空飛ぶテツ ~ 北海道で青春18きっぷ
2013/3/16-18

発売になるとつい買ってしまう青春18きっぷ、春のシーズンはどこに行こうか。そんなとき、関西空港就航後一年を経てピーチが快調とのかのニュース。そうだ、北海道に飛ぶ手があるぞ。往復しても新幹線の東京片道と同じぐらいの運賃、これは行くしかない。

南海なんば駅からラピートに乗る。運賃は890円だが特急券込みで1100円というお得なきっぷが発売されている。これも格安航空会社の便が増えたことと連動しているのかも。
 初めてのLCC、いろいろ聞いてはいたものの、実際に使ってみて解ることもある。

先ずは空港駅、そこから歩いてチェックインカウンターではない。第2ターミナルというのはずいぶん離れていて、バスに乗らないと行けない。第1ターミナルの感覚で到着したら乗り遅れの危険がある。
 次はターミナルビル、これはビルと言っていいのだろうか。外観も内側も倉庫同然だ。ははは、乗客は荷物と同じということだろう。そして、チェックイン、ネット予約のときに自分プリントアウトしたバーコードをかざすセルフ方式だ。搭乗も窓際の席から先に詰めていく。しかもかなり厳格だ。
 離島の空港のように地上を歩いて機内に入ると、アテンダントが頭上の荷物棚の整理に大わらわ、こりゃ何から何まで宅配便のノウハウを下敷きにしている。無駄を削ぎ落としているからあの値段。なるほどねえ。その結果、良いのは定刻に出発することだ。へんにVIP待ちなどないから、出発時刻の10分前にはドアが閉じられる。これぞ社会主義の大いなる果実。座席のピッチが短いので窮屈この上ないが、所詮国内線、辛抱もたかだか2時間、昼寝をしておればいい。目覚めたら白い世界。

今回の起点は旭川。夕方に新千歳空港に着いて青春18きっぷではなく特急カムイで旭川入り、翌早朝の稚内行に乗車する。6:05の発車、稚内到着が11:52なので半日かがりで最北端を目指す。雪の後なので途中の無人駅のホームは埋もれたまま。昔のCMに登場したあの比布駅は旭川の近くだったのか。件の会長ももう鬼籍に入っていることだろう。「わっ、寒っ」なんて、そのものズバリのような感じの和寒駅。

単線、鈍行と来れば、列車行き違い、特急通過待ちとかが多くなる。最初の長時間停車は音威子府駅、ここでは行き違いと特急通過待ちのダブルなのだ。駅構内には資料館が併設されている。ここを起点に南稚内まで天北線が伸びていた時代の品物が並べられていて、往時の駅構内のジオラマもある。
 最盛期からすると北海道の鉄道路線は半減したのではなかろうか。本線でも廃止になったのもあるし、盲腸線でもない長距離ローカル線がいくつも、あっさり切り捨てられてしまった。稚内を往復するにしても昔であれば天北線、深名線、羽幌線などを組み合わせて変化に富んだ行程を組むことも可能だった。しかし、残された路線にしたって、たった1両のワンマン運転では致し方ないということか。

次の長時間停車は幌延、適当なインターバルでトイレ休憩があるようなものだ。てっちゃんは運転士の横のお立ち台にいることが多くて、エコノミークラス症候群には無縁にしても、やはり屋外のキリッとした空気を吸うと気分も変わる。
 稚内に近づくとサロベツ原野の向こうにうっすらと利尻岳が浮かんでいる。海を隔てているのに思ったより大きい。1700mは伊達ではない。かぶりつきに陣取って前ばかり見ているテツおじさんに「利尻岳が見えますよ」と声を掛けたら、「えっ」と突然左の車窓にへばりついた。テツは単独行者がほとんど、概して寡黙で他者とのコミュニケーションはない。根暗なイメージがつきまとうのはいかん。

宗谷本線は海のそばを走る部分は少ない。稚内の手前でようやく海が見えた。もうすぐ桜の季節なのに、寒々とした海。そして、線路の行き止まりの稚内駅に鈍行列車は滑り込む。ホームが1本だけの最果ての駅。

北海道の主要都市の駅はどれも立派だ。札幌は当然としても、帯広も旭川も、そしてこの稚内も。途中の無人駅との落差がとても大きい。現に特急だけが走っている区間もあるくらいだ。車で動くのが当たり前になっているのだろう。青春18きっぷのテッちゃんがいなければ車内はずいぶん閑散とするのではないかな。

