新国立劇場「トゥーランドット」 ~ 運動会シーズン近し?
2001/9/17

いつもの2835円のE席。同じE席でも4階最後列だとよく見える。これが最前列だと手摺りが邪魔になるし、バルコニーは一番内側でないと、前の人の頭が邪魔になる。いったい設計した建築家は何を考えていたんだろう(同じキャパのびわ湖ホールの素晴らしさ)。

公演のチラシ

タイトルロールが第二幕第二場になってようやく登場するという特異なオペラ。しかし、これが主役(アレッサンドラ・マルク)の凄さというものか、もともとそう書かれているからか、前後の印象が全く異なる舞台だった。
 登場のアリアIn questa reggia(この御殿の中で)を、極めて遅いテンポで見事に歌いきった(えっ、大丈夫?と最初思ったけど)。カラフとの掛け合いGli enigmi sono tre, la morte è una(una è la vita)(謎は三つ、死(生)は一つ)のところで、やっとテンポは少しアップしたけど…

一人の歌手のインスパイアで、全体ががらっと変わるということは、本当にある。他のソリストは言うに及ばす、コーラス、指揮者、オケ、挙げ句に演出まで。前半は、今ひとつふたつ。後半は、とってもいい。

テノールのマリオ・ボロンテは冬の「イル・トロヴァトーレ」でも聴いた人、、ムラのあるところは印象が同じ。第三幕のアリアNessun dorma(誰も寝てはならぬ)は決まったが、前半は「?」。ターゲットの音がすっと出ずに、無理やりに引き上げるようなところが耳につく。好きな歌い方じゃない。

リュー役の砂川涼子、「イル・カンピエッロ」で耳を奪われたソプラノ、二つのアリアはとても素敵。でも群衆に紛れて登場する開幕の第一声、はっきりそれと印象づけてこそスターだ。いくらアリアが完璧でも、一連のドラマの中では第一声がとても大事なこと。

プッチーニは、好みのヒロインに、こういう登場のさせ方をさせる。蝶々夫人が婚礼のために坂道を登るときもそうだし、トスカが教会の裏手からMario!と呼ぶときも、そう。そこが一夜の成否を分けるポイント、それが舞台というものだし、勝負どころだ。アリアの何倍もの練習が必要なんだろうと思う。

演出はイタリアから持ってきたもので、舞台中央に巨大な球体。これがパカッと割れて、中には小林幸子も真っ青のコスチュームのトゥーランドットが、という趣向。まるで桃太郎のよう。でもこのボールを色々に使って効果を出しており、なかなか面白い。

前半の演出は、群衆の扱いに問題あり。幕開けの強烈な不協和音に先立ち、楽譜にない銅鑼が何度か叩かれ、それに合わせ群衆が何派かに別れて登場する。衣装は黒子風で手に風呂椅子のようなものを持っている。それに乗ったり、机のようにしたり、座ったり、しかもグループ単位であっちへこっちへ。いったい、どういうつもりでやっているのか不明。これからシーズンとなる運動会のマスゲーム風。かえって目障りと感じた。

第一幕で登場する宦官のピン・ポン・パンも、鳥かごのようなものを担いで(中に入って)登場する。パパゲーノじゃあるまいし。これもさっぱり意味不明。最悪だったのは第二幕第一場の長大な三重唱のところ。ここではオレンジ色のビニールボール(これも運動会風)が小道具として使われるが、場所を変えながら、ボールにもたれたり、座ったり、上に寝ころんだり、とめまぐるしい(もちろん補助者がついている)。

これは、三人の歌い手には、あまりに酷な演出。姿勢も不自然で呼吸も乱れるし、動きが多すぎてアンサンブルも散漫になる。長い場面だから、変化を出したい演出家の意図と見えるが、音楽を殺してしまうことになり逆効果。このボールの他に、リボンやフープも小道具で登場するから、この演出家は新体操がお好きかな。

登場人物はリューだけが普通で、他の人物は歌舞伎の隈取り風の異様なメイク。これはお伽話だからまあ許せる。唯一普通の人間で作曲者が愛情を込めたのがリューだから頷けなくもない。

謎解きの場面以降は、違和感がなくなる。リューの死の後の最後の場面、カラフとトゥーランドットが、大きな黒い布(人が何人かで支えている)の中から顔だけ出して歌うシーンはいい着想かと思う。最初は両端に位置した二人が、ピンポイントのスポットに照らされて近寄る。布の動きもカラフによるトゥーランドットのレイプを連想させる、前後の場面のギャップを埋める斬新な発想のような。

指揮(菊地彦典) とオーケストラ(東京フィル)はこの程度だったかなと首を傾げること度々。劇場生え抜きの人だけに、いつもツボは押さえていて安心出るのだが、この日はちょっと。

オーケストラも合併後だんだん悪くなっているんじゃないかな。とにかく木管奏者が…。何がいけないかと言うと音が平板、木管楽器なんて人間の呼吸そのもの、歌と一緒。それなのに呼吸しない、歌わない。このオーケストラは大野和士の下ではとても立派な音を出していたのに、いったいどうしてこうなっちゃったんだろう。

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