新国立劇場「ドン・カルロ」 ~ 驚きの藤村エボリ
2001/12/9

初日に続いて二度目のドン・カルロ。キャストはカルロとエボリが替わって、他は同じ。と言うことで、まず佐野成宏さんと藤村実穂子さんについて。

公演のチラシ

佐野成宏さん、なかなか健闘だ。たぶん、初めて挑戦する役だと思うし、今日が彼にとって初日、第一幕は硬かったようだ。第一幕ではソロの歌い出しのところの音(言葉)が不明瞭で、気になった。これは舞台ではとても大事なことだ。ブルゾンとの有名なデュエットの終わりに近いところでは、トチリが出てしまう。Vivremo insiemeというフレーズの出が早すぎて、言葉を重ねていた。まあ、気づいた人はあまりいないとは思うけど。

ナマで聴いたのは初めてだが、いいテノールだ。ただ。ちょっとこの役にしては声がリリックかなという気もする。まあ、もともと優柔不断な役柄だから、かえってリリックなほうが似合いかも知れないけど。ちゃんと、ヴェルディの息の長い旋律を、ぶつ切りにせずに歌いきったのは立派。

藤村実穂子さん、この人は大変な才能だ。もっとも、キャストの中では異色な感があり、いわゆるイタリア的な音色ではないが、音楽の読みがとても深い。第三幕第一場の幕切れのアリアは、大変な驚きだった。声の力で押しまくっても充分に大喝采なのに、それをしなかった。こんな歌い方をこの曲で聴いたのは初めてで、衝撃的。ffで歌い出すことが多いのに、この人はmfというか、pぐらい。えっと驚いたが、なるほどドラマの流れや歌詞を、しっかり踏まえたものと納得する。眼から鱗が落ちるようなアリアだった。こんな表現もあるんだ、しかも説得力がある。お客さんも耳が肥えてきている。出演者随一の圧倒的な拍手と歓声でした。すごいメゾが日本人にもいる。

他のメンバーは、初日よりも良いできばえ。やはり、新国立劇場の初日は敬遠した方がいいのかも。オーケストラも少しマシになったが、けっこう指揮者にはブーイングが出ていた。当然のこと。ブルゾンは同じか、初日の方がちょっと良かったかな。大ベテランだけど、現在の力の割には格好つけすぎの感じもするなあ。

初日の東京フィルがあまりにひどかったので、確かめたくて…。オペラと日程が重なっている定期演奏会(サントリーホール)で、事務局の人に訪ねてみた。

「新国立劇場とメンバーをどんなふうに分けているんですか。こんなことを言っては何ですが、ドン・カルロの初日が、特に木管群がひどいと思いましたので…。まさかメジャーとマイナーじゃないとは思うんですけど」
「オーケストラを二つに完全に分けているということではなくて、公演毎に適宜組み合わせは変えています」

今日、新国立劇場で、同じことを劇場関係者に聞いたところ…

「東京フィルの経営サイドでは、企業秘密ということのようで、教えてもらえないのです。新星日響よりは合併東京フィルはレベルが上がっているのですが、定期演奏会と重なるときには質が落ちるということは確かにあります。仕事を沢山取りたいという気持ちもわかるんですが、質が大事だし、考え方を変えて欲しいと思うんですが」
「そうですか。我々聴く側の立場から、もっともの申す必要がありますねえ」

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