四国一周、青春18きっぷ
2012/12/23・24

青春18きっぷ、これまで専ら日帰りだったが四国一周ともなると一日では無理、途中で一泊、乗りテツ三昧に出発だ。学生時代以来の長い冬休みだから、連休に行かなくてもいいのだけど、年末になると慌ただしいし、大掃除でゆっくりさせてもらえなくなるのは必定。
 寒気が南下して日本海側は大雪、この時期のダイヤの乱れは鈍行旅行には致命的だ。四国を選んだのはそれがひとつの理由。

大阪 7:21 ~快速・姫路行~ 8:12 明石
 明石 8:24 ~新快速・姫路行~ 8:48 姫路
 姫路 9:09 ~新快速・播州赤穂行~ 9:28 相生
 相生 9:33 ~普通・岡山行~ 10:39 岡山

四国に渡らなければ始まらない。大阪8:00発の新快速で間に合うのだけど、ダイヤの乱れに備えて早めの電車に乗る。案の定、踏切遮断棒が折れたとかで遅れが出ている。いざとなれば途中に新幹線を挟むという手もある。明石で後続の新快速に乗り換え、さらに姫路でその後の新快速に乗り継ぐ。勝手知ったる姫路駅構内、乗り換えの間にお昼のサンドイッチを買って、名物の駅そばで二度目の朝ご飯。焼きそばに使うような麺を汁蕎麦にするという奇妙な食べ物だが、これが結構やみつきになるから不思議だ。

冬休みに突入し、青春18きっぷの乗客が多そうだ。1時間に1本しかない岡山行きの電車はかなり混み合っている。それに全区間を乗車する人の割合が極めて高い。こちら長時間の旅、座ってばかりいるとエコノミークラス症候群になるから、潔く立つ。

さすがに四国は南国だ。日本海側はひどい天候だと思うのにここでは晴れている。あっという間に瀬戸大橋を渡り坂出での乗り換えとなる。瀬戸内海の波はやや高いのが季節風の影響だろう。土讃線から予讃線に頻繁な乗り継ぎを繰り返して観音寺、ここからは東西に長い愛媛県の長丁場となる。

岡山 10:53 ~快速マリンライナー23号・高松行~ 11:34 坂出
 坂出 11:38 ~普通・琴平行~ 11:58 多度津
 多度津 12:00 ~普通・観音寺行~ 12:32 観音寺

青春18きっぷの旅は特急列車とは無縁、後続の特急が頻繁に追い越していく。おまけに単線だから列車行き違いの長時間停車もある。それもちょうどいいトイレや煙草の休憩である。

「石鎚山は見えませんでしたね」と、こちらが進行方向左側の窓にへばりつき山を観ていたのに気づいて運転士が話しかけてくる。空いた車両だから乗客の気配もすぐわかる。海岸から10kmも隔たらず2000m級の山が連なる高度差の感覚は日本アルプスに匹敵する。山脈の積雪は確認できるがその奥の主稜は雲の中だ。

伊予西条で松山行に乗り継ぐ。1時間以内の小刻み乗車のあと、ここからは2時間、乗りごたえがある。行き違いの長い停車時間には運転士も手持ちぶさた、話し好きの人のようで、こちらを最前部に張り付くテツと認めて、色々と教えてくれる。

「今度はディーゼル特急が来ますよ。高松・宇和島間は昔は特急でも6時間半かかりました。今は松山の先の伊予市まで電化されましたけど、その先は百年経っても無理ですわ」

こちらとしては、果たして百年後に鉄道で四国一周できるのだろうかという気がするが、そんなことを口に出すのは気が引ける。

途中の今治で長時間停車、ここから女性の車掌が乗り込みワンマンが解消、「同じ列車ですけど、ここからは頭の4が取れて番号が変わるんですよ。車掌がいるとこちらは運転に専念ということなんだけど、そうなると情報量が極端に減るんですよ」と。うーん、そういうものか。

観音寺 12:40 ~普通・伊予西条行~ 13:52 伊予西条
 伊予西条 13:56 ~普通・松山行~ 16:11 松山

伊予鉄道と交差したら程なく松山に到着。ここで2時間弱のインターバル、迷うことなく駅前から路面電車で道後温泉に向かう。片道150円、入浴のみ400円、相変わらず混み合っている。この季節、温泉がいちばん。食事の時間を切り捨てたから、ビールとじゃこ天を買い込んで車内でぐびぐび、日は落ちてもう車窓の楽しみはこちらに移る。

