丹波の鬼めぐり 〜 大江山から鬼ヶ城
2016/11/12

夏に3泊4日で北アルプスの縦走をして、まだまだ歩けそうだと気を良くし、戻ってから山道具をいろいろと買い換えた。オンボロの格好でも行けなくはないが、いまどきの装備は驚くほど高性能で軽量だ。これも体力のない中高年や女性を主に想定したものだろうけど、ありがたくその恩恵に与ることにする。しかし、買ったままでは何となく落ち着かない。とにかく使ってみなければ。それで出かけたのは、京都の北部、仕事で何度も出かけた福知山の北に聳える大江山。ここは鬼の頭目、酒呑童子の山である。

いつものように早朝に自宅を出発、大山崎インターから京都縦貫道に入る。京都市街を通らずに北部に到達できるのは便利だ。老ノ坂を越えると、あらら霧の中、この季節の盆地特有の気候だ。丹波インターで降り、三角形の2辺を通る高速を避けて国道9号、福知山からは先は176号となるが、きっと夜間にはねられたのだろう、狸に鹿、途中の路上に3体も転がっていた。この季節、餌を求めて里に下りてきているということか。進行方向にカラスの大群が見えたら要注意だ。屍肉に蝟集する嗅覚は凄いものがある。

登山口は与謝峠を越えた加悦双峰公園、ここから登る。まだ8時過ぎ、朝日を浴びた大江山まで1時間ぐらいのものだろう。歩き出すと、いきなり熊出没の看板、歩行中はラジオや鈴で音を出すようにとの注意書きだ。今年は熊のニュースが多い。これに備えて鈴も買った。ところが、リュックにぶら下げて歩いても、ちっとも音がしないではないか。これでは役に立たない。身についた重心移動のない歩き方が仇になっている。それならと、装着場所をストックに変更、すると、当たり前のこと、景気よく鳴り出した。鈴など付けたことのない登山者は、このざまだ。

加悦双峰公園の"双峰"ってなんだろう。普通に考えれば、大江山と赤石ヶ岳の鞍部北側に位置するので、その二つの山のことを言っているのだろうと勝手に解釈、それ以外に思いつかない。ここから眺める大江山はどっしりとした山容、一方の赤石ヶ岳は鈍角の三角形だ。この稜線は丹波と丹後を分けている。丹後側の麓、加悦の町は丹後ちりめんで名高いところ。

この与謝野町からの登りルートを使って登山マラソンなんてイベントも開催されているらしい。それも十分可能な幅が広くて歩きやすい道だ。丹後側は晴れているが、丹波のほうの山並みはまだ雲海に浮かんでいる。この調子なら、さほど離れていない竹田城趾は天空の城になっていることだろう。陽が高くなれば雲は消えていく。

麓の案内図には大江山まで40分という表示があったが、それはないだろう。一気呵成に息せき切って登れば行けるとは思うが、普通の山歩きのペースだと1時間は優にかかる。慌てることもない時刻、山頂に着いたらまだ10時にもなっていない。天気予報どおり、小春日和の週末、日本海からの風もなく草原のてっぺんは気持ちがいい。先客は4人のグループ、彼らが先に出ると、後から半袖短パンのオジサンが登ってきた。ひと月もすれば冠雪となる時期、気象条件は日によって目まぐるしく変わる。北西の季節風が吹いたら震え上がるところだ。

尾根伝いに引き返し、赤石ヶ岳にも登ってみる。当てにならないコースタイムだけど、たぶん1時間程度だろう。大江山(千丈ヶ嶽)より100mほど低い。赤石の由来は急傾斜のあたりから上が露岩が多くなっているからだろう。この岩は逆層になっていて歩きづらい。そして、頂上近しと思ってからが長い。傾斜は緩やかになるが登ってもまだ先がある。ようよう辿り着いたてっぺんには誰もいない。大江山に登ってそれでよしとする人がほとんどなんだろう。

今回の山登り、当初の腹づもりでは二山のあと、時間もあるだろうから、車で移動し福知山市街の北にある鬼ヶ城にも登るというものだった。大江山は酒呑童子、その家来の茨木童子の根城が鬼ヶ城らしい。つまり、丹波の鬼めぐりを企てたということだ。
 鬼ヶ城には北東側の観音寺から登山コースがある。往復3時間弱というところか。赤石ヶ岳の登りでいささか草臥れたので微妙なところだ。まあ、あちらは止めにしてもいいやと、ゆっくり昼ご飯にする。

改めて地図を眺めてみると、鬼ヶ城は南西側から林道が延びているようで、これが烏ヶ岳まで続いている。烏ヶ岳にはアンテナ施設があるようだから、車が入れる道のはず。この道を使って鬼ヶ城近くまで車で入れば時間短縮が可能と踏んだ。どんな道かは行ってみないとわからないが…

舗装道路だけど、対向困難な一車線、カードレールもなく路肩注意の道だ。登りの二箇所のヘアピンカーブは切り返さないと曲がれない。100mぐらいの間隔である何とか行き違いできそうな場所を確かめながらおそるおそるハンドルを握る。こういう林道のドキドキ感も山登りの楽しみのひとつ。

そして、予想どおりの場所に登山口の標識があった。これが鬼ヶ城への最短ルートということだ。山腹に階段状のステップが切られている。このショートカットを進むと広めの登山道に合する。急な道だが効率よくどんどん登る。30分足らずで台地状の場所に出る。昔の山城のあとに違いない。わずかに石垣を偲ばせるようなところがある。そこからひと登りで山頂、いやいやこれは掛け値なし、360°の展望だ。山城の立地としては最高の場所だろう。

車のデポ地点までは下り20分、あっという間だ。まだ、3時を回ったところ。それじゃ、これまで街中から眺めるだけで、一度も足を踏み入れたことのない福知山城にも行ってみよう。

このお城は再建されたもの、外観は昔を偲ばせるが内部はビルの中にいるようで、大阪城と似たような感じか。石垣には墓石などを転用したものが混じっているのは大和郡山城と同じだ。遠くから眺めているだけではわからないこと。

320円を払って天守閣に登ると、さっきまでいた鬼ヶ城が北の方向に目立った山容を見せている。ぐるっと四囲を見渡すと、ここはほんとに盆地の真ん中だ。由良川に集まる降水が時として水害をもたらす。いくら自衛隊駐屯地が街中にあるとはいえ、災害は御免というところだろう。

京都北部の経済は低迷しているし、人口構成は老齢化している。中心都市の福知山とて例外ではない。京都は深刻な南北問題を抱えている。途中で切れていた京都縦貫道が繋がり、いちおう京都府内を高速道路で移動できるようにはなったが、綾部を迂回するので福知山への直線ではない。京丹波みずほインターが出来て多少の時間短縮になったものの、その先はやはり山陰道を走る。
 煽りを食ったのが従来の高速の終点、丹波インターを出てすぐ、舞鶴方面への国道27号との分岐にあるドライブインやまがた屋だろう。京都市内から出発すると、休憩はだいたいここになる。リニューアルして営業継続のようだが、敷地内に併設されていたコンビニは店じまいしていた。高速上には京丹波味夢の里という道の駅が出来ていて、こちらは繁盛しているようす。両者の経営は違うようなので、繋がった高速道路が老舗の命運を断ち切るという皮肉な結果になりそうだ。

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