景色が違った三峰山
2015/8/16

しばらく山登りもしていないし、お盆の休みももう終わりだし、ちょっと出かけてみようかと行先を検討。暑いなかそんなに歩かずに涼しそうな場所はと、思いついたのが大峰山脈の前鬼不動七重の滝。ところが、高校野球中継の合間に何気なくデータ放送を見ていたら…

14日正午すぎ、下北山村前鬼で一人で山に登っていた大阪・堺市の69歳の男性が登山道で突然、熊に襲われました。男性は顔や肩などに数か所のひっかき傷を負いましたが、けがの程度は軽いということです。警察によりますと、男性を襲った熊は体長1m20cmほどで、男性を襲ったあと、再び森の中へ戻ったということです。男性は山の中腹のあたりで熊に襲われ、その後、自力で下山して大阪の自宅に戻り、警察に通報したということです。警察や下北山村では、山に入る登山者に熊に注意するよう呼びかけています。(NHK NEWS Web 奈良放送局 8月14日 20時48分)

おっと、これはドンピシャじゃないか、詳らかでないが前鬼周辺をうろついていることには違いない。さすがにそこに行くとは言いかねて、別の不動滝に行くことにした。こちらは御杖村の三峰山(みうねやま)の麓にある滝だ。

三峰山には二度行ったことがある。高校時代のことだから40年以上も前のこと、ずいぶん変わっているだろう。不動滝の手前にある青少年旅行村なんて影も形もなかった頃だし、三峰山も一部の山好き以外には知られていなかった。今は高見山とならんで近鉄が霧氷観光の登山バスを走らせているぐらいだ。さて、山のうえはどうなっているだろう。

不動滝の近くの登山口 不動滝の手前の沢筋

国道369号、旧伊勢本街道を離れ神末集落を抜けると青少年旅行村の入口となる。ゲートがあってガードマンのおじさんが「予約はありますか」と尋ねる。駐車スペースの割り振りの関係らしい。「いや、山登りなんです」と答えると、「それならゲートの向こうの左手の道を進んで」と言う。青少年旅行村で車を駐めてという情報が多いが、実は不動滝のそばまで車は入れる。なかなか好感が持てるガードマンだ。狭い谷筋の道をしばらく走り、登山口のトイレの横に駐車して登り出す。ここまで車で入っている登山者は他にいないようだ。これで往復1時間あまりの林道歩きが省略できる。

不動滝の正面 不動滝の側面

前鬼の不動七重の滝ほどのスケールではないにせよ、こちらの不動滝もなかなか立派な滝だ。夏はやはり沢筋に限る。天気予報では下り坂で、歩き出すと例によってポツポツと顔に雨粒が当たる。雷の来そうな雨ではないし、樹林帯の登りだし、ひどく崩れてきたらそのときに考えればいいやと気楽なものだ。

不動滝を過ぎると尾根筋に向かってぐんぐん登っていく。かなりの急傾斜だが山仕事でも使われている道のようで、ルートの取り方や足場の固め方など、しっかりした山道になっている。歩き始めて1時間あまり、尾根筋の道に合流するところに山小屋が見えてきた。

この山小屋には泊まったことがある。以前は山仕事用の掘っ建て小屋だったが、頑丈なものに建て替えられている。たぶん場所は同じだと思うが、周りの眺めが全く違う。あの頃は東側の学能堂山から三峰山に突き上げる尾根がすっかり見えていたはず。というのも伐採されていた斜面には杉や檜が育っているからだ。40年経てば眺めは変わる。東側、神末集落側の斜面は植林、西側の斜面は橅などの原生林でこの尾根が境、したがって小屋の両側の斜面の植生が全く異なる。

おにぎりを頬張ってしばらく休憩しているうち、登る人が一人、下る人が二人。下りてきたのは山ガールの二人連れ、この時期にこんな地味系の山に登るとは、それなりの経験者と見える。身のこなしも軽やかだ。と、小屋のそばの大木に取り付いた。ちょうどいい具合に枝分かれしていて、どうぞ登ってくださいという立ち姿だもの。しかし、ごく自然にこういう行動に出るのが微笑ましい。とても気持ち良さそうな樹上の美女二人。

「写真撮っていいですか」とオヤジは厚かましく声を掛ける。こちらも自然にそんな言葉が出る。挙げ句の果てにメールアドレスまで聞いて写真送付の約束まで。肖像権の問題があるので公開できないのが残念、なので木立のみの写真を掲載。

尾根筋の山小屋 山小屋の前の大木 もうすぐ頂上、道ばたの大日如来 緩やかな山頂への道

山小屋からは緩やかな登りを30分ほどで山頂に到達、登り初めからは2時間ほど。ここも、昔の印象とは大きく異なる。国土地理院が測量の際に建てた木製の櫓があって、そこに登って四囲の山を眺めた記憶があったのに、そんなものはもはや存在しない。今は航空測量の時代だから、一等三角点の山頂に仮設の櫓を建てて、なんてことはないのだろう。山頂には北東方向の展望案内板があるのみ。二重稜線のようになっている山頂部はずいぶん広かったはずなのに、灌木が伸びて広闊な眺めという感じでもない。

八丁平への分岐 三峰山の山頂 三峰山山頂付近の地形図

山頂から少し下った八丁平に足を踏み入れてやっと広い山頂の記憶が蘇る。ここは気持ちのいい場所だ。奥秩父の雁坂峠と雰囲気がよく似ている。短い草が生えた山頂の平原、天気が良くなくて霧が流れる尾根筋は1200mそこそこの山とは思えないほど。

山頂直下の八丁平
三峰山山頂と八丁平 (ダブルクリックすると拡大しスクロール、クリックでもとに戻る)
八丁平の草原
八丁平の草原 (ダブルクリックすると拡大しスクロール、クリックでもとに戻る)

下りは山小屋のところから尾根筋の道を辿る。不動滝の登山口からこの尾根に向かって林道が続いていたので、きっと周回が可能だろう。その林道の終点と出合う直前、尾根筋に忽然とログハウスが現れる。「あれっ、また山小屋か」と近づくと地元の森林組合が建てた三畝山林展望台だ。展望台と言うには立派すぎる。御杖村の木材をPRするためのショールーム的な意味合いもあるようだ。中に入ると木の香りに満ちているし、2階からの曽爾火山群の眺めもいい。なるほどね、こういう宣伝の仕方もあるか。

森林組合の展望台 展望台の内部にあったPRポスター 展望台から望む曽爾火山群

山登りのあとは、定番の温泉。御杖村の道の駅に併設された姫石の湯は二度目かな。さっぱりしたあと、一路わが家にとはならず、例によって寄り道。御杖村は奈良県の東の端、桜で名高い三多気からはもう三重県、5kmほどで伊勢奥津に至る。ここはJR名松線の終着駅。いったいどんなふうになっているんだろうと、てっちゃんの血が騒ぐ。と言うのも、名松線は災害復旧がされず未だバス代行運転が続き、廃線の危機に瀕しているからだ。松阪から名張に延びるどころか、乗らないうちに消えてしまう路線になるなら、まだ線路があるあいだに見ておこうということ。

伊勢奥津駅の外観 伊勢奥津駅の線路終端 伊勢奥津駅のホーム

意外に立派な駅舎だ。物産店や観光案内所も併設されている。ただ駅舎の裏のホームにはもはや廃線の雰囲気が漂っている。災害ばかりではなく、過去には留置した車両が勝手に走り出すということが二度もあったお騒がせ路線、一度は全線乗車したかったが、果たして復活の日は来るのだろうか。

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