新国立劇場「ドン・カルロ」 ~ 千秋楽、二人で全日カバー
2001/12/15

楽日も足を運んで、この公演は三度目。私も好きだなあ。テレビのニュースでも取り上げていたが、新国立劇場で小泉首相に遭遇。ワーグナーでは「リエンツィ」が好きという変人らしく、相当なファンのよう。アナウンサーは半年ぶりとかいうコメントだったが、たぶん前回のオペラはメットの「サムソンとデリラ」のことだろう。昔YKKとか言われていた議員時代、サントリーホールでもこの人を良く見かけたことがある。

公演のチラシ

やはり予想どおり、エボリは藤村さんに配役変更になっていた。出来は素晴らしかったのだが、あのアリアに限っては9日の方が少し良かったかな。最後の音のひと伸びがないのは、中一日で予定外の舞台ということもあったからだろう。もっとも、スコアに当たった訳ではないので、ヴェルディがどう書いているのか。案外、彼女の歌が楽譜に忠実なのかも知れないけど。

ファリーナは6日よりも好調、出だしから惹きつける。春の仮面舞踏会の第一声、Amici miei…で、「おっ、これは」と思ったときと同じ。

スカンディウッツィも9日より良かったかな。ちょうど朝にアイロンをかけながら聴いたCD(シコフ、ヴァネス共演の「アロルド」…これはいい録音)でも、スカンデウッツィの歌だ。やっぱり、いいな、この人。フィリッポ役にはこだわりがある私だけど、これはこれで大したものか。

ブルゾンは同じような感じ。

エリザベッタのマッロークは声量はあるが、やや粗い。私はチェドリンスの完璧にコントロールされた歌の方が好き。それと、私は第一幕第二場のカルロとの長大な二重唱での演技が忘れられない。4階からオペラグラスで覗いていると、カルロが跪くシーン、チェドリンスは上を向いて恍惚の表情を見せる。とても絵になるシーン、あれだけの美人だから、本当にゾクゾクする感じだった。

砂川涼子さんは、ピットか舞台袖で歌ったのかな。佐藤さんとは音の出てくるところが違った感じだった。私も彼女の歌は「イル・カンピエッロ」のときからお気に入りだが、今回はいまいち。これは森麻季さんで聴きたいなあ。あ、そうか、彼女は二期会で、今回は藤原のメンバーが出演。しかし、そんなこと言ってる時代でもないと思うけど。

オーケストラは定期演奏会とのバッティングも終わり、メンバーがだいぶ替わったのか、耳障りなところはなくなった。総合点では楽日が一番かも知れない(ニュースで絶賛していた純ちゃんの耳も確かかな)。

(後日譚)

11月のびわ湖ホールの「アッティラ」で引っ掛かった、加藤浩子さんのコラム、またも問題含みのものが配信された。"「ドン・カルロ」の椿(珍?)事"と題された一文には、千秋楽のバーバラ・ディヴァー降板の原因となった12日の事件についてコメントがあった。

筆者とも首相とも別の公演日に、「ドン・カルロ」を聴きに行った、筆者と仲良しの某音楽評論家は、前代未聞の出来事に遭遇した。
 エボリ公女という役を歌った、あるメゾ・ソプラノ歌手が、「呪わしき美貌」というアリアの前半で「1回カバのような声を出したあげく、クライマックスでとうとう声が出なくなった。すると何ということか、舞台裏からスピーカーを通したとおぼしき『エボリ姫の歌声』が聞こえて来るではありませんか」。
 オイオイ、オペラにスピーカーじゃルール違反だよお、と心中ブーイングしつつ先を読んで、思わず爆笑。「一方、本人も必死で歌おうとして部分的に歌うので、そんなときは二つの声が重なって、しかも微妙にずれてしまう」とあるではないか。想像を絶するとはこのことだ。しかし一瞬のことだったせいか、アリアのあとにはブラヴォーがちゃんと出た、そうである。(ブーイングも一人あったそうな)。
 筆者が聴きに行った初日は、一流の歌手ばかりでそれは素晴らしかったのだけれど、そのハプニングも(滅多に見られないだけに)体験してみたかった、と思ったのでありました。

これは本来の評論でなく、IT関係のメールマガジンのコラムなので、目くじらを立てても仕方ないのだが、安易に他人からの伝聞を書くという行為は、どうかなと思う。ましてや、いちおう自分の専門?の世界についてだから、見識を疑われても仕方ない。

私のメルトモNさんとは、今回の「ドン・カルロ」の全5公演をカバーし、メールで感想をやりとりしたが、問題の12日の公演をご覧になったNさんは、その前にディヴァーの好調な歌を聴いておられるだけに、このアクシデントにはとても同情されていた。実際のところは、声が出なくなって幕の後ろから他の歌手が歌ったとのことだった。エリザベッタ役のチェドリンスか、それともアンダーの人か。

加藤さんのコラムが載ったあと、Nさんと「この人は冷やかし系で、真実オペラを愛していない」なんて嘆いていたが、しばらくして、同じコラムに加藤さんの「お詫び」が掲載された。

1月15日付けのコラムで、新国立劇場の12月公演《ドン・カルロ》で、「スピーカーを通して声が聞こえた」と書いてしまいましたが、スピーカーではなく、別の歌手の声だったというご指摘がありました。事実誤認の軽率と、関係者の方にご迷惑をおかけしたことをお詫びし、またご指摘いただいた方に謝意を表します。

彼女には一面識もないので、人となりは文章から推測するだけですが、意外に素直な女性かも知れません。件のコラムのような軽いタッチの書きものからすると、いわゆる「おっちょこちょい」なのかな。何となく、気になる人ではある。なお、先の指摘は、私でも、Nさんでもない、誰かのようだ。

(追記:ずいぶんあとの後日譚)

不思議なもので、何年か経ってから、加藤浩子さんと仕事で関わりをもつことがあった。打ち合わせを兼ねて一杯飲んだとき、この件も話題になった。思ったとおり、妙なわだかまりもなく、とてもさっぱりした性格の方だ。劇場では彼女とよく顔を合わせることがあり、あれはどうの、これはどうのと、幕間のロビーで話すこともしばしば。

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