空飛ぶテツ・九州編
2013/7/21

絶好調の格安航空ピーチ、テレビでも何度も取り上げられているように人気沸騰の感がある。拠点の関西空港から北海道でも九州でもハッピーピーチ料金なら片道5000円札でおつりがくる。東京までの新幹線片道料金よりも安い往復料金、頻繁に届くメールのお知らせに思わず行ってみようかなという気持ちになる。旅行の計画が先ではなく、航空券を確保してからプランを立てるという逆転現象、潜在需要の掘り起こしに成功したと言えるだろう。

さて、恒例となった青春18きっぷ、前回は北海道で雪中のテツ、今回は鹿児島に飛ぶ。目玉はテッちゃん憧れの肥薩線だ。土曜の夕方に鹿児島入り、日曜は早朝から乗りテツ三昧の予定、先ずは桜島を眺めに城山に登る。さすがに鹿児島、奈良よりもずいぶんと日没が遅い、ちょうど夕暮れで桜島が赤く染まる。これがいちばんいい時刻ではなかろうか。でも、街の真ん前に活火山があるというのは、奈良県人には、おそらく余所の人にもちょっと信じられないことだ。鹿児島県では甑島と奄美大島に行ったことはあっても、私には初めての桜島見参。いやあ、これは何とも。

繁華街、天文館界隈は賑やかである。土曜日ということもあるし、ご当地の祭「おぎおんさあ」だという。職場の近くで祇園祭の喧噪にまみれてきたばかりなのに、こちらでも祇園祭とは。京都の専売特許でもないらしい。それはいいとして、美味しい鹿児島の味覚を満喫して明日に備える。黍魚子、首折れ鯖、薩摩揚、当然に芋焼酎。

鹿児島中央駅は昔の西鹿児島駅のことか。といっても昔のことは時刻表でしか知らない私だけど、今は在来線と直交して新幹線のホームが上階にある。もちろん青春18きっぷの旅人は階下の在来線、国分行きの普通列車に乗車。今日の予定は次のとおり。穏当なスケジュールではないかな。

鹿児島中央 6:27 ~ 日豊本線 国分行 ~ 7:05 隼人
 隼人 7:06 ~ 肥薩線 吉松行 ~ 8:12 吉松
 吉松 9:06 ~ 肥薩線 人吉行 ~ 10:03 人吉
 人吉 10:08 ~ 肥薩線 (いさぶろう1号) 吉松行 ~ 11:21 吉松
 吉松 11:53 ~ 吉都線 都城行 ~ 13:20 都城
 都城 13:34 ~ 日豊本線 鹿児島中央行 ~ 15:14 鹿児島中央
 鹿児島中央 15:37 ~ 指宿枕崎線 (なのはな) 指宿行 ~ 16:38 指宿

錦江湾・桜島を右手に望み列車は北上する。隼人駅の乗り継ぎは1分、駅探サイトでは接続が案内されないが、それはソフトウエアの不備、間違いなく乗り継ぎ前提のダイヤと出発前に鹿児島中央駅でも確認、何のことはない到着ホーム向い側の乗り換えだ。ここから肥薩線、海岸線から離れ、徐々に登って行く。百年駅舎の嘉例川駅、大隅横川駅と続く。停車時間が短くて年月を経た木造駅舎を見学する余裕がないのは残念。戦時中の米軍機機銃掃射の弾痕が柱に残っているのは大隅横川駅だ。薩摩半島側の知覧から特攻機が飛び立っていた歴史と結びつく。

乗り換えの吉松駅では少し時間がある。到着ホームの反対側に黒っぽい機関車が留置されている。改札口に向かう乗客とは逆方向に機関車を観に行く。車体番号やロゴも何もなく塗りつぶされている感じ、かといって古い車両ではない。改札の駅員さん、ホームですれ違った運転士さん、都合3名のJR職員から声をかけられた。こちらをテツと見てとってのことか。

「あそこに機関車が駐めてあるでしょ。あれはななつ星の機関車なんですよ」

話には聞いていたクルーズトレイン「ななつ星in九州」、オリエントエクスプレスを彷彿とさせるJR九州の豪華列車、今年の秋から走り出すらしい。臙脂色の塗装のはずだが、今の段階では覆面の試走車のようだ。こちらが訊きもしないのに話しかけてくる職員の人たち、彼らも嬉しくてしようがないのだろう。かつての鹿児島本線、吉松機関区の誇りが滲み出るという感じだ。