旭川に戻る鈍行は14:12の発車、約2時間のインターバル、そこで観光案内所でバスの時刻表をもらって出かけたのはノシャップ岬、最北端は宗谷岬だがそこまで行く時間はない。岬の手前でバスを降りると遮るものもなく風が吹き抜ける。オマケに足許は凍っている。持参した簡易アイゼンを靴に装着して岬まで10分の距離を歩く。寒い。どんよりとした空、この天気では樺太など見えるはずもない。物好きな観光客の姿も他にない。写真を撮ったら早々に引き返す。

稚内駅の手前でバスを降りて海岸に向かう。ここに鉄道名所の大防波堤がある。かつてはここまで線路が延びていて、大泊(コルサコフ)までの連絡船が出ていたという。東海道新幹線の16両編成でも着けられそうな規模で、なんとも圧倒的な存在感だ。地元ではたんにドームと呼んでいるようだ。

2時間で二つのスポットを回って駅に戻る。駅隣接の海産物店で土産を買って、帰りの長旅に備えて食料と飲物も買い込む。最近はターミナルのデパ地下や駅ナカで弁当を買うことがほとんどだが、北海道の駅弁は内容が充実していて美味しい。暖房の効いた車内で雪景色を眺め、サッポロビールクラシックとくれば何も言うことはない。

稚内を出てすぐのこと、運転士が警笛を立て続けに鳴らして減速、近くに座っていた地元のおばさん二人は「ああ、また鹿かな」と平然としている。見れば列車の前を線路沿いに鹿が走っていく。横に逸れればいいのに走りやすい線路の上を行くものだから、警笛を鳴らしながらの徐行が続く。鹿にすれば迷惑な話だが、JR北海道にしても迷惑なこと。追かけっこがしばらく続き、ようやく鹿が線路を外れて正常運転に戻る。

実は鹿騒動には続編があった。今度は音威子府駅の直前、三頭が線路を横切ろうとして接触した模様。列車は停止、運転士は現場確認のため外に出る。「車両および線路の確認が済むまで絶対に外に出ないようにお願いします」と言い置き、雪の中を歩いて視認するようだ。だでさえワンマン運転、その上こんなことまであるから、運転士も大変だ。旭川帰還は20:15、帰りも6時間の旅となる。

最終日は無理をしない。帰りもピーチだから搭乗手続きは余裕をみる必要があるし、遅くなると天候も荒れる模様、早めに札幌に戻っておくに限る。青春18きっぷは空路をはさんでJR北海道とJR西日本で使えばいい。旭川から富良野線、富良野で函館本線に乗り換えて滝川に出る。そこから岩見沢を経て札幌にはお昼に到着。同じ乗り物でも今度は市電とロープウェイ、腹ごしらえをした後は、すすきのから路面電車に揺られる。ロープウエイからは札幌市街が見渡せたが、山頂に着いたら雲の中。案内板によれば北海道の名だたる山が見えるはずなんだけど。

札幌で旭川ラーメンを食べる。山頭火という有名店、塩ラーメンだけどあっさりという感じはない。油が多いのは北海道では普通なんだろうか。京都ハマムラの鶏ラーメンとか、大阪の揚子江ラーメンが好きな私にはこってりしすぎの感じ。寒い土地ではこれぐらいのものを摂取しないといかんのかなあ。

札幌駅で快速エアポートを待っていたら、隣のホームに上野行の特急カシオペアが入線してきた。2台の機関車に牽引された豪華寝台列車、東京までだと安いクラスでも30000円を超える。これから乗るピーチの数倍の料金だ。でも、暇と金があればテッちゃんとしては乗りたいのは山々だ。
 そして、新千歳空港のピーチ、関西空港のように別ターミナルではないものの、搭乗手続きはターミナルの端っこだ。往きは何も言われなかったのに、手荷物に入れていたアイゼンが引っかかった。登山用のごついものでもなく、爪なんて1cmにも満たないのにこれが危険物扱いなのか。外に出て荷物を預け直している時間もないし、買値は数百円、もう償却は済んでいるので、所有権放棄。アンパイアによってストライク・ボールの判定が違うようなものか。

往路は偏西風に乗って1時間半、定刻前に到着したが、復路はアゲンスト、1時間近く余計にかかる。佐渡島上空を通り、いったん岡山まで行ったあと、左に旋回して徳島を経て関西空港に着陸という遠回りルートのせいもあるだろう。もっとも、持ち込んだ弁当と機内で買ったビールで爆睡となったから、時間を感じる間もなく北海道の雪がウソのような大阪に到着。日本は広い。

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