紀伊半島一周てっちゃん旅 ~ 青春18きっぷで熊野詣
2012/4/8

ハイキングの次は電車。4月の予定がはっきりせず、いったんは手放した青春18きっぷ、オークションで残り一回のものをゲット、これも私が買ったのと同じ希少な赤券だ。発行駅はこちらもJR奈良線の駅、私は車で30分ほど走って駅で買ったのだが、この人は遠隔地、JR奈良線の駅では通信販売もしているのだろうか。都会地では珍しいマルス端末未導入ということを逆手にとった増収策かも知れない。

今回の乗車駅は松阪。そこまでは近鉄の株主優待乗車券を使う。JRを乗り継いでという方法もあるが、それだと朝が早すぎる。今回のメインは紀伊半島の東側、JR東海の未乗エリアだから、優先順位の問題ということだ。

松阪駅は近鉄とJRが一体化している。改札口も同じ、構内に両社を隔てるものは何もない。逆にそれだと乗車駅のスタンプが貰えないので、いったん改札口を出てから入り直すということをする。便利さが逆に不便になるのも奇妙なこと。

先に発車する特急「南紀」を見送り、普通列車の伊勢市行に乗車、これは参宮線に進むので多気駅で乗換となる。二両編成のディーゼルカー、新宮まで4時間余の鈍行の旅が始まる。青春18きっぷ組とおぼしきてっちゃんが何人も乗車している。彼らの標準装備はカメラと時刻表、デイパックに食料と飲料、みんな寡黙である。人から見たら私もその同類なんだろう。カミサンがこんなバカな旅に付き合ってくれそうもないから、次はどこかで鉄子を誘わないと。

この列車、30分以上の長時間停車が二回ある。紀伊長島と熊野市だ。ちょうどいい休憩ということでもあり、駅の外をウロウロする。紀伊長島ではご当地の大内山牛乳、熊野市では駅構内のそば屋で腹ごしらえだ。何てったって長丁場、丸一日の鈍行の旅。

海が見えるのは紀伊長島の手前からだ。伊勢の国の部分は内陸を走る。紀伊の国に入って海沿いの路線となる。国境は県境と一致しない。紀伊長島は家族と夏休みの旅行で来たことがある。あの頃には途中までだった高速道路もここまで延伸されているようだ。鈍行で行く物好きはともかく、時間や値段を考えたら、複数人の場合だと普通は自動車となるだろう。

紀伊長島から先はトンネルのほうが長いぐらいだ。尾鷲を過ぎると、入江の集落にある駅と駅をトンネルで繋ぐといった感じで走る。複雑な海岸線、海に迫った山、この一年に何度も映像が流された三陸海岸の地形と二重写しになる。東南海地震でも起きれば壊滅的な被害となることは間違いない。風光明媚と裏腹のリスクを抱えて生活することの厳しさ。

次の長時間停車駅である熊野市に至って海岸線が単純になる。ここは世界遺産となった熊野古道の東側(伊勢側)からの玄関口になっているようで、駅構内にもそんな案内が目につく。それよりも気になったのは駅から見える巨岩、奇妙な形のオーバーハングした岩が山腹に点在する。かといって特に案内表示もない。御神体のような気もするがよく判らない。他にたくさんの観光スポットがあるだけに、地元にしてみれば取るに足らない風景なんだろうか。

紀州製紙の工場がある鵜殿を過ぎて熊野川鉄橋を渡ったら終着の新宮だ。家を出発してからほぼ7時間、大和八木から新宮まで紀伊半島中央部を南北に半日かけて走るバスと同じぐらいかかっていることになる。件の日本最長の路線バスが行く国道168号線は先の豪雨被害もあったが、昔に比べればずいぶん整備されているのでマイカーなら4時間もあれば走破できるはずだ。最後に開通した本線とは言っても、こんな鉄道マニアだけでは紀勢線の乗客増には結びつかないだろうなあ。

