石段に萌える 〜 太郎坊山と箕作山
2017/4/30

きれいな三角形の岩山の映像を目にしたのは、最近多い鉄道旅のテレビ番組だった。そのときに取り上げていたのは近江鉄道、湖東を走るローカル私鉄だ。まだ乗ったことはないのだが、それよりもあの岩山に登ってみたい。

太郎坊というらしい。岩山がご神体になっているようだ。八日市の近く、低い山だが平野にポコンと立ち上がる姿は、近江富士、三上山よりそれらしい。石段が大好きなカミサンを誘うと乗ってきた。太郎坊だけじゃない、その山続きの瓦屋禅寺にも地図で見る限りもっと長い石段があるみたいだ。かくして晴天に恵まれたGWの一日、湖東に車を向ける。京田辺、宇治田原、信楽を経由する裏道ルート、渋滞とは無縁だ。

太郎坊宮(阿賀神社)の参道入口に駐車場がある。途中のJAやましろで購入した筍を木立の根元の叢に隠して石段登りの開始。車に載せたままだと傷んでしまいそうな陽気だもの。

天台宗のお寺が麓にある。この成願寺から、お宮さんへと石段が続く。表参道〜裏参道の周回コースになっているようで、我々は逆コースの裏参道を登っていく。中腹には巨大な神殿ふうの建物があるから、参拝者も多いのだろう。どんどん高度を上げると、下から眺めた巨岩に辿り着く。夫婦岩とか。縦に大きな亀裂が入っていて、その隙間が狭い通路になっている。

岩に鎖が付いているから登れそうだが、どうもこれは注連縄を張るためのようだ。登っちゃいかんのだろう。
 普通の参拝客はここでお詣りを終えて下山するのだろうが、我々は山登り、表参道を少し下ったところからハイキングコースに入る。こちらに足を踏み入れる人は少ないようだ。日向ぼっこをしているトカゲの姿が何匹も。蛇も出そうな感じだったが、それは見当たらず。

太郎坊の東側を捲いて尾根筋に出ると、少し引き返すように北側から太郎坊山(赤神山)に山道が続く。間もなく頂上、太郎坊からの眺めよりもさらに開けた感じだ。麓は田植えの季節で、水を張った田圃が光っている。
 山頂には何組かの登山者がいる。二人の男の子を連れたお母さん、下の子の元気が良すぎて頂上の岩の上を歩き回っては「危ないから、そっち行っちゃダメ」なんて叱られている。かと思えば、中年のご夫婦、奥さんが「ここは昔は火山だったらしいわ」なんて会話。ちょうどお昼、弁当を食べながら狭い山頂でのひととき。いいお天気だ。

さて、ここからの行程は二つの選択肢、カミサンにお伺い。
「来た道を引き返すか、ちょっと北の箕作山に登り、琵琶湖方面の景色を見て、瓦屋禅寺から長い石段を東のほうに下りてもいいけど」

予想どおり、後者の選択となる。そう思っていた。しっかりしたハイキングコースを辿って箕作山はすぐだ。北の方角、琵琶湖方面の眺望は開けているのだが、黄砂のせいか霞んでいる。案内板によれば竹生島や彦根城も見えることになっている。でも、肉眼でははっきりしない。辛うじて伊吹山がぼんやりと浮かんでいるぐらいだ。

振り返ると、カミサンは山頂の反対側でしゃがみ込んでいる。
「ほら、コゲラ、あそこに」

人気のない山頂の木立に巣を作っているのだ。コンコンと音がしている。見事に真円となった穴の奥に入ったかと思うと、近場を飛び回り、また戻ってくる。体がスッポリ中に入ってしまうから、奥は広くなっているのか。中から木屑を外に捨てているので拡張工事中なのか。しばし、バードウォッチングとなる。我々以外に邪魔者もいないから、悠然たるものだ。どうしてあんな、コンパスで書いたようにまん丸に出来るんだろう。不思議だ。体を入れるために最も効率的な穴を開けるなら、それは真円だということが判っているんだろうか。そして、それを実際にやってしまう。ほんと、大したものだ。

キツツキの行動を眺めていたら飽きることはないが、そろそろ下山するとしよう。瓦屋禅寺が近づくと、金ピカの観音像が鎮座する墓所、ここまで迂回ルートの車道があるのだ。古びた山寺を予想していたが、ちょっとイメージが違う。本堂はヨシ葺きの屋根だ。これはなかなかいい感じ、琵琶湖に生えるヨシをこんなふうに利用しているんだ。

石段の降り口を見つけるのに苦労した。境内の端から急角度で落ち込んでいるので、そばまで行かないと分からないのだ。いくら何でも麓から長い長い石段を登って参詣や墓参りに来るのは大儀だろう。それで車道が付いたのはいいが、石段は荒れるに任せた状態になっている。段差も大きくて積まれた石が緩んでいるところも散見される。ここを歩いて登る酔狂な人間は少ないのだろう。降り立ったところにはイノシシ除けのゲートが設けられていた。これが、人と獣の結界ということか。

往復じゃなくて下山コースを別にしたので、太郎坊の駐車場までは山麓の車道歩きとなる。交通量は少ないが暑い。最近あまり歩いていないカミサンはげんなり状態だ。「あの八日市駅前の平和堂で休んでいたら。車を回すよ」と、いつものパターンとなる。
 東側から望む太郎坊山は二瘤だ。さっき登ったのは奥のほうだ。日焼け止めを塗っていたけど、すっかり流れてしまった。道ばたの自動販売機で、こんなときにしか飲まないコカコーラ、この刺激がたまらない。もう夏みたいだ。おっと、筍を積み込むのを忘れちゃいけない。

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