三江線&井原鉄道 〜 陰陽乗り比べ
2017/12/23-24

廃線が決定すると鉄道ファンが押しかけ乗客が増えるというのも、地元の人たちにとっては複雑な思いがあることだろう。三江線の廃止が決まったのはもう1年以上前のことだ。この年度末を以て営業終了、青春18きっぷを使って乗れるのは、残すところ冬休みと春休みの2回、3月は混雑が目に見えている。それならば、出かけるのは今、いざ広島へ。 

広島駅を7:53に発車する芸備線の普通列車三次行に乗る。これより早く出ても三江線の乗り継ぎ列車はない。三次駅を10:02に発車し、途中の石見川本駅で乗り継ぎ、終着江津の到着は14:54。日中に景色を眺めながら全線乗車を果たすのは、このパターンのみ。
 芸備線自体、乗るのも初めてだ。三江線は江の川に沿って日本海まで走る路線なので、起点の三次は広島県だけど山陰ということになる。それでは、その境界はどこなんだろう。県境が太田川と江の川の分水嶺ではない。江の川の流域は広い。持参の地図を子細に眺めると、どうやら広島市から安芸高田市に入ってすぐ、向原駅付近がそれらしい。いつものように運転席の後ろに陣取っているので、向原駅停車の際に運転士に尋ねる。
「駅を出てしばらく行ったあたりが分水嶺ですかねえ」
「そうですよ。左側に柱みたいなものが立っていますわ」
 さすが、運転士は知っている。そうと判ればチェックせねばと眼をこらすも、ついに発見できず。陰陽分水とはいえ、トンネルもないし、列車は平坦地を進むだけなのだ。兵庫県から西にはこういう分水嶺がある。

分水嶺の話を横にいたおっちゃんテツにすると興味津々のもよう。この人は駅テツなのか、停車するたびに駅名標をカメラに収めている。若者には根暗な雰囲気のテッちゃんが多いが、この年代の人だと普通にコミュニケーションできる。聞けば三江線は二度目らしいが、前回乗ったときのことはほとんど覚えていないらしい。かく言う私は地図を片手にキョロキョロしているのだから地形テツか。途中の下深川駅では車両切り離し作業を凝視していた鉄子もいたから、同じテッちゃんでも、多種多様だ。

三次駅でいよいよ三江線に乗換、接続時間は僅かだ。何と、三両編成なので吃驚。先に福塩線の列車が着いていて、車内はちょうど座席が埋まる程度である。冬休みの青春18きっぷ組を見越した増結なんだろう。ほとんどの客は全線乗車だろうから、普段のように一両だったら超満員になるところだ。3月のダイヤ改正で2週間だけ本数が増えるらしいが、それでも大混雑になりそう。

江の川の右岸、左岸を縫うように列車は進む。途中の宇津井駅で下に目を遣ると、赤い大きな旗を振っている人が2人、「天空の駅ありがとう」とか書いてある。谷沿いの集落は石州瓦の朱色が鮮やかだ。あとで知ったのだが、ここはJRの高架駅で一番高い駅らしい。地上20m、階段が116段、三江線の名所なのだ。

浜原駅から粕淵駅にかけて、北に進んでいた三江線は南西に大きく方向を変える。江の川がそういうふうになっているのだから、直線での陰陽連絡という訳にはいかない。なので108.1kmもの路線になる。この辺りで三瓶山の姿が車窓から望める。頂上付近は雪が被っている。

石見川本駅に12:18着、ここで乗り継ぎになるのだが、13:45の発車まで1時間半ある。駅前には地元の人たちがお出迎えだ。特産品の販売、ガイドマップの配布、次の発車までの散策コースの案内なんてのもある。駅前にはおもてなしサロンという休憩所もある。とりあえず昼御飯、マップには載っていない新しそうな蕎麦屋に入る。次から次へと時間待ちの客がやって来る。テッちゃんはパンと牛乳ぐらいで済ませる人が多いから、大混雑というほどではない。しかし、廃線になったら商売はどうなるんだろう。車で通り過ぎるようになると、ちょうど昼時の乗り継ぎで、腹ごしらえという需要がなくなってしまうのではないかな。駅のすぐ横は江の川の堤防、街中の山陰合同銀行の壁にはかつての洪水の水位が示されている。1階部分はまるごと浸水したようだ。