乗りテツ一辺倒で通すほどマニアックではないので、新宮では観光の時間を確保していた。熊野速玉大社の参詣と新宮城址の花見だ。1時間半で二つをこなす。改札口を出たら駅のインフォメーションに直行、市内マップを貰って徒歩15分ほどの熊野詣である。大峰の山には登っていても、ことさらお宮参りの時間を取ったことはないので初の熊野詣ということになる。
 境内には天皇・上皇の熊野詣回数が書かれた石碑がある。なんだか番付表みたいで、後白河33度、後鳥羽29度、鳥羽23度という三人が突出している。異様な回数、平安時代の交通事情を考えれば、これだけ都を空ければ政務どころではないだろう。折しもNHK大河ドラマ「平清盛」放映中であるが、このリストだけでも武士の時代になるのも無理からぬことと思う。平重盛御手植えと称する樹齢千年の天然記念物なぎの老樹があるのも象徴的だ。

速玉大社の境内はさして広くはないので参拝はすぐに終わる。駅と神社の間にある新宮城址は花見の最盛期をやや過ぎたぐらい、さすがに南紀、奈良よりもだいぶ暖かい。家を出るときはマフラーまで巻いていたのに、もはや汗ばむほどの陽気だ。城址からは市街と熊野川が見下ろせる。広い川幅、いまは流れは大したことはないが、紀勢線がしばらく不通になっていたほどだから、豪雨のときの流量はいかほどのものだったろう。一帯は名にし負う降水量の地域だから。

列車の旅のメリットはビールが飲めるとこと。新宮から先はJR西日本の電化区間、普通電車はロングシートに替わり、車内で缶ビールを空けるのは気が引けるところもあるが、混でもいないしまあいいか。

橋杭岩が車窓に見えたら間もなく串本、大阪からここまでは会社の旅行で以前に乗車したことのある路線だ。もちろん、そのときは特急「くろしお」、今回のような鈍行乗り継ぎではない。JR西日本区間になって困るのは、隙間の時間がないということ。乗り継ぎ時間も数分レベルになるので、ちょっと駅に降り立って煙草をなんてのは無理な算段。そのうちに日も暮れてきたし、地図を片手に車窓を眺めるのは止めて読書の時間となる。電車に乗っているときが一番読書に身が入るというのはサラリーマン時代の習慣のなせるわざだろう。

天王寺駅到着は午後9時過ぎ、自宅に帰り着いた頃には10時を回っていた。正味15時間強、これだけ乗っていれば飛行機ならヨーロッパでもアメリカでも、充分に到達している時間だ。いちおう途中に観光の時間があるし、乗り継ぎや長時間停車もあるので、エコノミークラス症候群とは無縁。そういうことでは途中を楽しむという気持ちさえあれば、鈍行鉄道旅のほうがずっといいかな。この春、青春18きっぷの利用可能期間の開始3日目と終了3日前に頭と尻尾を使ったということになる。巻き寿司でも端っこが大好きな私らしいとも言えるなあ。

(乗車の記録)
富雄 6:57 〜 近鉄奈良線(準急)[近鉄奈良行] 〜 大和西大寺 7:04
大和西大寺 7:09 〜 近鉄橿原線(普通)[橿原神宮前行] 〜 大和八木 7:42
大和八木 7:50 〜 近鉄大阪線(快速急行)[宇治山田行] 〜 松阪 9:12
松阪 9:23 〜 JR紀勢本線(普通)[伊勢市行] 〜 多気 9:36
多気 9:43 ~JR紀勢本線(普通)[新宮行]~ 新宮 13:45
新宮 15:24 〜 JR紀勢本線(普通)[紀伊田辺行] 〜 紀伊田辺 18:13
紀伊田辺 18:16 〜 JR紀勢本線(普通)[御坊行] 〜 御坊 19:04
御坊 19:06 〜 JR紀勢本線(普通)[和歌山行] 〜 和歌山 20:08
和歌山 20:12 〜 JR阪和線(快速)[天王寺行] 〜 天王寺 21:16
天王寺 21:22 〜 JR大阪環状線(内回り)[鶴橋方面桜島行] 〜 鶴橋 21:28
鶴橋 21:43 〜 近鉄奈良線(快速急行)[近鉄奈良行] 〜 生駒 21:57
生駒 22:01 〜 近鉄奈良線(普通)[近鉄奈良行] 〜 富雄 22:06

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