いずみホールの「セヴィリアの理髪師」ハイライト ~ 箱ものの功罪
2001/4/28

大阪城を望むOBP(大阪ビジネスパーク)の一角にあるいずみホールは、言うなればバブルの"正の"遺産だ。ホールと一体になったOBPプラザビル、隣のホテルニューオータニ、横のNEC関西支社や近畿大阪銀行本店が入居するビル、これらは全て住友生命保険が所有するビルであり、さらに同社の事務センター跡地には、新本社ビルの建設も進んでいる。

いずみホールはちょうどバブルの絶頂期に計画が立てられたものだ。企業メセナという言葉がもて囃されていた時期と重なる。当時社長の上山保彦氏の鶴の一声で決まったことだ。孫子の兵法に造詣が深い上山氏のもうひとつの顔はクラシック音楽ファン。膨大なCDコレクションをお持ちらしい。

バブルがはじけ、株価や不動産価格は暴落、長くつづく低金利の時代に運用の逆ざやで苦しむ生命保険会社にとって、こうしたホールを維持するのは並大抵ではない。800人収容のクラシック専用ホールだから、興業収益は当然のことながら赤字、いずみホールを維持することへの社内の風当たりも強くなる一方のよう。

ただ、一方で、関西の音楽界でいずみホールの果たす役割は大きなものがある。フェスティバルホールが老朽化し、外来二流歌劇場の引越公演などの他は、妙な団体の会合などにも使われている現状を見ると、シンフォニーホールとこのいずみホール、オペラでは豊中のカレッジオペラハウスとびわ湖ホールだけが、クラシックファンの乾きを癒す公演を提供しているのが事実だろう。

先の上山社長は毀誉褒貶のある人だが、少なくともこの箱ものを作ったことは客観的に見ると功績のひとつだろう。箱だけ作って中身はさっぱりという公営の施設が多いなか、オープンから10年以上もソフト面でもそれなりの成果を挙げてきているのだから…。
 惜しむらくは、演奏機会の少ないオルガンなどにお金をかけずに、オペラ上演も可能な機構を備えてほしかったということ。サントリーホールでも、ホールの機構を精一杯駆使したオペラ上演が行われているが、限界があるのも事実だし。

話がホールのことから横道にそれたが、いずみホールでは年に一度しかないホール主催公演のオペラ、この「セヴィリアの理髪師」上演には、日本の第一線の歌手がそろっている。ただ全曲でなくてハイライトということが残念、また演奏会形式でなく舞台上演であれば言うことがないのだが、そうも行かない。今回のキャストは次のとおり。

アルマヴィーヴァ伯爵:五郎部俊朗
 バルトロ:多田羅迪夫
 ロジーナ:永井和子
 フィガロ:井原秀人
 バジリオ:雁木悟
 ベルタ:日比直美
 湯浅卓雄指揮 大阪センチュリー交響楽団 オペラハウス合唱団

五郎部俊朗さんのロッシーニは定評のあるところ。この軽くてきれいな高音の魅力。だんだん価値が理解されてきたようだが、それでも劇場レパートリー的にはマイナーなベルカント、舞台で聴ける機会が少ないのは残念だ。

ロジーナの永井和子さんも、たぶんこの役の第一人者だろう。ソプラノ・ヴァージョンも耳にすることが多い役だが、断然、これはメゾ・ソプラノ。ロジーナは深窓の令嬢ではなく、世知に長けた強かな女、深みのあるメゾの声でないと話にならない。

主要キャストでは、フィガロの井原秀人さんだけが、大阪で活躍する歌い手。実力本位で歌手を集めるとこうなる。グローバル化の世の中に、東京だ大阪だと言っても始まらない。大阪では地元の歌手をという声もあると思うが、低調な地元団体の公演を何度も体験した聴衆としては、演ずる側の論理で二流の歌を聴かされるのは困りものだ。

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