芳山に登る ~ 奥山に藪を踏み分け
2012/5/12

明日はカミサンと熊野古道を歩きに行こうということなので、カミサンは仕事だが私は一人で足慣らし。今さら目出度くもない誕生日、近くのお手軽ハイキングのつもりが予定以上のロングウォークとなってしまった。と言っても、もともと確たる予定を決めていたわけではないが。

コースはこんなつもりだった。若草山の奥(東側)にある芳山(ほうやま、518m)という低山に登り、近くの石窟仏を巡る。奈良奥山ドライブウェイでのアプローチはもったいないから、たぶん無料で車が駐められるだろう東側の柳生街道側から入山する。その程度の計画、25000地図を片手に2~3時間と踏んでいた。
 ところが、まともな登山道はないし、仕事道やら遊歩道が錯綜しているし、あちこち立入禁止やらで、ぐるっと大回りの羽目に。ある程度は予想されたことだが、世界遺産ともなると一筋縄ではいかぬもの。

白毫寺のあたりから県道80号で山に入り、奈良奥山ドライブウエイの入口をやり過ごしさらに登る。ディアパークゴルフクラブ方面への道に進み誓多林の集落の奥まで車を進める。集落のはずれに、柳生街道を歩く人のために設置されたのだろう、綺麗な公衆トイレがあり、その前に駐車スペースがある。付近の路肩も含めれば10台程度は駐められそう。土曜日なのに空っぽだ。ウォーキングの起点とするには最適なのに、知る人ぞ知るというところかな。

西に石切峠を目指して柳生街道を辿る。すぐに峠茶屋が現れる。何とも不思議、100年ほどタイムスリップしたような佇まいだ。横目で眺めて石切峠に着く。さて、芳山への登り口は。特段の標識もないので峠付近の切り開きを登り出す。まあ、そのうちに道らしくなるだろう。しかし、藪とは言わぬまでもお世辞にもよく踏まれた道とは言い難い。尾根の上部に行くほど道らしくはなってくるが、鹿除けのネットフェンスの維持管理用という感じでハイキングのための道じゃない。
 それでも芳山南峰という標識があったから、もう少し北に行けば三角点の北峰だろうと思うとそうはいかない。素通りである。これだろうと思ったピークは立入禁止のロープ、それを捲いてしまったから道は下りに転じる。あれれ、仕方ないから歓喜天へ下って麓の捲き道で戻ろうと思っても下り口が見つからない。茶畑の上部に出たところで展望が開けるが、適当な下り道もなくネット沿いに行く。そのうちに国道369号にぶち当たるとの予測どおり、ぽっかりと車道に出会う。余分に歩いてしまったが大した距離じゃなし、そこから佐保川沿いの遊歩道に折り返す。

そこからも一筋縄では行かない。同じくネットフェンス沿いの道だが、分岐あり、立入禁止ありで、地図に記載の道を辿ることは困難だ。挙げ句の果てに行く手を阻まれた。よく見ると扉があり立入禁止ではあるが鍵はかかっていない。そこしか行きようがないので立入禁止エリアに侵入する。すると、向こうに人影。どうも国有林パトロールの職員の方のよう。ここは努めて友好的に当方の予定行程と事情を話す。

「どこから歩いて来られたんですか。ここは立入を禁止しているんですが」
「南から芳山を登って、国道369号のところまで行って引き返し、石切峠まで戻るつもりなんですけど。突然立入禁止になったりして訳がわからんですねえ。どないしましょ」
「ようそんな人がいてるんですわ。ハイキングコースとして紹介されたりするんですが、歩けないところもありましてね。少し先が歓喜天ですから、そこからドライブウエイを行ってもらうのがええかな。でも、歓喜天は災害で倒壊していますけどな」

こちら国土地理院の地図を示して尋ねるので、多少はまともな山歩きと見たか、先方も丁寧に対応してくれる。原生林を保護するための措置がとられているのだろうが、実際問題としてドライブウエイが入り込んでいたり、ゴルフ場も近くにあったりだから、登山者に少々冷たいという気もする。ともあれ、世界遺産の保全も苦労が多そうだ。歓喜天とすぐ下の鶯の滝に立ち寄る。ドライブウエイからは脇道がここまで来ている。歓喜天への石段の脇には興福寺別院との石標があるが、鐘楼を残して建物は全て撤去されている。どうするんだろう。

そう言えばドライブウエイを車で走り抜けたことがあった。この区間は舗装道路じゃなくて地道だった。ここは走る車も稀なのでハイキングコースの色彩が強い。原始林の森林浴といったところだ。佐保川の源流を詰めて柳生街道と出会うあたりは石窟仏が点在するエリアであり、ぐるっと周遊するのもよさそう。まともな山道から外れて今日は予定以上に歩いたから、こちらは別の機会に持ち越しとしよう。

(5月19日追記)

一週間後、カミサンを誘って歩き残した石窟仏を巡るウォーキングに出かけた。2時間ほどの周遊コースだ。起点は同じ上誓多林の駐車場、今日も駐まっている車はいない。石切峠から痩せた尾根を下って捲き道をドライブウェイのほうに進むと地獄谷石窟仏、古いものなのにわずかに彩色が残っている。車道を横切って春日若宮のほうに少し下ると新池、ちょっと下には首切地蔵、これは思ったよりも大きい。別の道を登り直すと春日山石窟仏、地獄谷のものが平面なら、こちらは立体的だ。柔らかい花崗岩なので彫るのは困難ではないにしても、よく今まで残っているものだ。もちろん立入は禁止されていて動物園よろしく檻の隙間から覗くだけであるが。
 熊野古道を踏まえ、カミサンに、「今回は山登りじゃなくて、山歩きだろ」と。

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