結局は、ない、「衰退の法則」
2018/3/15

定価3000円とは、ちと高い。図書館で借りるからいいようなものだが、どんな人が買うのだろうか。読むべき人は大企業の経営陣、あるいは経営陣を目指そうというミドルクラスか。そういう人たちが読んで思うのは、「あっ、これはうちの会社にも当てはまる」ということだろう。日本の企業なら程度の差こそあれ大同小異、では、破綻する企業と、そうでない企業の差は何か。著者は13社87人へのアンケート、インタビューを通じて、法則を探ろうとしている。

結論として述べられていることは次のとおりだ。企業内では専らミドルによる妥協的な事前調整が進められ、経営陣の意思決定が予定調和的なものとなる。そのため経営陣への登用プロセスが社内調整力やトップへの忖度といったことに傾いた恣意性・政治性の濃いものとなる。結果として、経営陣の資質が社内政治力には長けているものの実務能力や経営リテラシーに欠ける経営陣を産み出すことになる。この三つの要素が衰退サイクルとして企業内部に胚胎する。そこに事業環境の変化が襲ったとき、低レベルな意思決定能力が表面化し一気に衰退から破綻へと転がり落ちる。これを阻止するメカニズムとして、人事部局の統制に基づく公正な登用プロセスが存在するか、事実をベースにした議論を尊重する規範が働くかどうかが二つの重要な楔であるとする。その二つの楔の存在の有無が、企業が衰退するか否かの差違だという。

なんだか当たり前のこと、企業で働いた人間なら言われなくとも感じていることが述べられているに過ぎない気もする。データに基づく実証分析と言うが、所詮は限られたアンケートやインタビューの結果、社会"科学"たり得ない手法で導き出された"法則"と、そこで働く者が直感的感覚的に捉えているものとは何ら変わるところがない。著者小城武彦氏は通産省から産業再生機構を経て多くの企業経営にコミットした人物で、複数の問題企業の内部を知る立場にあったことで、"法則"を考察するにうってつけではあるものの、民間企業での実務を経験したわけでもない高級官僚特有の上から目線も顔を覗かせる。もっとも、それ自体は非難すべきことではないし、言っても仕方のないこと。

論旨に戻り自分の経験も振り返ってみると、著者の述べることは概ね妥当だ。日本の企業ならどこにもある衰退サイクル、それに歯止めをかけるファクターとしての人事の公正さと経営層の資質、そのとおりと肯くことが多い。自分自身、60歳の定年後も会社に残る選択肢はあったが、合った仕事を自分で探すという道を選び複数の勤めを経験した。定年前にも企業グループ外への単独出向もあったから、多少なりとも外からの眼、比較の見地が身についたと思っている。

他企業からの出向者に雑じり仕事していたとき、某企業では普通に上司に中元歳暮を贈るという話を聞き、何とも前時代的と驚いたことがあった。また、組織としての企画立案は職制を経て行うのは普通であるにしても、平社員がラインの課長・部長はおろか、他部門の所属長や担当役員、さらには社長にまで直接説明するということに慣れていた自分にとって、一段一段の階段を上がることでしか合議ができない組織があることに驚くとともに、その非効率さに呆れたこともある。まあ人事の面ではヘンなこともあったとは言え、概ね衆目の一致するところが抜擢されていたようにも思う。中ではブツブツ言っていても、他を見ると割とまともな会社かなあとも思ったものだ。それだから、金融機関としては珍しく社名も変わることなく存続してきたのだろう。そして、ちゃんと企業年金ももらっているから良しとするべきかな。

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