さて、吉松・人吉間、肥薩線の核心部分となる山越えルート。真幸、矢岳、大畑の3つの途中駅しかない。このうち真幸駅は宮崎県になる。肥薩線というからには熊本県と鹿児島県を結ぶものだと思っていたら、少しだけ宮崎県をかすめる。それにしても、スイッチバック、ループと見所満載の路線だ。一両の気動車、乗客は他にいない。進行方向が変わる度に運転士さんの後について車両の前後に移動、これがスイッチバックの正しい乗車方法、座ってなんかいられないぞ。この肥薩線矢岳越えで望む霧島連山が日本三大車窓の一つということ。あとの二つはというと、根室本線狩勝峠越えと篠ノ井線姨捨駅なので、これで三つ全て乗車したことになる。私が通勤で毎日乗っていた近鉄奈良線額田・石切間の大阪平野夜景もその類になる。

天気は悪くないが連山は少し霞んでいる。「盆地が雲海になっていて霧島連山が頭を出しているときは素晴らしいですよ」とななつ星を教えてくれた運転士さん。このスポットで列車は暫し停止する。ループの中のスイッチバックという他にない構造の大畑駅を眼下に望むスポットでも同様、ここ肥薩線ではテツの乗車率が極めて高いということだろう。

山越えが終わり、球磨川の鉄橋を渡ると人吉だ。時間があれば街並みを眺めてみたいところだが、生憎とすぐの折り返し、吉松駅で指定券を買っていた「いさぶろう1号」に乗車する。鮮やかなレッドの車体、車両中央の大きな窓は展望用だろう。1両貸し切り状態だった往路と打って変わり、いさぶろうは3両編成で満席、乗客にはツアーの団体が多い。"鉄"分はそれほど多くはなさそう。3両の端から端まで、スイッチバックの度に何度も車内を抜けていく運転士さんは大変だ。同乗している女性客室乗務員が「スイッチバックのときに運転士さんが車内を通ります。さて、手に持っているのは何でしょうか」とかの案内をするから乗客の視線が集まり、往路で馴染みになったこの人、ちょっと照れくさそうだ。

観光列車なので往きに比べると停車時間が少し長い。と言っても5分程度なので、駅舎や展示SLを観たり、地元の物産などを買っているとあっという間に発車時間となる。列車から降りた乗客を呼び戻すのに客室乗務員も大わらわだ。なかなか忙しい観光、こちらは復路なので二度目の景色、余裕だ。

吉松駅では特急「はやとの風」に連絡している。九州新幹線で来て、新八代から肥薩線経由で鹿児島という人も多いのだろう。こちらは、吉都線で都城に向かう。霧島高原の周りをぐるっと巡るルート。吉都線はえびの高原の愛称が付けられていて、確かに山並みは見えるが絶景の連続ということはなく、少々期待はずれ。お弁当でお腹もふくれたので船を漕いでいるうちに都城。

日豊本線、鹿児島中央行きの真っ白い電車が待っている。UVカットガラスの大きな窓、木製の構造で座面・腰当・枕には革張りのクッションという座席、洒落たインテリアだ。もっともカーテンやブラインドがないので真夏の熱線はガラスを突き抜けてくるのが難点か。これも水戸岡鋭治氏の作品、ともかくJR九州には特急でなくてもワクワクさせる列車が多い。

車窓からの桜島は前日の夕方とは全く違う色、荒々しい山肌と噴煙、天候や時刻によって様々に変化する姿は、鹿児島に住む人の胸中に刻み込まれているのだろう。それだけの存在感のある火山、ここで国際火山学地球内部化学協会学術総会がちょうど開催されているというのも納得。

鹿児島中央駅のコインロッカーに入れていた荷物を取りだし、指宿枕崎線の黄色い列車に乗り込む。快速「なのはな」、途中駅では特急「指宿のたまて箱」と行き違いだ。この特急はドアが開くとシュッと煙が吹き出すらしい。幼いテッちゃんも一人前にカメラを向けている。と、後ろでポンと桜島の小噴火だ。振り返ると小さくクッキリと噴煙があがっているのが見える。あっ、あれも玉手箱か。

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