ピーチで宮崎、南から北まで
2016/10/20-21

高千穂に行ってみたいとカミサンが前に言っていた。テレビの旅番組か何かで見たのかな。私は一度訪れているけど、ちょうどピーチの1000円セールもあったので速攻で予約した。2日間あれば高千穂以外も回れるだろう。前の鹿児島行きと同じパターンだが、今回は早朝便ではない。というか、関空〜宮崎便は夕方の一便だけなのだ。

翌日は宮崎駅前の宿を早くに出る。日南海岸まで南下し、それから高千穂まで北上するというプランにした。まず、青島。ここが新婚旅行のメッカだったのはずいぶん昔のことだ。高度成長期には目的地はハワイやグァムになったから、たぶん往時の賑わいはなくなっているのだろう。宮崎が話題になるのはプロ野球のキャンプぐらいか、折しも道筋の球場では秋のフェニックスリーグが開催されている。

青島には早く着きすぎたようだ。観光客がまばらなのはいいのだけど、青島にしても堀切峠にしても、鬼の洗濯板はほとんどが満ち潮の下だ。そうか、海岸の名所には適当なタイミングというものがあるんだ。厳島神社もそうだった。まあ、いいか。

さらに南へ、日南海岸の鵜戸神社を目指す。ここも青島神社同様に海の側だ。それどころか、海岸の窟の中に本殿がある。参道は海に向かって下る。自然のものか人工のものか、これは奇景と言ってもいい。

この先、さらに南に行くと本当の宮崎県の端っこ都井岬になる。野生馬も観たいところだが、そこまで行ってしまうと高千穂に着く頃には日が暮れる。方向を転じて北に向かう。海岸線を戻るのではなくて内陸を通る。途中の飫肥では城跡と見事な飫肥杉を眺める。本丸の跡には小学校が建っている。家の近くの郡山城みたいな感じだ。もっとも、あちらは高校だけど。

東九州自動車道が全通して宮崎県の南北交通はずいぶん便利になったはずだ。これがなかったら、一日のうちに日南海岸と高千穂を回るなんてことは難しかったに違いない。田野インターから入って日向インターでいったん下りる。ここの海岸線のビューポイントに立ち寄るのが目的だ。

「馬ヶ背」と「クルスの海」というスポットが隣接している。前者は、深く切れ込んだ入り江で両側は柱状節理の断崖。後者は、まるで十字架のような形の海。馬ヶ背の入り江を見下ろしていると、楔状の湾の奥へ寄せていく波の高さがだんだんと増して行くのがよく解る。5年前、毎日のようにテレビで見た映像がよぎる。
 午前中は他の観光客より一足早く回っていたが、この頃になると遂にグチャグチャ状態となる。観光バスも到着し周りでは中国語が飛び交うようになる。ここは宮崎なんだけど。

前に高千穂を訪れたときは熊本から往復した。なので、延岡から山に入るのは初めてだ。途中の北方インターの先の蔵田まで自動車道が伸びているし、それに続く国道218号もカーブが緩やかになっているので車のスピードはさほど落ちない。国道は五ヶ瀬川の谷筋からずいぶん高いところに付いていて、対岸に渡る場所には高いアーチ橋が架かっている。川筋の鉄道は廃線になって久しいし、豪雨災害を避けようと思えばこういうルートにするしかないのだろう。

高千穂に着いたのが4時を回った頃、神社にお詣りしようかと思ったら、先に高千穂峡に行くとカミサンが言う。そして、それが正解。貸しボートの最終が4時半だった。ここは二度目、もうボートの数は少ないとはいえ、狭い淵を進むと何度も崖やよそのボートとぶつかる。そりゃそうだ、進行方向に背を向けているんだし。

ずいぶんたくさん回って宿に到着、しかしそれで終わりじゃない。地元食材がふんだんに並んだ食事のときのお酒は控えめに、この季節に毎晩高千穂神社で開催される夜神楽に出かける。本来の夜神楽は、地元集落で順繰りに開かれる夜通しのものらしい。高千穂神社の神楽殿、初穂料700円で観るのは観光用の抜粋とのこと。約1時間で4本、全部やると33本というから、確かに終夜のイベントになるだろう。抜粋版は誰でも知っている天岩戸の名場面集といったところだ。一帯の宿から集まる観光客は約200人ほどいただろう。外国の人の姿も散見される。

これは高千穂町の貴重な観光資源であることに間違いない。昼間に峡谷を散策し、夜に神楽ということ。今夜の入場料収入は単純計算で15万円、週末や連休のときには神楽殿が立錐の余地がなくなるほどで、ときには2回興業もあるらしい。そうなると、収入は倍以上、グッズ販売も入れると、もっとか。演じる地元の人にしても、いいアルバイト収入だろう。と、ついそういうことを考えてしまう。

さて、2日目。今度は朝飯前の散歩だ。6時に車を出す。宿の前の道を山の上まで登ると、そこが国見ヶ丘。秋から冬にかけて高千穂の里が雲海に沈む眺めが得られるという。竹田城趾と同じような地勢と自然条件だからそうなるのだろう。この朝は一面の雲海とはいかず、里にうっすらと雲が浮いているだけだったが、それでも絵になる光景だ。高千穂とは反対側、そちらはもう阿蘇山になる。熊本の地震、先だっての噴火、きっとここにも影響が出たことだろう。今回はいわゆる「九州ふっこう割」は使えなかったが、立派な対象エリアになっている。ニニギノミコト像が建つ場所は地震の影響もあって立入禁止になっている。

