予定変更もまた良し ~ 天空の城に登る
2012/8/13

夏休みシーズン、発売開始同時に買った青春18きっぷが未使用のまま。お盆の連休にどこかに行こうかと思案、いつ廃止されてもおかしくない三江線が候補にあがったが、これだと泊まりがけで二日を要する。暑い時期に連日乗りづめではきつい。それで日帰りの周遊コースを計画。次のようなルート、これでも過酷なことは変わらないけど。

 大阪7:17 〜 東海道本線(新快速) 〜 8:22姫路
 姫路8:26 〜 播但線(普通) 〜 9:09寺前
 寺前9:47 〜 播但線(普通) 〜 10:37和田山
 和田山10:46 〜 山陰本線(リレー号) 〜 11:30城崎温泉
 城崎温泉11:54 〜 山陰本線(普通) 〜 13:57鳥取
 鳥取15:23 〜 因美線(普通) 〜 16:19智頭
 智頭16:21 〜 因美線(普通) 〜 17:37津山
 津山18:02 〜 津山線(ことぶき) 〜 19:14岡山
 岡山19:16 〜 山陽本線(普通) 〜 20:41姫路
 姫路20:42 〜 山陽本線(新快速) 〜 21:43大阪

1回分2300円でこれだけ乗れたら充分か、山陰・山陽をぐるっと回る。播但線も因美線も乗ったことがないし。

空模様がいまひとつのなか、早起きして勇躍出発、姫路までは新快速で特急並みのスピード、ここからいよいよローカル線の旅の始まりだ。駅の北側に見えるお城は改修中ですっぽりと工事用外壁に覆われている。北のほうの空は真っ黒だ。下手すれば大雨に遭遇、ダイヤの乱れもあり得るなあと懸念する。ピンクがかった小豆色の電車、盆休みだけど鈍行列車のこと、空いている。播但線の半ば寺前から先は非電化区間になるので気動車に乗換となる。

乗り継ぎ時間待ちで駅の外に出て観光案内所に立ち寄る。このあたり柚子が名産のようで、土産に「柚子の精」という果汁エキスを1本。ここは砥峰高原の入口になるようで、「ノルウェイの森」、「平清盛」のロケ地とか、宣伝文句があちこちで目につく。

一両きりのディーゼルカーが山間を進み生野の先で分水嶺を超える。川の流れが逆になるのでそれと知れるが、中部山岳に比べると西日本の分水嶺は地図を見ても明瞭ではない。小一時間で山陰本線との乗換駅、和田山に到着する。一つ手前の竹田駅のそばには山城の跡があるので窓から見上げている人の姿もあるが、ふつうの里山が迫っているだけで、どこに城があるのかも判らない。

和田山駅には「銀の馬車道」というラッピング車両が停まっている。途中で何本かすれ違ったのと同じ列車だ。明延~生野~神河~市川~福崎~姫路飾磨というルートがかつての銀の搬送路ということで、地元が観光振興に力を入れているようだ。JRの列車も一役買っているのだが、銀山跡のアクセスを考えても観光客はふつうはクルマで来るし、乗客増には繋がらないだろう。ローカル線ではお馴染みの「播但線に乗ろう」的な標語は沿線に多く見かけるが、全線電化・複線化の日が訪れる見込みはなさそうだ。

予定どおりなら9分の待ち合わせで城崎温泉行きに乗り継ぐはずだが、不穏なアナウンスが流れる。山陰線の特急が車両故障を起こしてダイヤが乱れているというものだ。上夜久野・下夜久野間で停車中ということは、つまり単線で信号所でもないところに停まってしまったら上下とも運行できないということだ。構内の表示板の遅れが15分からどんどん数字が増えていく。あとから到着した上りの特急「こうのとり」も和田山で停車したままだ。
 この糞詰まり状態を解消するには、故障車が自力で待避線のある駅まで走行するか救助の機関車が牽引するかだが、回復するにしても1時間以上はかかるだろう。となると、先の行程をこなすことは難しくなる。駅から5分という鳥取温泉で疲れをとって後半に備えるというつもりで1時間半の余裕をみていた計画も無理っぽくなる。こういうとき、青春18きっぷには何の保障措置もない。

これから城崎温泉あたりに行く人たちが多いのだと思う、いずれ動くだろうとのんびりしたもの、ローカル線ならでは、殺伐とした雰囲気は露もない。私とて予定外も予定のうち、動き出したら城崎温泉まで行って外湯巡りをしてもいいし、なんてことも思いながら駅構内をウロウロしていると、掲示されている竹田城跡の写真に目がとまる。そうだ、これも何かの巡り合わせ、暑そうだけど山登りに予定を変更しよう。あの雲に浮かぶ城跡の写真は前に新聞で見て強い印象が残っている。日本のマチュピチュというのがほんとかどうか確かめてみよう。

