二十渉を歩いて温泉へ
2016/8/18

翌週に北アルプスに行くので、ちょっと足慣らしに出かけよう。条件はいくつかある。5日後の山歩きに疲れや痛みを持ち越さないこと、今度の北アルプスの1日の行程と同じ程度の5〜6時間ほどであること、暑い時期なので沢沿いの道で帰りに汗を流せることだ。これらを満たすように決めた先は六甲山系の石楠花山、布引渓谷からトウェンティクロスを経て辿り着く。下山後はちょっと電車に乗って有馬温泉というコース。

北海道から九州まで広がった新幹線網、だが新幹線の駅が登山口というのは新神戸駅ぐらいだろう。駅の構内を出たら車道ではない登山道がいきなり始まるのは全国でここだけだと思う。新幹線駅構内の案内板には地下鉄への乗換案内に並んで「布引の滝」がピクトグラムを添えて表示されている。
 六甲トンネルの西口に作られた新神戸駅は布引渓谷の入口でもある。駅の裏手に抜けると急な坂道を10分で雌滝、さらに5分で雄滝、めんたき、おんたきと読むのが関西ふう。雌滝、雄滝ともなかなかの姿で、奥の雄滝のほうが落差があり、滝壺も大きい。神戸の街に迫る六甲山系、その大きな段差はこんな滝を生む。全ての「のぞみ」や「みずほ」が停車する駅の裏に立派な滝があるというのは何ともユニーク。というか、ここしか駅を設ける場所がなかったのだろう。


滝の上流には布引貯水池、平日には土砂の除去工事をしているようで、展望台から迂回の車道歩きとなる。ここは神戸の水源地なのでメンテナンスが欠かせないのだろう。
 布引貯水池の北が市ヶ原というところ。過去に水害で多くの死者が出た。遠い昔にこのコースを歩いた、その後のことだ。今はハイキング客を目当てにした茶店があるだけで、あまり人の住む気配はない。神戸ハーブ園までのロープウェイも昔はなかったものだ。そりゃそうだ、その頃は山陽新幹線すらなかったもの。

市ヶ原から上流の生田川はトウェンティクロスと呼ばれる谷間の道となる。滝のあった谷の入口と比べるとずっと傾斜は緩やかになり谷筋も広くなる。六甲山には中腹にこういう場所が多い。ここに降った大雨が一気に狭い平野を駆け下るので鉄砲水が頻発する。その名残で線路が下を潜る天井川となる。
 むかし歩いたときはその名のとおり川筋を何度も右岸左岸に渡ったと思うが、今はその数は20もない。せいぜい5〜6というところか。つまり流れの途中に砂防の堰堤がいくつも造られたからだ。竣工年月をみても相当に新しいものがある。もはや名ばかりのトウェンティクロス、街も変われば、山の姿も変わる。

今日のお昼は新神戸駅で買った「六甲山縦走弁当」。前に一度食べて、そのコストパフォーマンスノ良さに痛く感動した駅弁。おかずがいっぱいで620円。沢筋を離れた最後の登りのための腹ごしらえとなる。

ここからは暑さに耐えて1時間の登り。ラッシュの前に大阪市内通過を果たしたからまだ昼前だけど、汗がどっと噴き出す。ここは北アルプスとは違う。稜線に出ると涼風という訳にはいかない六甲山だ。

石楠花山の頂上の手前には立派な展望台がある。霞んでいるがいちおう淡路島まで望める。その先、天狗岩へという小さな道標があったので、そちらの踏み跡を辿ってみる。花崗岩の露岩の上に立つとここからは西神方面の眺望が広がる。ちょっとルートから外れるので、寄り道する人は少ないようだ。山道というより獣道程度の踏み跡からもそれが判る。

そのあと、四駆なら走れそうな広い道を下ってしまったので三角点は踏まずじまいとなる。のっぺりした山頂部のどこかにあったんだろう。まあ、天狗岩に行ったし、それで十分。
 石楠花山からの下山は北へ向かう。炭ヶ谷という谷筋の道を降りて神戸電鉄の谷上駅か花谷駅がゴールとなる。神戸の街の側と比べると裏六甲の道は概して悪い。この炭ヶ谷の下りも狭い沢のなかを歩く箇所が100m以上続く。両側が崩れて大雨のときは危険かも知れない。途中、石を積んだ炭焼釜の跡が道ばたにある。その名のとおりなのか。昔はあたりのクヌギなどで炭を焼いていたんだろう。

阪神高速北神戸線の陸橋を潜るすぐに住宅地の端になる。表も裏も一緒、山中から前触れもなしに住宅地になるのは六甲山では普通、住宅地のなかを全山縦走路が走っているぐらいだから。そりゃあ、イノシシも住宅地をうろつくことになる。こんなニュースが最近流れた。岡本ということだから前に見かけたヤツかも知れない(2012/5/27記事)。

住宅街〝強盗犯〟はイノシシ…女性の尻かみ、食料品の買い物袋引っかけ逃走
 神戸市の住宅街で4日夜、イノシシが通行人の荷物を奪って逃走する“強盗事件”が発生した。4日午後9時ごろ、神戸市東灘区岡本の交差点で、帰宅途中の会社員の女性(53)が交差点を曲がろうとしたときにイノシシとはち合わせた。女性は逃げようとしたが、背後からイノシシに突進されて転倒。右臀部をかまれ、軽傷を負った。イノシシは女性が持っていたタケノコやピーマン、飲み物などが入った買い物袋を鼻に引っかけて逃げたという。現場は阪急神戸線の岡本駅から西へ徒歩約5分の住宅街。兵庫県警東灘署によると、イノシシは一頭で成獣とみられる。現場周辺でイノシシの目撃情報が寄せられることはあったが、人を襲う被害の発生は珍しいといい、同署では「イノシシに出くわしたら、慌てて逃げるのではなく、そっと離れてほしい」と呼びかけている。(産経WEST 2016.8.5)

谷上駅と花山駅、どちらも同じぐらいの距離なので、有馬温泉に近い花山駅にする。駅のホームから石楠花山がよく見える。もし、ゴールを谷上駅にしたら新神戸から地下鉄(正確には北神急行電鉄)の隣の駅まで歩いたことになる。すなわち長いトンネルの上の山越え。バブルの頃、谷上とか名谷とか、六甲山の裏側にマイホームを購入した人たちが自嘲気味に「うちは六甲の日本海側」と言っていたことを思い出す。
 仕上げは有馬温泉の公衆浴場、金の湯、赤茶色の湯に浸かってさっぱりした後クルマじゃないメリット、冷たいビールだ。有馬温泉からは梅田行き特急バス、中国自動車道は渋滞だけど関係ない、涼しい社内で心地よく居眠り。さあ、次は二年ぶりに北アルプスだ。

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