朝食後の天気は下り坂のもよう。峡谷の散策は早いほうがいい。駐車場に車を置いて歩き出したら雨が落ちてきた。ひどくはならないようだが、出かけると雨という雨男の神通力には我ながら恐れ入る。この高千穂峡も遊歩道は途中が通行禁止となっていて迂回を余儀なくされる。でも、いちおう見どころの箇所には到達できる。それにしても、本当に狭くて深い谷だ。昨日ボートを漕いだのは真名井の滝のところ、上から見下ろすとだいぶ違った雰囲気だ。というか、この滝は枝沢から落ちているのではなく上は池になっている。鯉やチョウザメまでいるぞ。その池の上はというと、こちらは崖の真ん中から湧き出す地下水脈だ。なるほど、こんな風になっていたのか。

ここで、土産物を物色するカミサンを残して車を取りに戻る。川沿いの遊歩道に周遊路はないのだ。宿の食事に出た油味噌が気に入ったらしく、天岩戸神社に向かう道すがら、あちこちの店でおいしい油味噌を探す。値段、味、どれでも同じということはないらしい。

今回はカミサンの行きたいところにお連れするという趣旨だったが、旅行の最後にテツの虫が出てきた。帰り道に日之影温泉駅を回っていくことにした。高千穂高原鉄道時代の高千穂駅は車両が一両留置されているのは前と同じだが、今はスーパーカートなるものが運行されているらしい。あまてらす鉄道という運営会社で、高千穂駅構内へも環境整備費100円の入場料を取るようになっている。各地からテッちゃんが集まるのだろう。往復5.1kmのトロッコ列車というから、それなりに乗り堪えがあるかも。でも今回はパス。

国道218号を離れて五ヶ瀬川沿いの県道237号に下る。この道も、高千穂高原鉄道も河岸を走っている。第3セクターの高千穂高原鉄道より、国鉄日之影線という名前のほうが、鉄爺に近い私には馴染みがある。高千穂まで延伸された鉄道が廃止に至ったのは十年ほど前の水害による橋梁の流失がきっかけだと記憶している。その後、復旧を断念して廃線となったわけだ。
 同じような経過を辿りながら、今年復活した名松線とは対照的だ。川の流れを遡り分水嶺を越えて向こう側に繋ぐという当初の構想も同じだ。前回高千穂を訪れたときは阿蘇カルデラの高森から峠を越えたのだが、途中には焼酎倉庫になっているトンネルとか未成線の名残が残っていた。二つのローカル線、鉄道復活に向けて県や地元自治体の支援がどれほどあったかで運命が分かれたのだろうか。
 そんなことを思いながら、日之影温泉駅のなかをうろつく。駅舎には昔の時刻表がある。1時間に一本程度走っていたのか。もっと少ないと思っていた。ホームに留置された車両は宿泊施設に転用されている。でも、途切れた線路はわびしい。この宿泊施設、「列車の宿」として営業しているようだ。

そろそろ宮崎空港へ向けて車を走らせようと思っていると、列車の宿のほうから呼び止められる。ここの責任者の人だろうか、パンフレットを差し出される。こちらをテツと認めて、持って帰ってPRをということかな。「水害があったのは、ここの上ですか、下ですか」と聞くと、そこから話が止まらなくなる。

日之影温泉駅から上流、高千穂までの区間は被害がなく、日之影と延岡の間が壊滅的な状態になったようだ。復旧を望む声はあったものの地元が一つにまとまることはなかったらしい。そういえば、前日に夜神楽の送迎をしてくれた宿の主人に高千穂高原鉄道について尋ねても、どこか言葉を濁すような雰囲気があった。どうも余所者には話すのが憚れる複雑な事情があるようだ。

カーナビは五ヶ瀬川からかなり高度がある国道に戻るよう促すが、委細構わず河岸の道を下って行く。すると、あれは何だ。ダムに堰き止められて川幅が広くなった対岸に紛れもなく鉄道遺構が残っている。鉄橋とコンクリート橋の合体、けっこう長い。思わず車を駐める。廃線マニアのようなテッちゃんの姿も見える。

もともと予定していたコースじゃないので下調べもしていない。何という名の橋梁かも判らず。それではと、家に戻って国土地理院のサイトで地形図を調べても該当する建造物はない。これはおかしい。これならどうだと、Google Earthに切り替える。航空写真だから当然映っている。そうなんだ、国土地理院の地形図には廃線は基本的に記載されないのか。余計なものを載せても、ややこしいだけという考え方なんだろうか。
 二つのサイトを見比べてみると、いずれも最近の進化には驚く。国土地理院の地図は多様な主題図をオーバーレイさせることも出来るし、過去の地形図だって見ることが出来る。一方のGoogle Earthの優れものは3D表示かな。この臨場感はほんとに凄い。

カミサンには悪いが、旅行の最後に鉄道趣味でひとり盛り上がってしまったような。でも行きたがっていた高千穂にお連れしたから許してもらおう。
 ところで、この高千穂エリア、旅行ガイドでは熊本からのアクセスとして取り上げられることが多いようだ。距離的にも宮崎空港よりも熊本空港のほうが近い。もう宮崎県には拘泥せず、件の未成線を南阿蘇鉄道高森線に繋いだら、熊本発の素晴らしい山岳鉄道が出来あがると思うのだけど、金のかかることでもあるし、どれだけの観光需要を喚起できるかも未知数か。しかし、テッちゃんの夢想は膨らむ。

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