平群、墓めぐり
2015/4/29

コールデンウィークが始まった。この日は何度も名前が変わっているので、「昭和の日」とはすぐに出てこない、それはそれとして、私は休みだがカミサンは飛び飛びの仕事で、一緒に出かけるということはままならない。朝起きて近鉄のハイキング情報を見ていたら「へぐり時代祭り歴史ウォーク駅長お薦めフリーハイキング」というのが目にとまる。近くだし、行ってみるかと、近鉄電車じゃなく車で平群に向かう。車を駐める場所の目算はあったが、近づくと臨時駐車場の案内看板がある。それならと、そちらに向かったら駅からかなり離れた健民運動場に誘導される。まあハイキングに来たのだし歩くのは何ともない。駅まで15分ほどの道のりだ。どうも今日のコースと重なっているらしい、先発のハイカーたちが歩いている。

改めて平群駅からスタート、ここは古い町で道路も狭いというイメージだったが、駅前は区画整理中のようす。これから時代祭りに参加するのだろう、古代衣装の子どもたちが役場前に集結している。役場から国道168号平群バイパスの道の駅までが時代行列のコースになっているようだ。

ハイキングコースは反対方向、近鉄生駒線の西側に向かう。ツボリ山古墳が最初のスポット、そしてこの日はほとんど古墳めぐりになる。民家と隣り合わせ、というか民家の中に古墳の区画があるという感じ。隣は古代人の墓というのは妙な気分だろう。いや、奈良のことだからそんなことは普通かも。いちおう鉄柵はあるが石棺は剥き出しだ。

次は藤田家住宅、重要文化財だそうだ。ボランティアガイドの人によれば、最近まで居住されていたそうだが今は別棟での暮らし、時代祭りに合わせて内部公開される大和棟の建物は保存用とのこと。確かに、生活していてもおかしくないぐらいに整っている。矢田丘陵の向う側の奈良県立民俗博物館の公園には江戸時代の民家が多数移築されているが、あちらにはもはや人の暮らしの臭いがない。

「重要文化財で生活するとなると何かと制約があって不便ですからねえ」と私。
「そうらしいです。昔の建物はとにかく寒いということですわ。勝手にいらえませんし」
「釜が五つも並んでいるのはすごいですね。むかしウチにも竈がありましたけど、釜は二つでしたわ。鴨居のあたりによう青大将が姿を見せましてね」

藤田家住宅の少し先、白山神社にも足を伸ばす。神社なのに弥勒堂があるのはヘンだと思ったら、別のお寺らしい。神仏混淆というわけではないだろうが、奈良にはよくある光景だ。

ハイキングコースはここから竜田川を渡り近鉄の線路の東側に移る。またしても墓の連続、最初は吉備内親王の墓、元明天皇(女帝)の娘にして長屋王の妃、この墓も民家に囲まれ辛うじて残っているという感じ。そして当の長屋王の墓はすぐ近くだ。こちらはそれなりの佇まい、といっても天皇稜のようにはいかない。そういえばマンションの理事長をしていたとき、他の理事から長屋王の尊称を賜ったことを思い出す。

国道168号平群バイパスに出ると道の駅はすぐそこだ。もう時代行列は終わっている時間だし、ちょうど上手い具合に丸亀製麺の店がある。ハイキングの途中でここに寄るつもりで初めからお弁当は持ってこなかったのだ。

道の駅ではたくさんの出店があって大賑わい、お腹も膨れた私は素通りして後半のコースに向かう。東側の山裾にある宮山塚古墳、またまた墓だ。でも、人が並んでいてちょっと様子が違う。その行列が出来ていた訳がわかった。一人ずつ腹ばいになって石室を覗き込んでいるからだ。中は照明が入れられているので内部の石積がよく判る。入口では高齢のボランティアガイドの人が説明を繰り返している。順次ハイカーは入れ替わるから、これはご苦労さまなこと。

「こんな古墳の中はほとんど盗掘されているらしいでんな」と、私の前の中年グループ。
「そうですな、宝物が残っていることはないですね。昔は村ぐちでいうこともあったらしいですわ」と、ガイドの方。

これは非常に微妙な説明だ。聞き流していると何ともないし、質問者に意味が通じたのかどうか。「ぐち」とはかなり古い言い回しで、浄瑠璃などにも出てくる。現在では相当の年寄りしか使わない接尾辞かと思う。これは「…ごと」ということ。つまり、「村ぐるみで盗掘をやったこともあったらしい」とおっしゃっているわけだ。いつの頃に、どの場所でという詮索は無用だろう。いずれにせよ共同体の外に出る話ではない。奈良を舞台にした松本清張の「火の路」には盗掘者と美術商の怪しい関係が仄めかされているが、所行はアウトローたちに限ったものではなかったということか。

宮山塚古墳から椿井城跡へ登る道がある。この山城の遺構は現在調査中で、来歴などは詳らかでないようだ。山登りの予定はなかったので次に向かう。再び竜田川を渡り西側の烏土塚古墳、こちらも今日のイベントに合わせて特別開帳、墳丘の上からの眺めがいい。ボランティアガイドの人によれば、大峰山脈の弥山もここから望めるとのこと。やっぱりそうか、南のほうの山並みはそうだろうなと思っていた。

最後のスポットも墓、大和盆地はどこでもそうだけど、こんなに古墳が多いとは。西宮古墳は平群中央公園の中にある。隣には大きな滑り台があり子どもが遊び回っているのに、石室は剥き出しのまま。中には石棺が無造作に置かれている。何とも鷹揚なこと。これは格好の秘密基地だし、石棺に入ってゾンビごっことかきっとやりそうだ。いや、自分がそう発想するだけで、今どきの子どもは昔と違って行儀がいいんだろう。そういえば、子どものころ墓で遊んでいて転び、何針か縫ってもらったことがあったなあ。

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