山城に始まり、山城に終わる ~ 美濃、苗木城・岩村城
2014/8/22・25

短い夏休み、松本のサイトウキネンフェスティバルのチケットが確保でき、週末に北アルプス常念岳、名古屋からレンタカーで往復することにして、あとは行き帰りの寄り道の算段だ。

中央自動車道を中津川インターで下りる。そこから下呂方面に向かう国道257号を辿ると苗木城址は近い。木曽川右岸の小さな山に築かれたのが苗木城だ。今は石垣だけが残る。麓の苗木遠山史料館に車を置いて天守への道を行く。ここの石垣にはいろいろなタイプがある。穴太衆の手になるとおぼしき不規則な野面積みがあるかと思えば、打込み接ぎとか切込み接ぎとかのものある。それぞれの造成時期が違うのだろう。

天守跡には展望台の木の櫓が作られている。整備されたのは最近のようだ。兵庫県の竹田城址が日本のマチピチュとか天空の城だとかで観光客が急増しているのに肖ろうということか、中津川市も力が入っている。私は竹田城址には二度訪れた。遺構のスケールでは竹田城址、天守からの眺めでは互角というところか。苗木遠山史料館という立派な展示があるところは中津川市の優位かな

定年まで勤めた会社で管理職になったときに渡されたのが「重職心得箇条」という小さな冊子だ。当時の会長、新井正明氏の肝いりで社内の慣わしとなっていたもの。幸之助氏没後に松下政経塾トップにも就いた大先輩、不肖の後輩としては折角の書を碌に読んだこともなかったが今も本棚の片隅にある。これを著したのが幕末の儒学者、佐藤一斎、名古屋への帰り道に立ち寄った岩村城、美濃国岩村藩の人だ。もっとも、岩村を訪れようと考えたときには念頭にはなく、帰宅してから気づくというのは不細工なことだ。

中央自動車道を飯田山本インターで下りる。恵那山トンネルを通らず三州街道、国道153号を走る。信州のこと、山の中にも蕎麦処が点在し、平谷あたりの新しく出来た店でお昼。そこからは豊田に向かう153号線と別れ、恵那方面へは418号線となる。さすがに400番台、紀伊半島を横断する425号線ほどの壮絶さはないが、対向困難な箇所が続く。257号線に合流すれば間もなく岩村、苗木城と違って天守のすぐ下まで車で登れる。

天守の眺望は四囲広闊とはいかないものの、かなりの標高であることは判る。海抜717mだそうな。以前にもらった城下町岩村のパンフレットには日本三大山城の一つとあるが、あとの二つについて記載はない。気になるので探してみたら、高取城(奈良県高取町)、備中松山城(岡山県高梁市)がそれ。高取城なら何度も行っているので納得。竹田城でも苗木城でもなく備中松山城というのが分からないが、こちらには行ったことがないので何とも言えない。

城下街に下ると岩村歴史資料館・民俗資料館などがあるが月曜日なので閉館、広場の一角にある佐藤一斎の立派な銅像と対面。岩村城は、戦国の頃の城主、遠山景任の没後に信長の叔母にあたる夫人が差配した時代があり、それが地酒の「女城主」という銘柄の由来になっている。もちろん、景観保存地区の中にある酒蔵に立ち寄る。ここにも佐藤一斎の言葉が掲げられている。「史を読む者は須らく形迹に就きて以って情実を討ね出すを要すべし」、歴史の表面に現れた事象をなぞるだけでなくそこからの洞察こそ肝要という意味だろう。それはともかく、車なので酒蔵見学での試飲はできず、純米吟醸生酒を購入。

岩村城で終わるはずがない。そもそも明智鉄道に乗ろうということから立ち寄った岩村なのだ。岩村駅前に車を置いて終点明智まで往復する。国鉄明和線を引き継いだ第三セクター鉄道、存在は知っていても用もないから乗ることもない。終点の明智は大正村とかで観光誘致に励んでいるようでも、明治村にも行ったことのない人間にとってはさして興味もない。それでもテッちゃん、ただ乗るために寄り道だ。沿線の名物を提供する食堂車が最近の売りのようだが月曜日は連結されない。関係ない、ただひたすら運転席横のお立ち台に陣取る。これはなかなか、30パーミルを越す傾斜が随所にある。

終点明智駅の構内にはC12蒸気機関車の姿が。駅員のおじさんに声をかける。
「あれは動くんですかね」
「動かすには整備に5億円ほどかかる言うてます。貧乏会社やからそんな金あるはずもないし、寄付で集めるとか言うてるが、出す人がいるんやろか。リニアからSLにとかの話もあるけどねえ」

ああ、そういうことなのか。岩村駅で行き違いした車両の塗装がそれっぽかったし、前部に"LINEAR"と表記されていたのに合点がいく。岐阜県内の中間駅が中津川市に置かれることになりそうで、美乃坂本駅付近が候補になっているらしい。恵那までは中央西線、そこから明智鉄道へ、この静態保存中のSLを走らせるという構想のよう。地元の思惑とは裏腹にベテラン鉄道員はいたって冷静だ。

着工も間近に迫っているリニア新幹線、明智鉄道おんぼろSLとの落差は甚だしい。それを売り物にということらしいが、リニアに懐疑的な私としては複雑な思い。350km/hでの走行が可能な新幹線があるのに、たかだか500km/hのために巨額の投資を行う価値があるのか。既存路線との親和性、災害時の代替性、電力消費の経済性、どれをとっても従来方式の中央新幹線を建設する方が有用だと思う。何よりも、大阪や名古屋から東京まで、地下鉄で行きたいテッちゃんがどれほどいるだろう。

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