中京圏、電車でひとまわり ~ 知られざる鉄道名所を訪ねる
2012/7/16

今シーズン初のナゴヤドーム、めでたく読売を下して翌日は電車に乗ってぐるっとひとまわり。まずは名鉄名古屋駅から犬山線に乗る。ごくふつうの急行新鵜沼行き、パノラマSUPERでもなく、セントレアでもない。そちらは写真を撮っただけ。30分ほどの乗車、もったいないことはしない。

犬山公園で下車し、木曽川沿いを歩いて犬山城に登る。これで国宝4城はすべて行ったことになる。今は財団法人化されているが、もともと個人の所有だったらしい。天守閣には歴代城主の成瀬一族の額が並んでいる。明治以降の三代は写真で洋装、江戸と明治のギャップの大きさを感じる。個人所有だと維持管理がさぞ大変だったろうとは余計な心配。木曽川から屹立したロケーションは天然の要害である。

犬山公園駅のすぐそばからは日本ライン下りの無料シャトルバスが出ている。ついでだから美濃太田まで遡り川下り。梅雨末期の雨の増水で欠航寸前の水量、名前の付いた岩のほとんどは水面下のよう。お天気は良すぎるほどで川面の照り返しで日焼け止めを塗り忘れた腕が真っ赤になる。UVシールド必携の季節の到来だ。

犬山公園駅から再び名鉄で岐阜に向かう。犬山線、各務原線の乗り継ぎ、仕事で二度ほど来た岐阜駅前の信長像を間近で眺める。きっとお金をかけたはずなのに、金色の立像に注目する人の姿はない。像の袂には素っ裸で噴水を浴びている子どもの姿。新幹線から外れてしまった岐阜、そのシンボルとしては気の毒な姿だ。

ここからJRで大垣へ。樽見鉄道、東海道線の支線とともに、養老鉄道がここに集まる。近鉄養老線だった時代はそんなに前ではない。大垣でスイッチバックして北の揖斐と南の桑名を結ぶ。昔の近鉄カラーの電車が停まっている。これが近鉄でなくなって岐阜県の近鉄は消えた。「何を桑名の焼蛤」なのか、そのイラストの行先表示看板が掛かる電車だ。サイクルトレインという表示板もあるから、自転車持ち込みOKということなんだろう。でも車内に自転車の姿はない。

大垣を出た桑名行きの電車は養老山地に寄り添うように走る。平野からは小高く山裾の集落を結んでいる様子は八高線を彷彿とさせる。濃尾平野を形成する木曽三川が氾濫しても辛うじて水没を免れる位置ということだと思う。桑名までは一時間あまりの各駅停車の旅だ。電車はガラガラ、クルマ王国で近鉄が赤字路線を切り離したのも無理はない。

さて、桑名。先ず、お目当ての三岐鉄道北勢線に乗る。これは軌間762mmの軽便鉄道規格だ。桑名駅の南に隣接した西桑名駅には黄色に塗られた可愛い車両が停まっている。初乗り運賃160円で行ける蓮花寺までの往復切符を買っていざ乗車、運転士のおねえさんの背部にへばりつく。電車でGo! 西桑名駅を出発してJR関西線・近鉄名古屋線と少し並走したあと、右に大きくカーブを切りながら両線を跨ぐ。762mmの単線が大きな電車道を超えていく図はなかなかのものだ。ただそれだけのことなのに、ワクワクするのが不思議。

北勢線は一時間に2本、蓮花寺駅で上り列車に乗り換えて西桑名駅に戻ったら、いつも近鉄の車窓から眺めるだけだった"あの踏切"に向かう。桑名駅・西桑名駅の南方に、日本でここだけという鉄道名所があるのだ。いっぺんに三種類の軌間のレールの上を歩けるというのは余所にはない。東から762mm、1067mm(JR)、1435mm(近鉄)の揃い踏みということ。

面白いのは一つの踏切だと思ったら、各社それぞれに別の名称が付けられていること。三岐鉄道は西桑名第2号踏切、JR東海はただの構内踏切、近鉄は益生第4号踏切という。事故などの際の緊急連絡先も別々だ。となると、通報者としてはそれぞれに連絡するということか。それとも、三連の踏切のどの部分の異状かを確認して適切な電話番号に架けるということか。全くつまらないことが気になってしまう。そんなことはさておき、いざ渡らん。

この踏切を車は渡れない。歩行者か二輪のみだ。実際に歩いてみて驚きの発見。長い踏切の途中に島があるのだ。三岐鉄道とJRはセットなのだが、近鉄との間には2mほどのスベースがあり、踏切内踏切の構造だ。列車の往来が頻繁だから一度に渡りきれないこともしばしば、そのときには真ん中の島で待機となる。しかし、わずか2m、自転車の全長に等しい。「ト」の字型に少し出張った安全地帯が設けられているといっても、真ん中で待避できるのはせいぜい2台だろう。考えてみれば危険な踏切とも言える。 のべつカンカンと警報音が鳴り響き賑やかなことこの上ない。

この中間の安全地帯は電車を眺めるのに最高のポジションだ。三岐鉄道の黄色いミニ電車、JRの普通や快速、特急「南紀」など、近鉄は普通や急行だけでなく名古屋と伊勢志摩・大阪を結ぶビスタカーやアーバンライナーの特急が引きも切らない。これは大変な場所だ。至近距離の大迫力、電車好きの子どもだったら動かないぞ。そんな孫を連れてきたおじいちゃんは大変なことになる。とか何とか言いながら大の大人がどれだけここに居たんだろう。中間地帯で立ち止まり、渡っては渡り返す。まるで子どもと同じだ。

知る人ぞ知る踏切、日本で唯一なのに、それを宣伝しているふうでもない。世間では鉄道ブームの再燃が取りざたされているのに貴重な観光資源が眠っている。踏切のすぐ横にはビジネスホテルもあるのだから「てっちゃんパック」ぐらい企画したらいいのに。もっとも、全国から鉄道ファンが押しかけて踏み切りが鈴なりになってしまうと危険だし、今のままでいいのかも。

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