石見川本から江津までは1時間ちょっと。長い三江線だから途中の休憩はちょうどいいかも。川幅はだんだん広くなる。鉄橋や駅の撮影スポットには撮りテツの姿がある。ご丁寧に鉄道脇の道路を次の撮影スポットに先回りという車もある。カーブの多い川沿いをゆっくり走るローカル線だからそれも可能なのだ。さて、江津、これで三江線完乗だ。ここまで来た鉄ちゃんたちのその後の行動はというと、山陰線松江方面の上り列車を待つ人が半分、残りの半分のうち三江線で折り返す人が半分、山陰線下り浜田方面の列車に乗り込む人が半分というところか。三江線の往復とはいくら何でも飽きると思うのだが。

海沿いの温泉で美味しい魚を食べて翌日は高速バスで広島に向かう。浜田自動車道を経由して広島まで2時間ほどだ。これじゃあ三江線は太刀打ちできない。芸備線・三江線を乗り継いで7時間もかかったのに。陰陽連絡は浜田自動車道・広島自動車道のほかに松江自動車道・尾道自動車道、米子自動車道・岡山自動車道がある。利便性だけで言うなら鉄道ローカル線に勝ち目はなさそうだ。

山陰線は幹線だから列車のスピードが全然違う。三江線では線路脇の竹が車体に当たったりしていたぐらいだから、廃線間近ということで充分な整備もしていないのだろう。山陰線の車両にある路線図が面白い。東西も南北も逆だ。確かに山陰側から見るならこっちのほうが判りやすい。浜田自動車道は三江線と違って比較的標高の高い場所を通る。途中にスキー場もある。少し雪の残っているところもあるが、風もなく穏やかなクリスマスイブだ。

前日は青春18きっぷだが、この日は新幹線を使う。あっという間に福山だ。駅のそばのお城は郡山城や明石城、忘れちゃいけない江戸城もあるが、福山城の近さは群を抜く。新幹線ホームから観光ができる。ということで途中下車もせず福塩線の電車に乗車、二つ目の神辺駅で井原鉄道に乗り換える。福山を次に発車する列車は井原鉄道に乗り入れるのだが、神辺駅で降りないことには一日乗り放題のきっぷが買えないのだ。

それにしても開業18周年とは妙だ。ローカルな私鉄か、JR線が第3セクターに移行したものだとばかり思っていたのに。確かに単線でディーゼルカーなんだが、路線の多くは高架で線路の状態もいい。三江線とは比較にならない。見るところ、新しい鉄道だ。しかし、前史はいろいろとあったようだ。井笠鉄道という軽便鉄道がかつてあった。瀬戸内海に面した笠岡と井原や矢掛とを繋ぐ軌道だった。国鉄がそれを買収し現在の井原鉄道の路線の建設にかかるが頓挫、そんな紆余曲折の末に平成11年に目出度く開業という経緯のようだ。

乗った列車は早雲の里荏原行だが、手前の井原駅で下車する。後続の総社行は井原始発だし、お腹も空いている。立派な駅の構内で食事もできそうだ。駅の一階はデニムショップになっている。岡山県のこの辺りはジーンズで有名なことは知っていたが、浮かぶのは笠岡や児島という名前だ。井原もそうなのか。というのはこちらの知識が足りなかった。井原は国内生産のジーンズの75%まで占めていたこともあったらしい。こっちが本家、品質の良さからシャネルやルイ・ヴィトンも井原のデニムを買い付けるのだとか。井原は「日本のデニムの聖地」と呼ばれているのだとか。そうなのか、久留米のスニーカーのような感じかな。逸品ということ。

時間待ちでショップを覗いていたら、リュックに目が止まる。今のリュックがあちこち剥げてそろそろ買い換えかと思っていたところなので、いかん、タイミングが悪すぎる。Ancours、アンクールというブランド、井原デニムと匠の技「豊岡の鞄」がコラボレーションした鞄ブランドなんだって。デニムとも思えない値段が付いているが、気に入ってしまったのが運の尽き、自分へのクリスマスプレゼント。
 結局、買物していたら矢掛で途中下車して古い宿場町を散策する時間がなくなってしまった。まあいいか。

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