ガレリア座「愛の妙薬」 ~ 我らがテナー!
2001/3/18

東京に転勤した直後、社内メールでオペラの案内が…。それは、後輩の丹下知浩君が出演するガレリア座公演の案内だった。以前、同じ職場にいたころは、彼が歌うなんて知らなかったが、その後、コーラスから遂にはオペラの舞台にも立っているとか。もちろん、アマチュアで、サラリーマンと二足の草鞋、変わり種サラリーマンとして一般紙にも採り上げられたりしていたので、記事で読んだことはあるものの歌を聴くのは初めて。にわかファンクラブの一員として新宿文化センターに出かけた。

日本語上演ではあるが、オーケストラもコーラスも自前、これだけの人を集めて上演するのは大変だと思う。ガレリア座は都職員である八木原良貴氏が主宰、演出も担当。丹下君の他は、大津佐知子(アディーナ)、上田純也(ベルコーレ)、北教之(ドゥルカマーラ)というキャスト。

いくら身内とは言っても、所詮はアマチュア、という気持ちでしたが、初めて丹下君の歌を聴き、正直言って素晴らしさに驚いた。主役のネモリーノは、ほとんど出ずっぱりだから大変だったろう。ガレリア座全体のレベルが予想以上だったのと、その中で丹下君が突出した存在であることがはっきり判る。

会場でのアンケートにも書いたが、このガレリア座で丹下君が歌うのはもったいないという印象だ。もし、歌の世界でさらに上を目指すつもりがあるなら、次のステップを考えた方がいいと思うし、今の仲間の方々も喜んで送り出すべきだと思う。

世界的にテノールの人材は不足しているのは周知の事実だし、国内の第一線のテノールを見ても、これだけ中高音域が充実し、知的な歌唱ができる人材は少ない(名の通った人でも、一発ハイCを決めるのはいいが、あとはさっぱりという人が少なくない)。

今日の歌だけでは即断できないが、さらに輝かしい高音の充実があれば、アマチュアとかプロとかは関係なく、檜舞台に登場すべき逸材と見受けた(スカラ座にはそんな異色のキャリアの人がいくらでもいる)。テノール歌手は年齢的にもこれからが油の乗る時期だし、次に何に取り組むか知らないが、とても楽しみだ。

プログラムに大野和士さんのコメントが載っている。丹下君が前に「仮面舞踏会」を歌ったとき、ゲネプロに飛び入りで大野さんが指揮台に立ったとの話を聞いていたが、実際に彼の歌を聴いた今、大野さんは丹下さんの素質を見抜いたからこその指導だったと合点がいく。東京、カールスルーエ、これからのブラッセルと、オペラの現場経験が豊富なの大野さんも認める才能ということだろうか。

こと声楽に関しては、世界のトップレベルとアマチュアの世界に断絶があるわけでも何でもなく連続線上にあるというのが、何でも聴きに出かける私の持論、細かなことを言えばきりはないにせよ、メンバーの人たちが活き活きと取り組んでいる様子が充分に伝わってきたし、出かけて損のなかった演奏だった(お釣りが来たぐらい)。

もともと、大阪に帰省し、メノッティの「領事」(大阪音大カレッジオペラハウス)を観るつもりをしていたが、変更した甲斐があったというもの。

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