叡山から大原へ ~ 京都一周トレイル其の参
2014/11/15

今年の京都の紅葉は、例年より少し早く、11月下旬らしい。次の三連休は大変な人出になることだろう。確かにまだこれからという色づき方、それでも錦繍の気配は充分だ。一年ぶりに京都一周トレイルの続きを歩く。前回は下山に使った比叡山ケーブル、今回は登りだ。ケーブル八瀬駅の始発が9:00というのはずいぶん遅い。登山用じゃなくて観光用だからこんなものか。ちょっとの差で乗り遅れ、30分待ちとなる。かなり気温は低くて手袋がほしいほどだ。さて、今日は大原をゴールにするか、さらにもう一つ山越えして鞍馬に出るか、時間と体力、それよりも根気次第というところ。

ケーブルカーの乗客はほとんどロープウェイに乗り継いで比叡山頂に向かう。私はここから京都一周トレイルを辿る。ケーブルの終点からは京都市街、少し行くと北の谷間に開けた大原の里が望める。その先、素直にトレースするつもりはなく、脇にそれて比叡山の最高点を踏んでからコースに合流する心づもり。今は営業をやめてしまったスキー場跡はススキの原、看板のはげたロッジの姿は侘びしい。比良山の上にもこんなスキー場跡がある。今は痕跡を探すことも難しいが愛宕山にもケーブルカーとスキー場があったらしい。往時、信州は遠かった。

比叡山頂というのは地図には三角点の表示があるけれど、山頂一帯は駐車場とガーデンミュージアムだから、物好きな山屋ぐらいしか三角点を探したりしない。駐車場の端から東に少しでも高いほうに向かって辿ると、木立のなかに大比叡848mの三角点を発見。山頂の散策路は少し下に付いているので、気づかない人も多いだろう。三角点に座って煙草を吸っていると、やっぱりやって来た。ほんとの比叡山頂を踏もうという山登りの人たち、きっと国土地理院の標石を写真に収めるだろうから、おっさんがデンと腰掛けていては迷惑、早々に退散する。

さて、そこから大失敗をやらかす。京都一周トレイルに交流するには西にいったん戻るか、東に進んで迂回するかのどちらか。でも、ルートは稜線の北側斜面を水平道で捲いている。そうなると、真っ直ぐ北に斜面を下りたらショートカットだ。藪漕ぎの準備はないけど、踏み跡こそないが樹林の下草も短いし問題なかろうと降下にかかる。山頂にいる人にしたら「あのおっさん、どこ行くんだろう」てなものだろう。

藪漕ぎとも言えないほど楽々と進み、眼下に散策路が見えたころ、灌木の枝を払った途端に跳ね返りが目に、怪我はないものの見え方がおかしくなった。あらら、やってしまった。右眼のコンタクトレンズがどこかに飛ばされたみたいだ。これは難儀、発見できたら奇跡だ。諦めが悪いおっさんは20分ぐらいは周りの落葉をゴソゴソとやっていただろうか。素直にルートを辿ればいいものを、いい歳をして短絡しようなんて気を起こすからこの始末。まあ、家に戻ればスペアレンズがあるとはいえ、今日は片眼のハイキングになる。鞍馬まで歩く気力はすっかり失せてしまった。のんびりと歩いて大原までだ。トレイルから少し離れるが三千院で打ち止めとしよう。

比叡山頂からは点在する寺院を辿り、西塔を過ぎればその先はほぼ尾根伝い、奥比叡ドライブウエイと並行する山道となる。歩行者立入禁止となっている車道沿いに紅葉が進んでいる。車道と山道が即かず離れずというのは都市近郊の山によくある構図だ。六甲然り、信貴生駒然り、最近は中高年を中心に歩く勢力が増して来ているのでハイキングコースの整備も進んでいる。高度成長期には人の歩く道がズタズタになっていたものだ。

横高山(767m)とか、水井山(794m)とか、私の知識にはないピークを辿り、仰木峠から大原の里に下る。東海自然歩道と京都一周トレイルが分かれる。前者は三千院に向かって昔からの道を下って行くが、後者は急な山道を大原の南方に下りる。時代的には東海自然歩道が先で京都一周トレイルは後発、私は東海自然歩道にコースを取るが、分岐から先は広い山道なのにあまり踏む人がない模様。京都一周トレイルのほうを辿る人のほうが多いとみえる。国が定めたものよりも京都のものを、まさに都人の真骨頂だ。

大原も三千院も初めて訪れたのだが、観光客の多いこと。次の三連休になったら大変なことになりそう。しっかり拝観料をいただく各寺院の境内の外で紅葉を眺めるだけ、おもてなしと称して余所者からふんだくるのが京都の習い、地元の人間の端くれに連なる身としては、門前にたむろしている人たちの顔が千円札に見えてくる。がっぽり稼いだお寺は税金も払わないんだろうなあ。

大原の里はのんびりした山里の風情、このあたりだけが山懐にぽっかりと開けているのは不思議だ。参拝(?)を終えてバス停に向かう頃にパラパラと雨が落ちてきた。そんな天気予報もなかったのに雨男が出かけるといつもこういうことに。空は明るいので狐の嫁入り的なもので、すぐに上がると鮮やかな虹が大原の里に架かる。

ジャンルのトップメニューに戻る
inserted by FC2 system