知らなかったぞ「関の山」 ~ 宿場町探訪
2002/9/22

カミサンが何かで見た関宿に行ってみたいという。「どこや、それ」と聞いてもはっきりしない。「関だったら岐阜県やけど…」と尋ねると、「そんな遠いとこじゃない」と言う。こんなとき、今はネットという便利なものがある。「ここかいな」と名阪国道沿いの関宿を発見。なあんだ、関西線の関駅のことか。

それで早速、シルバーウィークに出かけることになった。この辺だと、4月に錫杖ヶ岳に登ったばかりだ。でも、宿場町には足を踏み入れていない。名阪国道で伊賀から伊勢に入ったらすぐ、2時間もあれば到着する。今は行政区だと亀山市になっている。

先ずはJR関駅に隣接する道の駅で情報収集、亀山市内の旧宿場ごとに立派なパンフレットが用意されている。案内によれば、旧東海道の宿場町関は丘陵の上に細長く延びている。観光用の駐車場もあるようだ。道の駅の入口で売っていた味噌カツ巻きを買って、軽く腹ごしらえして宿場町を目指す。なるほど、ここは奇天烈な食べものの名古屋文化圏だ。亀山ラーメンという見慣れぬメニューもある。これは帰りに食べてみることにしよう。

駐車場から街道に入ったところが、地蔵院という立派なお寺だ。その向かいには会津屋という昔の旅籠、いまは食事処になっている。この付近が東西約2kmに連なる古い建物群のほぼ中央に当たる。

会津屋は素通りして隣の鍛冶屋を覗く。ここのおばあちゃんが話し好きで色々と説明してくれる。店内にある古い鞴(ふいご)を触らせてもらった。童謡に出てくる鞴とはこういうものだったか。あの頃でさえ見たこともなかったものが、こんなところに、まだ現役で使えるものとして存在するのは驚きだ。店先には包丁がいくつか並んでいて、堺育ちのカミサンに言わせれば「安い!」とのことだったが、さしあたって間に合っているので手ぶらで店を出る。

少し東に進むと、開けっ放しの古い建物があり、「旅人宿」との幕が掛かっている。折しも、一人のライダーが出発のようで宿の人が見送りしているところ。1泊素泊まり寝袋持参(相部屋)が2500円というから山小屋のようなものか。いや、北アルプスの山小屋より安いし、快適そうだ。ライダー御用達なのか、あるいは最近増えている欧米からのバックパッカーが利用するのかも。

建物の間口だけではなく、ちょっと視線を上げると、軒先の漆喰彫刻や細工瓦に目が止まる。 馬籠、妻籠、南木曽など木曾海道沿いの宿場街は観光客で溢れ、繁華街を歩いているような気になるが、ここはその点のんびりしたものだ。ただ、ああいうのを地元が目指しているのだとすると、それはどんなものだろうか。観光に力を入れたいのはわかるけれど。

関宿旅籠玉屋歴史資料館という建物があり、ここもむかし旅籠だったところ。奥の蔵には歌川広重の浮世絵がある。東海道五十三次の「関」があるのかと思ったら「赤坂」だった。赤坂は愛知県、三重県の隣ではある。
 古い道具などが展示されているのは、どこの民俗資料館も同じだが、興味深いのは関の街並みを超横長に写真を繋いで展示していること。しかもその遷移を時系列に並べている。これを見ると、関宿がいったんは昔の面影を無くし、殺風景な街になってしまったものを、順次古い外観に移行(復元)していったことが判る。住んでいる人、商売をしている人さまざま、何某かの補助金はあったにせよ、コンセンサスには時間がかかったことが想像できる。

資料館の中に祭の山車のミニチュアが展示されている。説明を読んで驚いた。「宿場町を貫く狭い街道と祭の人出を考えたとき、山車をこれ以上大きくするとことが出来ない」といったことが書かれている。そこから「関の山」という言葉となったとしている。
 そうなのか、関宿がその語源だったのか。知らなかった。亀山市に隣接する津市には同じく慣用句の語源となった阿漕の浦があるが、誰でも知っている言い回しに地名を残すのは、おかげ詣りで賑わった伊勢國ならではのことかも。

ところが、「関の山」には別の説もあるらしい。関宿が由来であることは同じだが、「関宿の祭の山車は、これ以上豪華な山車は出来ないほど立派なものだったこと」によるとするものだ。
 はて、これはどういうことだろう。 地元の謂いでは前者だが、真偽のほどは不明だ。ただ、語源はともかく、現在の用法ではネガティブなニュアンスになっているので、地元の人はさぞ悔しいことだろう。「阿漕」は言わずもがなだし。

帰りは名阪国道ではなく国道1号で鈴鹿峠を越える。峠の手前にあるのが坂下宿。関宿は東海道五十三次の47番目の宿、坂下宿はその次なので48番目だ。ここは小さな集落で、宿場町を偲ばせるものはほとんどない。しかし、鈴鹿峠自然の家は一見の価値がある。旧坂下尋常高等小学校とのことで、何とも言えない昭和レトロの雰囲気が漂う。人の姿もない校庭から校舎を眺めていると、子供の頃にタイムスリップするような錯覚に襲われる。遠い昔もあるし、近い昔もある。

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