舞洲ワンダーランド 〜 おとなの社会見学
2016/12/14

平日に休みがあるというのはいいことだ。週3日勤務になって家事の時間が増えたのは痛し痒しだけど、まあそういうものだろう。平日でないと行けないところに行く楽しみがあるのだし。で、今回のお出かけは大阪湾の埋立地、舞洲だ。ここの舞洲工場の見学を申し込んでいた。

電話で事前予約して、確定すればFAXで詳しい情報を連絡というのは少々面倒だが、公的機関のこと、まあ仕方ないや。途中の渋滞もなく、カミサンと二人、予定の13:00に30分ほど早く到着した。外来者駐車場は空っぽなので、見学者は我々だけかも。すると、中から係の人が現れて、時間前だが見学開始。

「ここ、いっぺん、見学したかったんですわ。阪神高速湾岸線を走ってたら、何だありゃという感じでしょう。はじめ、てっきりUSJやと思ってました」
 「そうですねん。間違えて来る人もいてます。受付で『大人2枚!』なんてね。そしたら、『ここは無料でっせ』と。ははっ、まあそりゃないですけど」
 さすが大阪、面白くてなんぼ。

大阪市環境局舞洲工場というのが正式名称、早い話、ゴミ処理工場なのだが、ここの売りは何と言っても突き抜けた外観デザイン、まさに仰天の施設だ。オーストリアの芸術家、フリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサー氏の作品らしい。ゴミ処理工場は二つ手掛けたようで、ここと地元ウィーンにあるらしい。姉妹施設という感じ。工場内にウィーンの施設のミニチュアもある。
 曲線主体のフォルム、植栽の多用と構築物との一体化、ポップな色彩感覚、まあ眺めていて楽しくなる。内部で行われている業務とは何という対比だ。家庭ゴミを持ち込む人だけがやって来るゴミ処理工場じゃない。建築デザインに関心がある人、社会見学の小学生、USJで遊ぶついでに覗きに来る観光客、ちょっとした人気スポットになっているようだ。見学予定表には海外からの団体もあった。

「建物は観てみたいけど、臭いは大丈夫かしら」とは、行く前のカミサンの弁。「最新設備だから、大丈夫と違うかな」とは言ったものの、奈良市の環境清美センターに何度か持ち込んだとき臭いに閉口したことがあるので、正直なところ自信はなかった。
 行ってみると、それは杞憂、敷地に入っても異臭は全くないし、室内の見学コースはゴミ処理過程とは隔離されている。持ち込みの車はエアーカーテンを抜けて、捨て場に入るから、そこは奈良と同じで、たぶん臭うのだろうけど。

ガラス越しにゴミ処理の様子が見える。相当の部分が自動化されているようだ。365日、24時間の稼働、職員は100名ほどとか。巨大な穴の中で直径6mにもなる鉄の爪がゴミを掴んでいる。可燃ゴミはゆっくり乾燥させて燃やす、発生するガスも回流させて燃やす。粗大ゴミは細かく破砕してアルミニウム、鉄を分離し、燃やす。何でも砕くわけだから、鉄の爪はすぐに摩耗するらしい。そりゃそうだ。

昔のゴミ箱や運搬用の荷車なども展示されている。さすがに荷車を見たことはないが、あの石で出来たゴミ箱は子供の頃に見たことがあるぞ。子供の見学を想定して、クイズやゲームのコーナーもある。まさにクレーンゲーム、こんなのがあるから、小学生の見学はいつも渋滞が発生するらしい。「ぼく、まだ、やってないよう」と泣き出す子供もいて往生するとか。

制御室を覗くと何だか暇そうに見える。モニターや計器が並んだ室内、こういう仕事というのは、ある意味で大変だろう。電気関係、機械関係には明るい人たちばかりのようで、メーカーに頼まず大概のメンテナンスはやってしまうらしい。「メーカーに頼むと、高こつきますからな」と案内してくれたベテラン職員。ここのプラントは日立造船のもの、ほかでは、タクマ、三菱重工あたりが大手とのこと。そうか、船を造る会社がこういうものも手掛けているんだ。

建物の外部に出る。ジグザクのスロープを降りると、ゴミ収集車の出入口が見える。近くで見る外壁には蔦が走っている。「そのうちに甲子園球場みたいになるかも知れまへん」とのこと。多くの窓はダミーだ。中には木の枝が飛びだしているものもあるぞ。自然との共生がフンデルトヴァッサー氏のポリシーらしい。

見学者が二人だけというのは破格の待遇だ。いろいろと質問するものだから、早くスタートしたのに、1時間以上も案内していただいた。おとなの社会見学は楽しい。

フンデルトヴァッサー氏のデザインした建物はもうひとつある。200mほど離れたところの舞洲スラッジセンター(下水汚泥処理場)がそれ。こちらの見学は申し込んでいなかったので、外観だけを眺める。こんな近くに派手な施設が二つ並んでいるのだから、ここは異空間のよう。普通のゴミ処理場のようにコンクリートの無粋な建物で済むところを、海外の著名芸術家に委嘱して特別な意匠としたのは、ここで開催するはずだった2008年オリンピックのランドマークの一つとしたい意向があったようだ。

世間ではIR法案とかカジノ法案とか呼ばれている「統合型リゾート施設整備推進法案」が、奇しくもこの日に参議院で可決された。その候補地とされているのが舞洲の隣、夢洲だ。そこはゴミ焼却灰によるが埋立てが現在も続いている。最終処分場が至近にあるわけだ。そして、ここに万博を誘致する動きが急だ。かつて、ゴミ捨場だった鶴見緑地で花博(国際花と緑の博覧会)を開催したパターンを踏襲しているかのようだ。

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