伊予大洲といえば、NHKの昔の朝ドラ「おはなはん」の舞台、なんてことを思い出すのは歳が知れるなあ。川を渡る鉄橋からライトアップされた城が見える。余裕があれば途中下車したい町だ。ここでは八幡浜行きは長時間停車で、先に伊予大洲発の宇和島行きが発車するという不思議なダイヤ、乗り換えとなる。行き止まりのターミナルスタイルの宇和島駅では牛鬼が迎えてくれる。21:00を過ぎた。雪がちらついている。家を出て近鉄電車に乗ったのが6:00台のことだったから、15時間前、不思議と疲れはない。

松山 17:53 ~普通・八幡浜行~ 19:28 伊予大洲
 伊予大洲 19:35 ~普通・宇和島行~ 21:08 宇和島

5時起床、駅近くのビジネスホテルから駅に向かう。未明の駅には始発の列車が並んでいる。高松行の特急、松山行の普通、そしてこれから乗る予土線、窪川行の普通だ。ローカル線のこと、当然1両、乗り込んだらすぐに最前部のシートを確保。後から乗車したのは若いカップルと一人旅のおじさん、どちらも見るからにてっちゃん、青春18きっぷで高知まで乗り通そうという人たちだ。

いきなり30‰を超す傾斜となる。ディーゼルカーは暗い坂道を喘ぎながら登っていく。山間部に進むにつれて雪は降りしきる。冬至から日もない時期、夜明けは遅い。高知県に入る頃、ようやく明るくなってきた。四万十川本流との合流点、江川崎駅では長時間停車、車内放送でトイレの案内までしてくれる。客はわずかだし放送するまでもないと思うのに、そこは規則どおりなんだろう。停車中、運転士は停車中の車両点検に余念がない。寒そう、ワンマン運転は大変だ。

昔の地図ではここが鉄道の終点だったと記憶している。その頃は予土線ではなく宇和島線と呼んでいたはず。高知と繋がることで際どく廃止を免れた路線ということになる。県境越えの連絡線で間に合わなかった路線は数多い。

四万十川を何度も渡る。鉄橋とトンネルの繰り返しだ。てっちゃんにとっては見所の多い路線、座ってなんかいられない。当たり前のように運転士の横のフロントガラスに近づく。

「あれはレールを運ぶ車両ですかねえ」と運転手に尋ねる。「ええ、そうです」と、大当たり。「運転中は話しかけないでください」と注意文言があるからこちらも気を遣う。

「これを見ながら乗ってると面白いよ」と、カップルに「レールウェイマップル 中国・四国 鉄道地図帳」を見せてあげる。時刻表だけ見ていたのでは詰まらないだろう。さっそく二人仲良く食い入るように眺めていたから、旅行が終わったらきっと書店に走ることだろう。

半家(はげ)駅があるかと思えば若井駅がある。土佐昭和駅と土佐大正駅が続いているのに明治や平成はない。予土線の駅名はずいぶん面白い。車内のてっちゃんはこぞって駅名看板を撮影する。高知県内に入って一般乗客もちらほらなので、いったい何をしているんだろうと不思議な面持ちだ。

そして、見所のひとつ、件の若井駅の手前、川奥信号所だ。土佐くろしお鉄道(旧国鉄中村線)と予土線の分岐、地図で見ると土佐くろしお鉄道は見事なループを巻いて南に向かっている。残念なのは、これがトンネルになっているので見えないことだ。信号所の待避線で普通列車は停止、ここで中村方面への列車の通過待ちとなる。なんとまあ派手な塗装だ。ここまで来ると空もずいぶんと明るい。終点の窪川駅は土佐くろしお鉄道のホームが並んでいて、いちおう駅舎は別々、JRでない区間の運賃200円を追払いする。

高知平野を走る列車はそれなりに乗降があるし駅間も短くなる。すっかり青空で、四万十川流域の雪が嘘のよう。高架線になって城が見えてきたら高知に到着だ。

宇和島 6:11 ~普通・窪川行 ~ 8:47 窪川
 窪川 9:05 ~普通・高知行~ 10:57 高知

さて、高知での乗り継ぎ待ちは2時間半もある。松山と同様、駅前から路面電車に乗る。はりまや橋で乗り換えて大橋通、ちょいと北に行けばひろめ市場、朝はコンビニのサンドイッチで済ませたから、しっかりと腹ごしらえだ。

