青春18きっぷで東北4県めぐり
2018/3/11-12

7年前のちょうどこの日、福島への出張で仙台空港行の夕方の飛行機に乗る予定だった。もちろん便は欠航、出張もキャンセル、家に戻ってテレビの画像に息を呑んだ。この日が身内の命日という人も多いはずだから、気楽に青春18きっぷで東北を周遊というのも少し気が引ける。でも、旅行でお金を落とすのも復興支援と、前夜はやぶさで仙台へ。

学生時代の山登りやスキーでは夜行列車で通過するばかりだったので、この辺りの昼間の眺めはあまり記憶にない。仙台からの東北本線の車窓には平野の西に名前だけ知っているが登ったことのない山が並んでいる。栗駒山、焼石岳、これらの山の周りをぐるっと回って鳴子温泉に浸かるという目論見だ。小牛田行き、一関行き、盛岡行きと乗り継いで北上駅に降りる。ここは岩手県だ。この先の乗り継ぎは時間が短いので、ここで昼ご飯、和風だしに中華麺という変わった和風ラーメンを試す。これは姫路の駅そばに通じるものがある。西と東に同じような麺があるのは面白い。さて、ここから北上線横手行きで分水嶺越えとなる。

山に向かうとさすがにまだ雪が残っている。真っ直ぐ進む線路だけが除雪されていて土の二等辺三角形だ。山間に入ると和賀仙人なんて変わった駅があったりする。錦秋湖というダム湖の脇を列車は進む。意外にスピードが出る。冬に乗った三江線に比べるとずいぶん速い。このあたりの東北の駅名には、○○目というものが沢山ある。北上線には立川目、横川目。陸羽東泉には塚目、上野目、どういう意味なんだろう。扇状地の末端とかの、地形の変わり目ということなんだろうか。そんな気もするが、確証はない。謎だ。なんだか気になる。

さて、横手駅に到着。ここは秋田県。駅のホームでは駅員さんが人力での除雪作業の真っ最中、ここは機械力でというわけにはいかないんだろう。奥羽線への乗り継ぎがすぐなのが残念、降りてブラブラする時間はない。新庄行きがすぐにやって来る。車窓の右手に鳥海山が見える。真っ白だ。ここには6月にスキーで二度来たことがあるのだから、これぐらい積もっていないと夏まで残らない。あの頃は大阪から夜行寝台特急「日本海」で羽後本荘まで来て、そこから矢島線だったが、いまは日本海沿いに走る直通長距離列車はないし、矢島線も由利高原鉄道と第3セクターとなった。北陸新幹線はできても関西から東北がかえって遠くなったような気がする。

秋田県から山形県へ。ここでも不思議なことがある。テッちゃんらしく運転席の横にへばり付いていると、院内駅と及位(のぞき)駅の間だけ複線になっていることに気付く。県境越えの箇所だから平均通過人員が最も少ない区間のはず、ただでさえ奥羽線のなかで新庄~大曲は最も少ない数字なのだ。それなのに、ここだけ複線にしている意味は何なんだろう。新庄から先も山形新幹線を伸ばすという構想があって、工事が難しい部分を先に整備したのだろうか。これは謎の区間だ。秋田新幹線と山形新幹線のあいだ、横手はそういう位置にある。新幹線に乗るのに大曲に出るか新庄に出るか、微妙なところだろう。

陸羽西線、今度は山形県から宮城県への山越えとなる。分水嶺を越えるのだけどトンネルはない。その名もズバリ、堺田駅のホームの上に分水嶺の看板があった。ここからは大谷川・江合川に沿って下って行く。奥の細道湯けむりラインという愛称があるほどに、○○温泉と名のつく駅が並ぶ。中山平温泉、鳴子温泉、鳴子御殿湯、川渡温泉という具合だ。その鳴子温泉は温泉番付で東の横綱だそうだ。では西はというと、別府。別府温泉には行ったことがないが、泉質の豊富さということでの最上位ということか。

翌日、青春18きっぷで戻るというわけにはいかず、新幹線を利用し平泉を見物して成田からLCCという段取りだ。鳴子温泉駅に行くと何やら賑わっている。甲冑姿の人までいるのは何だ。構内では物産販売の特設テーブルの片付けの最中だ。聞けば、豪華クルーズトレイン、四季島が発車したばかりという。早朝に鳴子温泉駅に着き、乗客たちは朝風呂に入って次の目的地に向かったようだ。

JR各社がこのところ力を入れている超豪華列車というやつだ。JR九州のななつ星in九州に始まり、JR西日本の瑞風、JR東日本の四季島となる。豪華客船のクルーズなら公海の上を航行するのだから、どうぞ御勝手にと思うのだが、地方の交通インフラとして築かれた鉄路を走る豪華列車というのには少し抵抗がある。お金持ちが風光明媚なローカル線の眺めを楽しむ一方で、列車本数の削減で地元の足としてのローカル線は負のスパイラルにある。一本の豪華列車を走らせたぐらいで何の足しにもならない。悪いとは言わないが投資の対象としてプライオリティが高いとは私には思えない。こちら青春18きっぷの旅行者、乗れない者の僻みということだが、こういう路線を鉄道各社が突っ走るなら、地元の歓迎セレモニーの一方で、美しいボディに向けて卵を投げつける人間が出てきても不思議ではないだろう。そんな日本にしたくない。

さて、陸羽東線の普通列車を古川駅で降り、新幹線で一関へ、そこから在来線で二駅、平泉駅に降り立つ。3時間ほどの観光ができる。30分毎に出る平泉町巡回バス「るんるん」というのに乗れば毛越寺や中尊寺がコースに入っているが、時間も限られているので、駅前でレンタカーを3時間借りる。バスのコースにはない達谷窟毘沙門堂に向かう。崖に埋め込むように造られたお堂は坂上田村麻呂が征夷の記念に毘沙門天を祀ったものだとか。お堂の上方の崖には大仏の顔が掘られている。平泉の観光スポットから少し離れているので人影はまばらだ。

次に向かったのは厳美渓、こちらは一関市になるので平泉町の観光パンフレットには記載かない。しかし距離はさほどない。平泉駅よりも近い。そんなに深い山でもないのに、ここだけ両岸に岩が切り立ち激流となっている。紅葉の頃が人出のピークだろう、まだ寒いこの時期、酔狂な渓谷見物の客はわずか、周辺の土産物店も駐車場も、ほとんど閉店状態だ。ここの名物が「空飛ぶ団子」、籠に代金400円を入れて板木を叩くと、対岸の土産物屋の親爺さんが籠を引き寄せる。ややあって団子とお茶が載せられた籠が渓谷の雨絵を渡ってくるという仕掛け。そういうことだったのか。三種類、一つの串に5本というのは観光地にしたら良心的価格と言えそうだ。これが京都あたりなら600円は取るに違いない。

残りの時間を考えると、世界遺産の寺は片方にしか行けそうもない。寒いので庭園見物でもなかろうと、迷いなく中尊寺へ。金色堂というのはコンクリート造りで、えっ、これが世界遺産かと訝しく思ったら、いや、これは覆いなんだ。保存のためのシェルターということだった。中に金色堂があるのだ。紛らわしいこと。よほど奥州藤原氏は豊かだったんだろう。奈良の大仏に塗られた金もはるばるとここから運ばれたのだから、まさに金銀財宝がザクザクという感じか。東北にはそんな時代があったんだ。世界遺産にはなったが、中央に滅ぼされてしまった敗者の歴史はあまり表には出てこない。

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