アメリカンフットボールと野球 〜 世間の反応の違いは何か
2018/5/26

収まる気配どころか、拡大の一途のような危険タックル問題、当事者たちもこんな展開になるとは思っていなかっただろう。日大首脳陣を非難する論調一辺倒だが、あの危険タックルの映像が流れたとき、私が思い浮かべたのは昨年夏の高校野球で起きた仙台育英高校の打者走者の一塁手キック事件のことだ。この二つの危険行為を並べて論じているものは見当たらないようなので、私なりにいろいろと考えてみた。

仙台育英高校の事件は全国中継の映像でも流れ、日大の事件同様にネット上でも非難が高まったが、結局はうやむやになったように思う。しかし、行為の悪質性に関しては日大のケース以上かも知れないと私は思っている。つまり、内野ゴロで一塁に駆け込む打者走者が、送球を捕球しようとする一塁手のベースについた足に、左足でキックを入れたという行為だ。今回のアメリカンフットボールの問題は、危険行為としてレイトタックルという反則に規定されているが、野球で一塁手に蹴りを入れるなんて想定もされていない行為だから、明文化されているはずもない。

そのときの実況中継や録画を見ると、私の目には明らかに故意、監督やコーチの指示によるものかどうかまでは判らないが、あの選手は普段から危険なキックを練習していたに違いないとさえ思える。そもそも、野球を始めた子どもに一塁ベースを駆け抜けるときはライン側を踏むなんてことはいの一番に教えることだ。それが全国大会に出場するような強豪校のレギュラー選手が知らないはずはないし、体に染みついた基本中の基本であるはず。それだけにあれが故意であることは明白で、こんなことをやる選手、指導する監督・コーチ、この高校は何なんだと暗然としたものだ。相手は防具を着けたプレイヤーではない一塁手なのだから、あれは骨折の可能性が相当に高い。

この二つの危険行為については、競技中に起きたラフプレーということで共通するが、世間の反応における相違点ということで考えると、いくつかのポイントがありそうだ。双方の状況や背景にはかなり異なるところがあり、それが事件の後処理に影響した(する)のではという気がする。三つの観点で考えてみた。

(1)大人か子供か

謝罪会見までした日大の選手は20歳になったばかりとは言えいちおう成人、一方の仙台育英高校の選手は未成年、どちらも物事の是非の判断ぐらいはつく年齢ではあるが、未成年であることでの配慮が働いたのだろうと思う。悪質極まりない行為ではあっても事件化に至らず、指導者の責任も追求されず、故意であることすら不問になったような決着だった。ただ世間の厳しい非難は回避したものの、当該選手は大学のスポーツ推薦を取り消されたようなので、実質的なペナルティを受けたとも言える。

(2)マイナースポーツかメジャースポーツか

どちらも好きなスポーツだけど、アメリカンフットボールと野球では、競技人口に大きな差がある。アメリカンフットボールなんて、見たこともないしルールも判らない人は多いだろう。一方の野球は、最近はやったことがない子供は増えているものの、メジャーリーグでの大谷選手の活躍への注目など、観るスポーツとしての人気は依然として高く、高校野球ともなれば普段は関心のない人も郷土チームの動向は気になるものだ。
 そういう状況だから、関心もないしファンでもないスポーツ、アメリカンフットボールについては、世間が悪質な反則行為に厳しい態度をとり、大学側の対応の悪さに憤りをぶつけることに繋がっている面があると思う。一方の高校野球では、野球経験者には悪質性はすぐに判るが、大多数の観るだけの応援するだけのファンにとって、好きな野球に汚い行為なんてあってほしくない、ないはずだという潜在的願望があると思う。ましてや、”純真な"高校生なんだしという気持ちもあるだろう。

(3)メディアの関与度合

おそらく、これが最も大きな違いではないかと思う。つまり、米国ではアメリカンフットボールは人気スポーツとしてメディアの最重要コンテンツの一つだが、日本ではそうではなく、一部のファンがスタジアムに行くだけだ。テレビの全国放送も甲子園ボウルやライスボウルぐらいしかない。ところが高校野球となれば、地方予選まで地元テレビでは放映するし、春夏の全国大会となると開催中は二つの局で一日中放映している。
 つまり、NHK、朝日新聞、毎日新聞という大所のメディアにとっては高校野球はドル箱の存在である。視聴料徴収の錦の御旗であったり、新聞販促ツールでもあるわけだ。そんな状況のなかで、スキャンダルを回避(隠蔽?)しようとするインセンイティブが強く働くのは自然の理だろう。あの仙台育英の悪質プレーがうやむやになったのは、高野連、NHK、朝日新聞などの阿吽の呼吸があったように思える。そういう点では、責任者として責められるのは当然としても、日大首脳陣に「なんでこんなに」と思う気持ちもあるだろうと思う。

ここしばらく、メディアでは同じような意見ばかり垂れ流しているので、両スポーツは好きだし観ることも多い人間として、ちょっと違った角度での見方もあるのではということで書いてみた。

ジャンルのトップメニューに戻る。
inserted by FC2 system