和気神社に初詣、そして丹頂鶴
2017/1/7

団体のバスツアーなんて、いつ以来だろう。購読している産経新聞に載っていた「国の天然記念物タンチョウヅルを見に行こう」を、カミサンが見つけ、申し込んでいたもの。チャリティふれあいウォークということで、6kmほどの歩きもあるらしい。

そして、その日、天王寺駅に7:20集合なので、私はいつもと変わらないけど、カミサンにとっては早起きだ。予想どおり、天王寺公園の集合場所に着くと、元気なおばちゃん連中が多いが、中高年夫婦、家族連れもいるぞ。バスガイドのおねえさんはいないが、サンケイトラベルの若い女性添乗員がお出迎え。ボディに「ひなちゃん」がペイントされた、産経新聞仕様のバスだ。大阪駅で残りの乗客を拾って、中国道、山陽道と進む。三連休初日なのに渋滞がないのは、年末年始の休みと近すぎて遠出の人が少ないからか。

最初の目的地は和気神社、昨年5月に那岐山に登った帰りにクルマでこのあたりを走った。あのときは閑谷学校に向かい、和気神社は素通りしたので、ここは初めてだ。時期としては初詣だけど、もう新年7日なので広い駐車場はがらんとしている。そこに、地元のボランティアガイドの人たちが待ち構えている。ツアー参加者には紅白のお餅を土産に準備いただいたうえ、案内も懇切丁寧、和気町のPRに一生懸命だ。

神社の入口には巨大な和気清麻呂像、この人の名前は道鏡という名前とセットみたいになっている。あのとき、道鏡が天皇になっておれば、万世一系どころか、今の譲位とか皇室典範とかの議論はありえないだろう。宇佐八幡に遣わされた和気清麻呂が贋神託を暴き、道鏡の野望を阻止して皇統が護持されたということになっている。道鏡の逆鱗に触れて大隅国に流された清麻呂を守ったのがイノシシということで、ここでは狛犬ならぬ狛イノシシ。新元号になりそうな再来年の年賀状にぴったりの写真を一枚。

ボランティアガイドのおじさんに尋ねてみる。
「京都の護王神社でも和気清麻呂を祀っていますね。こちらが本家ですか」
「清麻呂はここの出で、京都で何代もの天皇に仕えたので、あちらにもゆかりの場所がいろいろとありますよ」
「そうですか、足腰にいいということで、護王神社にもイノシシのお守りなんか置いていましたわ。あそこには宇佐八幡宮神託事件の顛末を説明する看板が並んでいますね。あのときの天皇って、孝謙天皇でしたか」
「そうです。孝謙天皇は二回即位しているんですよ」
「重祚というやつですね。あいだに一人挟まっているんでしたっけ。もうひとつの名前は何だったかなあ」
「稱德天皇でした。あいだに一人、淳仁天皇がいます」

なかなか博識、私が覚えていないこともよくご存じだ。そう言えば、大和西大寺の近くにある御陵は、地図によって孝謙天皇陵とも稱德天皇陵とも標記されていたなあ。こちらも調子に乗って、タブーに切り込む。
「私は大阪の八尾の育ちで、あちらは道鏡の地元なんですよ。道鏡の出身は弓削(ゆうげ)というところです。世が世であれば仇同士というとこですかね」
「八尾にも行ったことがあります。交流があるんですよ。向こうのお祭りで踊ったりしてきましたよ」
「おっ、河内音頭ですか。昔の遺恨はなくなったということですね」

千年以上経てば、そんなものだろう。会津と長州じゃそうはいかないだろう。国営放送のドラマが、会津を取り上げたら長州もと、バランスに配慮しなければいけないぐらいだもの。

和気神社の隣には藤公園があって、シーズンにはとても賑わうそうだ。今は椿、境内の本殿の周り、咲き始めの椿が綺麗だ。和気神社、ゆったりした感じで、地元も人も親切、なかなか好感が持てるなあ。千年の遺恨なんて、もはや関係ない。ところで、比類なき碩学だったらしい道鏡、「座ると膝が三つでき」とかの巨根伝説だけが流布しているが、本当のところはどうだったんだろう。小学校時代から30年以上も八尾で暮らした人間にとっては、和気清麻呂よりも道鏡に興味があるのは仕方がないかな。数年前に仕事の関係で自治医科大学を訪問したとき、ここが道鏡の配流の地(下野薬師寺)であることを知り、妙に親近感を覚えたものだ。

バスツアーは効率的だ。昼食のレストランに到着すると、既に鍋に火がついている。座ったらすぐに箸を持てるジャストインタイム、これも添乗員の腕の見せ所か。でも誰も飲み物を頼まないのにびっくり、このあとのウォーキングに備えてのことか。40人以上の団体で生ビールのジョッキを上げるのは私一人。正月番組、惜しまれつつ最終回(テレビ東京「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」)を迎えた太川リーダーのよう。あの番組では、私がスキーで二度登った鳥海山の北の玄関口、由利本荘にはついに辿り着けなかった。

と、話は脇にそれてばかりだが、メインの目的地は岡山県自然保護センター、ここは日本随一のタンチョウ飼育施設ということらしい。駐車場から坂を登ってセンター棟に着き、西本先生(植物担当)から全般のレクチュアを受ける。そして、解説付きのウォーキングとなる。普段は何羽か放し飼いにしているらしいが、今は鳥インフルエンザ予防のため、タンチョウは檻の中だ。この鳥の啼き声を初めて聞いた。雄が一声上げて、それに雌が和すのだそうだ。突然に啼くのでびっくりする。

続いて山登りになり、西本先生が丹精込めた湿性植物園に移る。山林を切り開いて、他所から湿原を移植したというのには驚く。試行錯誤の末に成功したとのこと。人工物だけに一年365日のケアが必要で、これは好きじゃないとやれない仕事だ。こんな季節だから花はない。

自分で計画し、鉄道やバス、はたまたクルマで出かける旅がほとんどだが、たまにはこういうバスツアーも面白い。現地の専門家が案内してくれるのがいいし、スケジュールに縛られるようでいて、効率的な一面もある。ツアーは中高年の参加者が多いので集合時間には必ず全員揃っている。このあたり、昔の教育を受けた日本人らしいところだ。帰路の渋滞もなく、予定より早く大阪に戻る。お天気も良くて、やはり出かけるのは晴女と一緒がいいのかな。

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