前に高知に来たとき、見物だけして飲食の機会がなくて残念な思いをした場所、ショッピングセンターのフードコートのようではあるが、そういうのとは根本的に違う。6人ぐらい掛けられるテーブルがずらりと並ぶ広場の周りを居酒屋が取り囲むという風情、周りの店で美味しそうなものを適当に見繕って、昼間っからガンガン飲んでいる。それが普通というのだから、他にはない雰囲気だ。全て喫煙席で時流に抗しているのも嬉しい。

定番の鰹のたたき、藁で炙りたてのものを切ってくれるから香ばしい。アオサの天ぷら、マグロの握り、おっかなびっくりのウツボのたたき、初めて目にするチャンバラ貝、前回は土佐鶴一辺倒だったので酒は司牡丹と桂月の飲み比べ。気がつけば、2時間はあっという間、急いで戻らねば阿波池田行が出てしまう。

すっかり出来上がってしまった感じだが、列車が動き出すと目はぱっちり、土佐山田駅では上り下りのアンパンマン列車の行き違い待ちだ。同時刻の発車、こちら側のホームでは阿波池田行と高知行、逆方向の普通列車が縦列で停まっているという図式、JR四国では宇多津駅での別方向への特急切り離しをはじめ、このパターンが多いようだ。乗り間違いに注意だ。

高知平野を離れ山越えになる最初の駅、新改ではスイッチバック、運転士より先に車両の前後を移動するのだから、もはや筋金入りのてっちゃん。ループやスイッチパックと聞くだけで興奮するのだから始末におえない。

宇和島から乗ってきたカップルも予想どおりこの列車に乗り継いでいた。高知城とかはりまや橋とかの定番観光をしてきたのかな。ひろめ市場では見かけなかったが、酒飲みと一緒にしちゃいかん。

大歩危・小歩危あたりの吉野川はトンネルが続いて車窓から望めるのはわずかだ。それでも祖谷温泉に家族で旅行したときに乗船したあたりは見覚えがある。3時間近い乗車、さすがに大歩危の手前のいくつかの駅の区間では居眠りが出たが、ここにきて完全復活だ。阿波池田で琴平行と徳島行に接続、件のカップルは徳島方面に向かうとのことで、ここでお別れ。

吉野川を渡って180°の大カーブで高度を上げると箸蔵駅、札所の寺があるので遍路姿の人が乗ってくる。次が名だたる秘境駅の坪尻駅、ここもスイッチバック、車では行けず乗降客もほとんどないらしい。残念ながら琴平行は通過、普通列車でも停まる本数はわずかのようだ。

香川県内に入ると、またも小刻みな乗り継ぎとなる。坂出では岡山行まで30分弱の待ち時間、改札を出て目の前のうどん屋に飛び込む。「24分の電車なんだけど、間に合いますか」と聞いてから注文、心得たもので「先にお勘定をされますか」との配慮、おかげでぶっかけをゆっくりと食べても充分な余裕、せっかく四国に来たのにうどんを食べずに離れることはできん。

高知 13:42発 ~普通・阿波池田行~ 16:29 阿波池田
 阿波池田 16:32 ~普通・琴平行~ 17:18 琴平
 琴平 17:27 ~快速サンポート・高松行~ 17:58 坂出
 坂出 18:24 ~快速マリンライナー54号・岡山行~ 19:03 岡山

岡山からの戻り、青春18きっぷの割合が異様に高いのではないか、岡山・姫路間の完乗者がほとんどのようだ。隣のボックス席のおじさんは、ビニールのホルダーに青春18きっぷを入れて首からぶら下げている。もう5回目のスタンプも押されているから最終回だ。たくさんの途中下車印も押された赤いきっぷなので自慢なのだろう。発行駅をチェックすると東大津駅とある。阪和線にもマルス端末未導入の駅があるのか。おもに奈良線だけかと思っていたら、他にもあったか。思わず玉水駅発行の赤きっぷを取り出したい気になったが、大人げないのでそれはやめた。どうも九州方面まで行ったの乗りテツのようだ。

岡山 19:16 ~普通・姫路行~ 20:41 姫路
 姫路 20:57 ~新快速・米原行~ 21:58 大阪

高知での大ブレークはあったが、宇和島から大阪まで16時間、家に辿り着くまでさらに1時間あまり、この日もいっぱい乗ったなあ。15分ほどの居眠りのおかげで快調、無事四国一周が完了した。最近は人身事故の影響での遅れが多いにしても日本の鉄道運行の正確さは世界に冠たるものだ。もう前々になった総理にしても、四国一周はこれなら2日で行けるからお薦めである。選挙後の街の声で「今こそ四国巡礼に行ったらいい」と上手いことを言う人がテレビに映っていたから、ふとそんなことを思ってしまう。

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