定刻どおりの播但線で一駅戻る。竹田駅の駅舎内には観光案内所が併設されていて、大きな竹田城の復元模型が展示されている。案内所のおねえさんが「歩いて登られますか」と地図をくれる。「よかったら杖もどうぞ」となかなか親切。「線路沿いにちょっと行くと消火栓がありますから、そこを曲がって線路の下をくぐって…」と不思議な案内。

なるほど、歩き出してわかるショートカット、子どもの背丈ほどしかないから大人は屈んで進む。いちおうブラステック板の天井があるので線路から顔を出すということはないが、不法侵入ではなくてこれほど列車に近いアンダーパスはないだろう。最近NHKでモデルの市川紗椰さんという人が弘南鉄道・秋田内陸縦貫鉄道を旅するという番組をやっていたが、この人は正真正銘の鉄子、車両の音の微妙な違いに反応していたのに笑ってしまった。鈍行ばかりか特急はまかぜも走るこの線路下に座らせたら何と言うだろうか。教えてあげたいぐらいだ。

お寺の横の登山道を登ること小一時間、心配した雨もなく、そのぶん汗だくで城跡に辿り着く。ビールのオマケの保冷ボックスに詰めてきた飲物がこんなところで役に立つ。もともと山登りでなく乗りテツのために用意したものだが、思わぬ僥倖というところ。山上は風が吹き抜けて爽快である。南側から中腹まではクルマで上がれるので、そこからだと15分ということ。駅から歩く人は他に見なかったのに、城跡には結構な数の人だ。353m、低い山だが麓から屹立しているので高度感がある。遮るものがなく360°の展望、円山川沿いの街道を眼下に見下す。何故ここに城を建てたかが腑に落ちる。

川霧が湧き「天空の城」の姿になるのは晩秋の早朝だという。今は夏姿、霧などどこにもないが、素晴らしい眺めだ。南米に行ったことはないけど、写真で見るマチュピチュを彷彿とさせるのは確か。壺阪寺から登る高取城址も山城としては大きなほうだが、ここまでの規模ではないし眺望の点でも比較にならない。これはとんでもないところだ。

駅に向かってはもう一つ山道があるのだが、台風被害で通行止めということで南側の車道を経由し駅に戻る。観光案内所にはおねえさんの他におばさんもいる。
 杖を返すと、「お疲れ様でした。けっこうあったでしょう。雨にならなくてよかったですね」と。
 「いやあ、観光名所なんて行ってみたら大したことないところが多いですけど、ここは凄いところです」と私。
 「そうですか、ありがとうございます。何にもないところですけど。駅前に店もないし、駐車場もみんな無料、でも霧のシーズンにはたくさん来てくれはります。カメラマンの人なんてテントで泊まり込む人もいたはります」

あとから案内所に入ってきた人は東京からわざわざということだった。この人も新聞の写真で見て一度行ってみたいとの念願叶ってということで感激の体だ。あまり有名になると人が増えすぎるだろうし、もしも転落防止の柵が設けられたりしては台無しになる。今ぐらい、知る人ぞ知るぐらいでちょうどいいかも。

てっちゃんのつもりが登山者になってしまった。しかし大満足、往路を姫路に向かって播但線に揺られる。保冷ボックスにはビールがまだ残っているぞ。と、最後に乗りテツの復活だ。行きがけの駄賃、神戸に着く頃には17時を過ぎる、ふふふ、朝夕しか走らない和田岬線に乗るチャンスだ。せっかくの青春18きっぷ、有効活用しない手はない。

新快速で神戸まで、普通列車で折り返し兵庫、今日は一駅戻りのパターンが続く。山陽線にくっついた一段下のホームが和田岬行きだ。17:15の夕方の始発が停車している。端から先頭車両まで歩くと乗車しているのは数人、それも先頭車両だけ。テツしか乗っていないのだ。発車前からビデオカメラを構えて電車でGo!の準備態勢だ。

たった一駅の盲腸線、あっという間に和田岬駅に到着、乗ったことはないが首都圏の海芝浦駅みたいなものか。テツの名所、憧れの都会のローカル線である。海芝浦は東芝御用達の駅だが、こちらは三菱。無人駅なのに構内にコンビニ、正面入口の他にホームに多数の入口階段、乗る人は三菱関係者だけだからこれでいいということだろう。普段なら折り返しの兵庫行きには退勤者で一杯になるはずだが、帰りもガラガラ。いちおうJRもダイヤがあるので三菱関連企業の盆休みに連動とはいかないようだ。したがって、盆休みはテツの御召列車の様相だ。

まったく予定していなかった乗車だけど、これも山陰線の車両故障のおかげか。転んでもタダでは起きぬテツのしぶとさ、我ながら呆れてしまう。そして、もう1箇所の途中下車、元町で降りて南京町へ。お土産がもう一つ、老祥記の豚まん。40人ぐらいの列が出来ていて18:00も過ぎたし売り切れ懸念だが、近所への土産も含んで無事20個をゲット、出鼻を挫かれた青春18きっぷの旅も、終わりよければ、である。

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