布引の山歩き ~ 錫杖ヶ岳
2015/4/2

三月末で二度目の定年退職となった。特別支給の老齢厚生年金がカットされない程度の仕事を探して、自由な時間をもっと作りたいものの、あまり家にいるとカミサンの迷惑になりそう。とりあえずは完全休養。

夏休みシーズンならともかく、平日に山登りというのは学生時代以来か。しばらく雨模様の天気が続くという予報のうち唯一晴天となるのがこの日。もっとも、それは桜の見頃はという文脈での予報。だが、運動不足防止のため、歩く癖をつけておかねばならない私は、朝の青空を眺めて山登りに。思い立ったらいつでも行けるというのもリタイア組のメリットかな。

前から日帰り登山の候補に挙げていた錫杖ヶ岳(676m)を目指す。錫杖岳と書けば北アルプス笠ヶ岳の南にある岩峰のことだが、こちらはそんなスケールはない。それでも同様に頂上付近は岩場のようだ。

近鉄奈良駅前までカミサンを送ったその足で、天理インター経由、名阪国道を走る。どこもかしこも満開の桜だ。伊賀上野を過ぎ、向井インターで下りる。名阪国道の山間区間はインターと広域農道が直結みたいなところが多いのだけど、ここはそれ以上、インターを下りたら林道という具合。錫杖ヶ岳方面を示す道標はあるにはあるが、登山口に続く林道の入口はとっても判りにくい。

インターの周りの農道をぐるっと回って、ようやく本来の林道に。慎重な走りでも登山口までは10分もかからない。奈良や大阪からやって来る登山者は少ないものの、三重県ではそれなりに登られている山のようだ。名阪国道を亀山方面から走って来ると目立つ鋭峰だし、平野部からでも望める山だ。登山口には20台以上は駐車可能なスペースが用意されている。頂上までの道筋には200mごとに1~9までのポスト(8は見あたらず)があり、随所にベンチなども設置されている。登山道自体も良く整備されている。手頃な日帰り登山コースということで力を入れている様子だ。

南側のダム湖のあたりから眺めると鋭峰が目立つのだが、加太向井の北側の登山道からは山頂はなかなか見えない。八合目あたりでやっとてっぺんが姿を見せる。最後の登りは露岩も多くて傾斜も強くなる。鎖とロープにつかまりながら登り切った山頂は360°のパノラマだ。明日は雨の予報だし、気温は高いものの風は強まっている。これだけ展望の良い場所だから風が抜けるのは当然のことか。北に鈴鹿の山、西に布引の山、南は度会の山、そして東は伊勢平野に伊勢湾、大した標高でもないのに眺めの良さは格別。

登山口から山頂まで休憩無しで1時間ちょっと、私が到着して間もなく、三人連れの男性が現れた。錫杖湖側から登ってきたようで途中で姿を見なかったのはそのためか。さっそくシャッター押しを頼まれる。おにぎり2個だけだった私に「ひとついかが」と桜餅を頂戴する。甘いものはほとんど口にしない私だが、山だと美味しく感じるのが不思議。

空腹を満たし一服、飽きずに景色を眺める。北側の鈴鹿山脈の南端と錫杖ヶ岳の間は名阪国道とJR関西線が通る。伊勢平野への出口にあたる亀山にはシャープの工場の広大な敷地が確認できる。西側、奈良盆地への出口の天理には同社の研究所があるから、この会社は無料高速道路である名阪国道の両端に拠点を構えていることになる。その経費節減効果も狙っての立地だろう。

我が家のテレビもアクオス、一世を風靡した世界の亀山モデルだ。その会社が今や存亡の危機、経営資源の集中が仇になったということなのだが、一方で原子力で潤っている東芝はあれだけの事故のあとも安泰、民需と官需との違いと言ってしまえばそれまで。春闘の賃上げが取り沙汰されるなか、苦境のメーカーにしてみれば恨めしいところだろう。

思うに、嘗ての春闘にはスローガンにしても労働者全体を見渡す視点があったものだが、現在は単組ですら同じ仕事をする非正規労働者のことなど眼中にもなさそうだ。折しも、ニュースでは安倍首相が官邸の花見で一句、「賃上げの 花が舞い散る 春の風」とか。その巧拙は言わないとして、これを聞いた友人のS君が続けた下の句が秀逸、「おこぼれもなく 音(値)を上げる日々」、御用学者が宣うトリクルダウンにも掛けて狂歌にしたところがお見事。とかなんかとか、山に登って世を憂うの巻。

ジャンルのトップメニューに戻る
inserted by FC2 system