七面山のつもりが玉置山
2014/5/4

ゴールデンウィークの山歩き、高速道路が1000円という頃には遠出したものだが、そんな割引がなくなった今、行き先は県下の一般道ということになる。迷った挙げ句、大峰山系の七面山に決めた。主稜の奥駆道から西に派生した尾根上の山、南側の絶壁で知られる。

三年前の台風での大水害からまだ完全に復旧しているわけではないと思い、念のために道路の規制状況を調べる。十津川沿いの国道168号線には通行止や迂回路の表示が出ている。七面山登山口に向かう谷沿いの林道は通行止、峠越えの迂回路が示されている。となると、さらに先の七面山の山腹に取り付き登山口に至る道が心配だけど、行ってみなけれゃ判らない。

渋滞知らずで24号線から168号線と快調に走る。分水嶺を越えて十津川流域に入ると、山腹がスパッと切れ落ちた崩落跡が何か所も残っている。あの豪雨のときには生きた心地もしなかっただろう。過去の大災害のあと北海道に集団移住した歴史があるほどだから。

林道殿野篠原線というのが迂回路の名称、ひと山越して再び川筋に下りるルートだ。途中の峠のところは切り開かれてヘリポートになっている。大塔高野辻ヘリポートと称し、林道開通記念碑などもある。ここは東の大峰奥駆道、西の奥高野の山々の素晴らしい展望台だ。大峰山脈、中央に最高峰の八経ヶ岳・弥山、北は稲村ヶ岳・大日岳、南は釈迦ヶ岳の範囲の眺望、午前中のことなのでシルエットが浮かび上がり山座同定はいとも簡単だ。車の通行はほとんどないし、このビュースポットで山を眺めているのは私だけ。雄大な眺めを独り占め。

さて、林道を谷筋まで下りて七面山に向かって車を進めると、数人の山仕事の人たちが電気ノコギリを使っての作業中。
「すみません、この先、七面山のほうに登れますかね」
「あかんよ、道が壊れとるわ。このちょっと先で終わり、こっから歩いたら夜になってしまうで、絶壁を見るんやったら旭のほうに回らんと。ちょっと向こうに転回できるところがあるよって、戻ったら」
 そういうことか、想定の範囲とも言えるが、大規模崩落でなくともあちこちで道が傷んだままになっている模様だ。こうなれば歩きの短いコースに目的地変更、玉置山に登ってついでに熊野本宮詣でにする。

元来た林道の引き返しだ。往きは素通りした宮滝を見物、今日は景色を眺める日になりそう。ずっと天気がいい。二度目の展望台を楽しんだら再び168号線で南に向かう。玉置山は二度目、山頂近くの神社まで立派な車道が続く。駐車場からの眺めは西の奥高野、熊野詣での小辺路が果無山脈を越えていく。どれも1000mぐらいの高さしかないが、びっしりと連なっているのが紀伊山地、谷間の平地はわずかしかない。

広い駐車場からは玉置神社への参道が延びているが、大峰主稜線の登山道は少し脇に入口がある。散歩気分で辿れば山頂、熊野灘が見えるのか見えないのか、遠望はきくが霞んでいる。山頂に鎮座しているのが沖見地蔵なのだから、見えるはずではあるが。ここには神社側から登って来る人が多い。私は逆コースで神社側に下りる。時間があるのでゆっくりと境内を回る。ここの宿坊(参籠所と呼ぶのだが)は、社務所、台所と一体の建物で国の文化財となっている。樹齢3000年と言われる神代杉はじめ杉の巨木が集まっている。なにしろ降水量の多い場所だから。

玉置神社から参道を駐車場に向かっていると、ぽかんと上空を見上げている人たちが。何を見ているのかと、こちらも視線を上げると…あっ、逆さまに、そして二重に、こんな虹を見たことはない。これは吉兆なのか、それとも天変地異の前触れか。

さらに国道168号を南に、十津川温泉を過ぎ和歌山県に入ると川幅が突然広がり熊野本宮は近い。国道を挟んで熊野本宮の対面に世界遺産熊野本宮館という新しい公共施設ができていて、その駐車場に車を置く。二つの展示棟があり、ここで頒布している詳細な熊野参詣道マップがお値打ちだ。世界遺産効果なのか、前の大河ドラマの影響もあるのか、連休ということが一番なのだろうが、参拝の列が伸びている。

もともとは川の中州に神社があったらしい。河原の大鳥居はその名残りのよう。それにしても無茶な立地だ。こんなところに建てたら流されて当然、今の長い石段を登った場所に移るのは当たり前のことだろう。本宮というからにはもっと大規模なものかと思ったら、新宮の速玉神社とどっこいどっこいのものだ。かつて河原にあったときには破格のものだったのかも。

帰りは国道169号にする。往きは大峰山脈の西側、還りは東側ということになる。山また山、谷また谷、奈良県をぐるっと回ったことになる。この二つの国道の南半分は部分的には長いトンネルや架橋もできているのだが、災害復旧もあってか改良工事はなかなか進まない。それだけ険阻な場所が多いということでもあろう。プロペラボートには一度乗ったことがあるので、瀞峡は上から眺めるだけ、和歌山県の飛び地の関係でこのあたりに何か所もある三県境のひとつ。普通は三国岳とか三国山とか、分岐する尾根上の地点が多いのに、ここでは多くは川の真ん中だ。和歌山県の飛び地、北山村のあたりだけ平坦地が広がるが前後の道は狭く、国道169号は神経を使うドライブとなる。奈良県の下北山村まで来るとひと安心、スポーツ公園の中にある温泉施設でくつろいで連休の一日が終わる。

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