びわ湖ホールの「アッティラ」 ~ これは見事な初演
2001/11/3

上野での「ホフマン物語」の翌日、帰省を兼ねて大津まで。我ながら、よくやるよ、という感じ。
 びわ湖ホールでの若杉弘氏によるヴェルディの初演シリーズは、これで4作品目。年に一度、皆勤賞とは言え、東京に転勤となったので、これからは帰省の日程を考えなくては。

キャストは、妻屋秀和、堀内康雄、島崎智子、持木弘、若杉弘指揮の京都市交響楽団、びわ湖ホール声楽アンサンブル、東京オペラシンガーズ、演出は鈴木敬介。

まず、アッティラという主役のバスを歌える人が、日本にも出てきたのには驚きだ。妻屋さんはバスだけあって大柄な体躯、歌も演技も好演と言って差し支えない。ただ、やはり、もう少し声のヴォリュームが欲しいなあという感じも。

島崎さんの歌はきちんとしたもので、優等生的。ただ、冒頭のアリアは、強靱な声で聴衆をノックアウトしないとねえ。ものすごい幅の音域を駆け上るスリリングなところはちょっと迫力不足。コンクールの歌唱ならこれでもいいのだろうが、オペラの舞台じゃちょっと。次のしっとりしたアリアは聴かせたのだが…

堀内さんは、さほど好調でもなかったのか、良いところと、そうでないところの落差がある。いつもの出来には及ばす。持木さんは、けっこう声が出ており、熱演。最後は息切れしたのか、音が出なかったところもあったが。

この時期のヴェルディなら合唱ということになるが、これは素晴らしいもの。東京オペラシンガーズが大津まで出張しているのだから当然かな。私はあまり好まない小澤征爾氏の功績は、このコーラスを編成したことが最大のものかも。

この「アッティラ」という作品、オペラとしては傑作の部類に入れてもよいものなのに、なぜこれまで日本でやらなかったんだろう。歌手を揃えるのが難しかったからか。歌は独唱といい重唱といい、耳慣れたものが連続するのに。

この日のピット、若杉さんのフレージングは、前奏曲を聴いただけで、今日はいい舞台になるという予感があった。短いが素敵な前奏曲、ほんとにヴェルディの息づかいを感じさせる。

そして、場面の多い舞台転換が極めてスムースだし、美術のセンスもいい。新国立劇場と違い、音もなく場面が転換する。音楽の流れが途切れないし、聴く側も集中していく。新国立劇場に足繁く通うようになって、びわ湖ホールの素晴らしさを一層感じる。キャパシティは同じぐらいだが、びわ湖の空間は大きすぎず舞台が近いから一体感がある。何となくミラノスカラ座を彷彿とさせる響きだ。もっとも、スカラほど大きくないから、私がぞっこんのチューリッヒかローマあたりのオペラハウスに肩を並べるかな。ここで、新国立劇場なみのラインアップだと、ほんとに素晴らしいだろうなあ。

この公演からしばらくして、私が読んでいる日経BP社のメールマガジンに、この「アッティラ」についてのコラムが掲載されました(Weekly Rankin' Biztech 2001/11/12 【連載コラム】--超多忙ITビジネス・パーソンへ贈る--オペラの舞台裏--「演出」の秘密) 。書き手は、ミーハー系の音楽評論家(?)加藤浩子という人。

そそっかしい人なのか、「びわ湖ホール」を「琵琶湖ホール」と誤記したり、「西日本でははじめての四面舞台」というやや疑問な表現があったりとご愛敬(同様の機構を持つ愛知芸術劇場のオープンは「びわ湖ホール」より先、ただし名古屋が東日本か西日本かというのは難しい問題)。

彼女は、私と同じ3日の公演を観た翌日、演出家のワークショップに参加したらしく、『たとえば、森のなかと台本に書かれている場面で、焼けこげたような色の剥き出しの幹が林立していたのは、主人公の暴君アッティラの暴虐の様子を象徴するためであり、ローマ時代の「水道橋」を登場させたのは、アッティラに侵略されるローマ帝国の文明を表すため』などという説明を聞いたらしい。ちなみに、私も、彼女同様に水道橋とは気づかずに鑑賞していた。舞台を観ているだけでは、こりゃ判らん。

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