屋だが、こちらからの六甲縦走もあるようだ。旗振山、標高こそないものの海に近いから眺めはいい。垂水から明石にかけての市街地が眼下に、明石海峡大橋はすぐそこ、淡路島、小豆島、友ヶ島。船は往来する、神戸空港から飛行機は飛び立つ、山登りらしからぬ景観に足を止めることしばしば。

旗振山から鉄拐山(234m)までは両側が切り立った尾根伝いだ。樹木があるので急傾斜を実感しにくいが、覗き込めば逆落としの落差は感じる。この下が一ノ谷、つい先ごろ厳島に行ったばかり、またも平家ゆかりの地だ。今度のNHK大河ドラマ(「平清盛」)に合わせたつもりは毛頭ないが。

低い標高、市街地からの近さ、眺めの良さ、そんな条件が揃って、毎日登る人も多いようだ。犬連れ、ランニング、ゴミ拾い、平地をいくら歩いても脂肪は燃焼しないのだから、200mあまりの山登りでもダイエット効果は段違いだろう。山頂には専用の記帳所まである。

鉄拐山から先、尾根を行くと車の音が近くに聞こえる。この下を第二神明道路が通っている。琵琶湖南岸の金勝アルプスの下は第二名神道路というのに似ている。そして、このコース途中での最初の市街地通過だ。高倉台という住宅地を抜ける。名前からして近年の造成地だろう。昔は縦走路が続いていたはず。それもあってか、団地の中を車道に出ることなくコースは繋がっている。「早朝散歩の方は迷惑になりますので話し声に注意」といった注意書きがあちこちにあるから、六甲縦走の登山者だけでなく地元の早起きのお年寄りも多いと知れる。
 山道が先にあり、後から団地のはずだから、遠慮がちな物言いのようにも見える。ここにあった山を崩して沿岸の埋め立てに使い、削ったところにニュータウンということのよう。海上に浮かぶ神戸空港にもなったはず。そのせいか、高倉台の両側の傾斜は急なうえにコンクリートの階段だ。どこかの運動部らしい若者たちが階段トレをやっている。これはきついぞ。

そして、いよいよ本日のハイライト、須磨アルプス。急な階段を登りきった先が栂尾山(274m)、頂上に木の櫓があり展望台となっている。振り返れば、淡路島と大橋の手前に辿ってきた山が入ってくる。本当はここまで繋がっていたはずの尾根が住宅地で分断されているのがよく判る。
 ここから先、危険表示が頻出する。曰く、須磨アルプスは風化が激しく強風時や降雨時は危険なため注意して歩いてください、というようなことが。横尾山(312m)までの尾根歩き、普通に歩いて何の問題もないところだが、子どもも登るし、いまどきは走る登山者もいるので、こんな注意書きになるのだろう。

湖南アルプス、多紀アルプスと繋がっている地層なんだろう。ここも同じように花崗岩が露出し崩壊が進んでいる。禿山に植林が進み緑が復活して、生えきらないところが残ったのか、それとも地形的に植林が無理だったのか、知るよしもないが、土と岩のトレールは北アルプス燕岳あたりを連想させなくもない。谷の下には中層マンションの窓が並んでいる。
 あそこに住んでいると須磨アルプスと毎日対面するのだなあ。ちょっと散歩ということも、岩登り好きなら危険だが谷筋を詰めるということも。こうしてみると、見るべきところのある須磨アルプスと一ノ谷の背後の山は残し、真ん中の高倉山を潰したということも納得かな。しかし気の毒な山だ。その跡に残ったピークにおらが山と名付け、地元の毎日登山会が登っているのは追善なのかも。

また町歩きである。今度は妙法寺の谷、ここを阪神高速神戸山手線と地下鉄西神・山手線が束になって通る。電信柱に「六甲全縦」という標識が随所にあり、これは「六甲全山縦走路」のことらしい。これ以上短縮すると意味不明になるギリギリの線か。それを順次辿ると、高速道路と地下鉄地上部の下をくぐって妙法寺だ。地形図ではいまひとつ判読しにくいが片側は崖が覆い被さっている。コンクリートの擁壁があるにしても、よくこんなところに住んでいるなあ。あの地震で何ともなかったんだろうか。

正月3日にはこの妙法寺で鬼払いの追儺式があるらしい。賽銭箱の上には宣伝のビラがある。ここの毘沙門天立像は国宝とのことだが、よく見ると「旧」の文字が冠されている。ということは、今は重要文化財ということになる。要するに格下げされてしまったわけだ。何だか公益法人をいったん特例民法法人に移行し、その中で改めて公益性が認定されたものを新・公益法人とするようなものか。日本漢字能力検定協会とか日本相撲協会のようなものが公益法人に認定されるはずがないことを連想してしまう。そんな問題法人と一緒くたにすると罰があたりそうだが、本尊は開帳されていないので値打ちのほどは確かめようがない。

また暫くの町歩きのあと、高取山(328m)に登る。イノシシ出没注意の看板が真新しいのが嫌な感じだ。まあ、野生動物からすれば住処が侵食されているのだから迷惑な話だろう。塩屋の町外れにはマムシ注意の看板もあったし、海と山に向かって街が拡がっていく六甲山系ならではのこと。

高取山の頂上一帯は高取神社の神域になっていて、いくつもの神殿が散在する。旗振山と比べると人はずいぶん少ないが、参拝かたがた毎日登山の人が来るようだ。ここにきて下りの参道が膝に堪える。石と土ではこれほどまでに違うものか。リュックに入れたままのサポーターを着けたほうがよかったかも。

下りの途中に、輪投げのコートがある。ずいぶん遠い記憶だが、確か摩耶山あたりから布引の滝を経て新神戸駅(当時は存在しない)に出るコースにもあったはず。こんな山中になぜ、どうにも奇異だし、何だか怪しい雰囲気も漂う。まあ、健全なスポーツというか遊技ではあるのだろうけど。

予定は神戸電鉄の鵯越駅まで、またも街中、少々だるくなった足を運ぶ。途中のバス停からでも神戸に出られるのだが、ここはテツ、まだ乗ったことのない神戸電鉄の坂下りを体験しなくては。と、鵯越駅前というバス停に到着したはよいが駅がない。ウロウロ探して、歩いているときに見えていた線路とは反対側の谷底に駅を見つけた。トンネルで小さな尾根の下をくぐっていたのだ。トンネルの上から線路を眺めると、山の中なのに思った以上の運転頻度だ。鈴蘭台で分岐して有馬・三田方面と三木・小野方面へ、いわゆる六甲山の日本海側に繋がるルートで人口も増えているから当然かも。

新開地で阪神電車に乗り換え。そのまま梅田でも奈良でも行けるが、阪神元町で下車、南京町の老祥記に並んで豚饅を買う。ここのは小籠包ほどの大きさ、お土産に15個注文して、その間に狭い店内で蒸したて3個を頬張る。肉屋の前で揚げたてのコロッケにかぶりつくのと同じ、これが一番美味しい食べ方なのだ。

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