「テヘランからきた男」 〜 企業の消長は
2018/4/18

まるでスパイ小説のようなタイトルだ。しかし、そうではない。サブタイトルが「西田厚聰と東芝壊滅」となっている。普段、こういう企業ものの本を読むことは少ないが、手に取ってみた。あの会社がいったいどうなっていたんだろうという思いはあったし、1000株に過ぎないが株主だったこともある。それに、ラップトップコンピュータの魁、DynaBook J-3100のユーザーだった自分にとって、世界初の革新的な製品を送り出した会社の凋落ぶりは目を覆うばかりだ。そもそも、愛用したオレンジ色の液晶のラップトップで世界の市場を開拓したのがこの本の中心人物、西田社長なのだ。配偶者はイラン人の才媛、結婚、テヘランでの現地採用を経て、コンピュータ部門の赫々たる業績をひっさげて本社のトップにまで登り詰めたサクセスストリーの人、それが「テヘランからきた男」というタイトルの所以。

不正経理による利益水増し、企業買収に起因する特別損失の隠蔽、何度も決算を先延ばしにするする醜態、とっくに上場廃止、倒産していても全然不思議じゃない。Too big to failを地でいく国策(に近い)企業なので辛うじて延命しているに過ぎないのが今の姿なのだろう。巨額の利益を生み出したはずのフラッシュメモリーを蔑ろにした挙げ句の果てに、虎の子の半導体部門まで売却するに至っては何をかいわんやである。先のことは読めないが、もう復活の目はないのではないか。企業の消長は空恐ろしいほどだ。「成功の復讐」というやつか。異端児として入社して大組織を牽引した人の末路はあまりに寂しい。

経済成長率と同等の発展を続けていた企業の風土を革新した、アグレッシブな経営者の後に続く人が社内にはいなかったということなんだろう。内部者でないと判らないことも多いので、本に書かれた経営陣の体たらくがどこまで正鵠を得たものか判断できないが、さもありなんという気はする。本の中にもあるように「魚は頭から腐る」と決めつけていいとは思わないにせよ、社長としての最大の経営課題、後継者の見極めに失敗したことは事実だろう。その結果が今の東芝という企業なのか。読んでいて暗澹たる気持ちになる。ずいぶん前にこの企業を早期退職した大学時代の仲間がいる。聞いてみたことはないが、その後に起きた事件をどんなふうに見ているのだろう。

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